施策を巡らし【冥思苦索】 知恵を絞る総経理 その結果が思わぬ行動に…
どのようなことであれ、目的を達成するのは容易ではありません。だからこそ、「冥思苦索」、思案を巡らし、知恵を絞り、周囲の理解・協力を得て、諸問題に対応し、妥当な「解」を見い出さねばなりません。
成功のヒント 中国ことわざ・格言
愈いよ上れば則ち愈いよ聾瞽(ろうこ)なり
- 中国語:愈上则愈聋瞽 [ yù shàng zé yù lóng gǔ ]
- 出典:呻吟語
- 意味:地位が高くなれば耳が聞こえなくなり眼が見えなくなる。組織が大きくなれば現場の声はトップに届きにくくなることの例え。
大惑不解
- 中国語:大惑不解 [ dà huò bù jiě ]
- 出典:庄子(天地)
- 意味:理解に苦しむ、納得がいかない。
同心協力
- 中国語:同心协力 [ tóng xīn xié lì ]
- 出典:过秦论
- 意味:共通の目的のために、気持ちをひとつにして協力すること。
冥思苦索
- 中国語:冥思苦索 [ míng sī kǔ suǒ ]
- 出典:诗薮(外编二)
- 意味:深く心を砕き施策する、思案を巡らすこと。知恵を絞る。
記事:施策を巡らし【冥思苦索】 知恵を絞る総経理 その結果が思わぬ行動に…
怪訝なこと
中国で現地法人を運営するために、本社から派遣されていた総経理(社長)が、自らの手で工会を作った。その話を聞いた他の日系企業の総経理等は、「大惑不解」、怪訝な表情をしていた。
そりゃそうです。「工会」とは、中日辞書で調べると「労働組合」とあるのです。
経営者にとって労働組合といえば、時として労使が対立する、どちらかといえば積極的には関わりたくない存在。できることであれば遠ざけたいというのが現地会社総経理の本音であろうことは容易に想像できます。
にもかかわらず、何故、総経理が…というのが怪訝な表情の原因。社会主義の中国に在っては、やむを得なかったのでしょうか。
対立関係ではない
工会の基本的な役割は、従業員間の親睦、生産性向上のための支援、福祉向上等に貢献することで、日本の労働組合とはかなり違います。端的に言えば従業員の更なる幸福を追及すること。それは会社を経営する総経理にとっても思いは同様です。
そもそも、中国は階級の無い社会ですから、労使という概念もありません。会社側、工会側と入り口は異なりますが、目的はどちらも同じ。そうであるなら、「同心協力」、双方が気持ちをひとつにして協力することは、むしろ、目的達成のためには不可欠です。そう、工会と会社は敵対する関係ではなく、協力関係にあるのです。
主席などの役員の立候補を募り、投票日時の設定までを会社側が行いました。そのお膳立ての後、開票以降の作業は彼らが自ら行い、役員を選出し正式に発足させました。その後、正式に工会上部組織への加盟が認められました。
規定のとおり、総経理と人事担当者以外はすべて工会員とし、工会主席にも工会サイドから組織のまとめ訳を担ってもらう体制がスタートしました。
見えない現場
工会を設立しその責任者である主席に、普段から一般社員とのパイプ役を担ってもらうことで、日常の円滑な組織運営に大きく貢献する結果がでました。
例えば、給与改定の場面では、工会主席を通じて一般社員の肌感覚を、また、社員との労働契約更新時には共に協議、時にはリクレーション共同開催など。
呻吟語には「愈いよ上れば則ち愈いよ聾瞽なり」という名言が残されています。
小さな会社とは言っても社員が200人にもなると、トップである総経理には、現場の悩みや想いはなかなか見えてきません。勿論、マネジメントの巧拙はあるでしょうが、総経理には現場の様子が伝わりにくいものです。
必死に絞る智慧
社員にとって、福利待遇やベースアップなどは重大関心事であることは、どの国であっても同じことです。しかし、その「重大関心事」への対応は、総経理にとってある意味で悩ましい問題であることも事実。
軽くあしらっては社員の士気は上がらず、大盤振る舞いしては経営に影響しかねません。特に、年に一度の給与改定に、妥当なアップ幅を見つけることは、外国人総経理にとっては簡単ではありません。
世間相場を参考にしたとしても、それが自社の社員にどう受け止められるのか、わからないのですから。下手をすると見当違いなことにも。
それ以外にも会社方針や施策、特定のキャンペーンなど、全ての社員の支持・協力が必要な場面が多数あり、それらにどう対応すべきか。総経理は必死に「冥思苦索」、知恵を絞らねばなりません。
様々な課題に対する妥当な「解」を見出し、社員をまとめ協力を得るために、工会組織は、総経理にとってチャネルがひとつ増えることになります。
工会も会社も目指すところは同じ。例えば、山の頂上を目指すのに、会社の選んだコース、工会が選んだコース、それぞれ違います。が目指す頂上は同じです。
社員の幸福と会社発展に寄与することができれば、との思いが総経理が工会を設立した発露でありました。工会を設置したことで社員達からも感謝されたことは言うまでもありません。