大連市街の高層ビル群(2017年5月)

 

「一衣帯水」とは、二つのものがきわめて近いことを例えた言葉。その意味するところを理解しなければなりません。圧倒的な歴史を持つ中国。振り子のように改善と悪化を繰り返す日中関係。できる限りその影響を回避し、現地企業を安定して運営することを実現、成功を勝ち取るにはどうすべきか…

 

成功のヒント 中国ことわざ・格言

一衣帯水(いち いたい すい)

  • 中国語:一衣带水    [ yī yī dài shuǐ ]
  • 出典:南史(陈纪下)
  • 意味:細い帯のように、長く狭い川や海峡のこと。二つのものが極めて近いことの例え。
  • 故事:陳の国の王は酒色におぼれ、民は生活に苦しんでいた。それを見た隋の文帝が「私は人民の父母である。帯の様な一本の川(長江のこと)の隔たりがあるというだけで、どうして彼らを救わずにいようか」と言って陳の国を討伐した。

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一帆風順

  • 中国語:一帆风顺   [ yī fān fēng shun ]
  • 出典:清·李渔(怜香伴·僦居)
  • 意味:すべてのことが何の障害もなくうまく運んでいることの例え。順風満帆。

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温柔敦厚

  • 中国語:温柔敦厚   [ wēn róu dūn hòu ]
  • 出典:礼記(经解)
  • 意味:柔和で誠実であること。温厚であること。

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安くして危うきを忘れず(安不忘危)

  • 中国語:安不忘危   [ ān bù wàng wēi ]
  • 出典:易経(系辞下)
  • 意味:安全な時に危難を忘れない、との意。絶えず注意深く警戒心を高くすること。

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弯弯曲曲

  • 中国語:弯弯曲曲   [ wān wān qū qū ]
  • 出典:紅楼夢
  • 意味:曲がりくねって真っ直ぐではないこと。

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序言:序言:【一衣帯水】の中国 成功を引き寄せるための眼目

曲がりくねる両国関係

 近年においては新中国が建国された1949年以降も、日本と中国の国交は断絶したままでしたが、1968年、創価学会池田会長(当時)が日中国交正常化提言を発表。当時は、冷戦下の厳しい国内外の環境の中で発せられたこの提言は、後の国交正常化と条約締結の扉を開いた先見の発言でありました。その4年後(1972年)、日中共同宣言が調印され国交が回復。さらに1978年には日中平和友好条約が調印されました。

 さて、国交を回復したとは言っても、一直線に推移したわけではなく、むしろ「弯弯曲曲」、曲がりくねり日中関係は良くなったり逆戻りしたりの繰り返しでした。

 しかし、日中平和条約締結40周年となる2018年に、何と、両国首脳の相互訪問が再開され、「日中の新たな時代に向け、競争から協調へ」との合意がなされたのです。まるで蜜月のような日中の歩み寄りに、驚き喜ぶとともに一抹の不安がよぎります。次に来るのは関係悪化ではないかという気がかりです。

 

帯のような狭い川

 過去から、日中は「一衣帯水」の隣国同士だと言われてきました。両国を隔てているのは細い一本の帯のようなもの。なるほど、成田や関空から空路約二、三時間もあれば上海や大連といった中国の沿海部に到着します。また、地理的な近さだけでなく、歴史的にも、遣隋使(西暦600年)のころから千年以上に及ぶ関わりがある隣国同士でもあります。

 しかし、隣人であるが故の難しさか、お付き合いは容易ではないようです。その「帯のような狭い川」と言われているのは、チベット高原を水源とする長さ6300キロ、川幅は20キロにも及ぶ中国最大の「長江」という大きな川のことを指しています。上海郊外を流れている長江の川辺に立つと、向う岸は霞んで見えません。感覚は「海」。

 ということですから、「一衣帯水」と言っても、実際には、向こう側とこちら側の隔たりは大きなものがあり、価値観などが違っていてもむしろ当たり前。歴史や文化の深い源を一にする日中両国とはいえ、習慣や考え方など非常に大きな違いがあることもまた現実です。

 

経済発展最中の苦闘

 日中平和友好条約が調印された僅か四カ月後には、対外開放政策が提議されました。これ以後、上海や大連等の沿海部のいくつかの都市に経済技術開発区が設置され、それらが軌道に乗り始めた1900年代には日系企業の中国進出が急増しました。安価で豊富な労働力を活用した生産工場が次々と建設され、また、膨大なマーケットを開拓しようと販売拠点を設けたり、日系企業は沸いていた時期でもありました。

 日系企業ばかりでなく世界中から企業が進出し、中国国内ではものすごい高度成長期が始まり社会が激変、人々の暮らしも年々豊かになっていったのです。そんな現地に勇躍進出した日系企業ですが、必ずしもすべてが「一帆風順」の発展を遂げたわけではありません。

 むしろ、日本とは大きく違う環境に苦闘し、一方で、振り子のように繰り返される政治主導のぎくしゃくに翻弄され、経済発展の最中であっても現地企業の経営は容易ではありませんでした。

 

人から尊敬

 言わば完全アウエーの中で、現地会社の経営の任に当たる総経理(社長)の仕事は、必然的に相当タフなものとなることは明らかです。では、成功を勝ち取るにはどうすればいいのであろうか。

 そのためのヒントのひとつが「温柔敦厚」ということわざに隠れています。柔和で誠実であることを意味する言葉ですが、それは「謙虚」な態度がベースとなっていると理解されます。部下社員や合弁企業のパートナー、政府関係者等々、総経理を取り巻くすべてに接する時の心構えの基本は謙虚であるべきでありましょう。要は自分の成功を望むのであれば、他者のことも同時に考えることができる人になることです。

 その結果、各方面からの支持を得、味方につけることができる。誠実、謙虚、寛容といった人間としての態度は仕事上の能力でもあります。そのような人間としての力は、常に自分を磨き高めていく不断の努力によって成せるところです。他者から尊敬されるようになり、そこにこそ成功への展望が開けてくるというものです。

 

実行すべきは平時の備え

 もう一つの要点は「安くして危うきを忘れず」とのことわざです。

 会社業績が拡大基調が続く状況にあったとしても、突然、困難に直面することがあるので油断はできません。前触れの無い法令発布や運用変更、或いは両国間のぎくしゃくの発生です。友好的に推移していた関係が、突如冷え込むことが過去に何度もありました。

 中でも、政治主導による関係の悪化に際して、民間人は如何になすべきかは、悩ましい問題です。政治が冷めても民間レベルの交流やビジネス面では揺るがないような備えがどうしても必要であり、「平時」である普段から腐心すべきであると言えます。

 端的に言えば、良い状態はいずれぎくしゃくする時が来るであろう、ということです。それは、悪い状態であっても、希望を捨てる必要はないとも言えます。備えをしておけば慌てることはありません。それができる立場にあるのが総経理。安定したビジネス展開の実現は、偏に総経理の双肩にかかっているのです。

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