【不懂装懂】の知ったかぶりが商機を取り逃がす 部下は信じるなとは
「人主の患いは人を信じるに在り」という韓非子の言葉は、会社で言えばリーダーは部下を信じてはならない、と解されます。性悪説躍如としていて、少なからず抵抗感を持ちますが、実は中国では必須の考え方なのです。
成功のヒント 中国ことわざ・格言
烏白馬角(うはくばかく)
- 中国語:乌白马角 [ wū bái mǎ jiǎo ]
- 出典:燕丹子
- 意味:頭の白い烏(カラス)や、角を持った馬などは存在しない。転じて、絶対にあるはずがないことの例え。
人主の患いは人を信じるに在り
- 中国語:人主之患在于信人 [ Rén zhǔ zhī huàn zài yú xìn rén ]
- 出典:韓非子(备内)
- 意味:君主の憂いは臣下を信じることである。原文ではこの後に、君主が臣下を信じれば臣下に制されてしまう、とあります。つまり、君主は臣下を信じてはならない、という。
百思不解
- 中国語:百思不解 [ bǎi sī bù jiě ]
- 出典:葛仙翁全传
- 意味:何度考えても理解できないとの意。何とも不可解であること。
不懂装懂
- 中国語:不懂装懂 [ bù dǒng zhuāng dǒng ]
- 出典:王朔(我是你爸爸)
- 意味:知ったかぶりをすること。あたかもよく知っているように振舞う。
半瓶醋
- 中国語:半瓶醋 [ bàn píng cù ] (慣用句)
- 出典:杂剧(司马相如题桥记)
- 意味:瓶に半分ほど入っている酢。知識が乏しい、半可通。知ったかぶり。なまかじりの意。(瓶にいっぱい入っている酢は音がしないが,半分しか入っていない場合は音がする.生かじりの者ほど知識をひけらかす、という慣用句。
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わけがわからぬ出来事
高度経済成長の真っ只中の中国。会社の業績も右肩上がりを続けていましたが、更なる営業拡大を目論み、従来はモノクロで作成していた見込み客向けの企画提案書を、カラー化することに。
そこで、当時の大連ではまだまだ珍しいカラープリンターの購入を検討していたちょうどその時、うまい具合に日本の著名事務機メーカーの営業訪問を受けました。早速、見積を依頼。決して安い機械ではありません。売り手側も商機到来とばかりに内心ほくそ笑んだはず。
ところが、待てど暮らせどまったく音信が無く、結局、見積書は届きませんでした。わざわざ日本から売り込みに来たのにもかかわらず、自らチャンスを放棄? それも何の連絡も無く…
「百思不解」、まったくわけがわからん出来事だ! やむを得ず別のメーカーから購入しました。
これはあり得ない
しかし、驚くのはまだ早かった。数年後、何と、同じ会社が再び来社。今度は文書管理を電子化するシステムの売り込みです。
前回とは人は違いますが会社は同じ。「何の面下げて…」と思いつつも、業務を効率化するシステムだということであったので、さっそく提案書の提出を依頼しました。実は、年々顧客が増加するに従い紙資料が増え、早晩に限界が来ることは明白。その課題の解決には「電子化」する以外に無いとの思いからです。
ところが、あろうことか、またもや、提案書が提出されることはありませんでした。なんじゃこれ! 見くびられたのかも?
「烏白馬角」、二度も同じことをやらかしたのは、誰もが知る有名企業。
これでは失敗
いずれの場合も、日本本社から出張してきた日本人マネジャーが、その会社の現地法人の中国社員を伴って訪問をしてきました。
その場で見積書を出すように指示を受けた中国人社員は、「わかりました」と言ったものの、指示の趣旨を実はよく理解していなかったのかもしれません。或いは、見積書や提案書がどのようなものかあまりよくわかっていなかったのか。いずれにしても、上司の手前、知らないとは言えませんので、「半瓶醋」な返事をしたのかもしれません。
一方、出張者も中国のことをよくわかっていないのに、「不懂装懂」とわかったような顔をしていた可能性もあります。詳しい原因は知る由もありませんが…
当時の中国では、日本のように見積書などを作成し交渉するようなまどろっこしいことはせず、カタログや値段表を基に、その場で買い手と値段交渉するのが普通。市場で肉や野菜を買うのも、百万円以上する機材を購入するのも、果ては、会社を買収するのも流れは同じ。
中国との間に立ちはだかる習慣の違いと言葉の壁を意識しないと、中国での仕事は前には進まないことになってしまいます。両者に「半瓶醋」が横たわっていれば、行き違いが生じるのもわかります。
敢えて部下は信じない
どこにでもいる「半可通」と言われる生かじり状態にどう対抗すればよいのか。
ひとつは、例えば、見積書を届けるように部下に指示を出したことに対して、上司は履行状況を確認しなければなりません。中国には「報連相」の習慣はありません。待っていても何の報告も上がっては来ないのです。部下に任せっぱなしや指示の出しっ放しは失敗のもと。
そもそも「人主の患いは人を信じるに在り」との言葉を考慮すべきです。部下を信ずるとコントロールされてしまうので、部下は信用してはならないというのです。日本人にはなかなか理解できないかもしれませんが、これが中国流なのです。
管理者が部下を信じないという考え方で社員に相対すれば、自ずと指示事項が守られているか、履行されているかなど、管理者側からチェックすることができます。
部下を信じないことが結果的には、商機を逃がさないことになり、会社の業績が向上し同時に部下社員の成績にも繋がり、皆がハッピーになるということです。