漢書には【前車の覆るは、後車の戒め】と 何とかしたいバトンパスのロス
独特の社会を成す中国。そこで人が交代するたびにゼロクリアでリスタートする現地日系企業。それ自体が右肩上がりの業績を狙うには、大きなハンディに。何とかバトンロスを防ぎたいところなのだが…
成功のヒント 中国ことわざ・格言
艱苦卓絶
- 中国語:艰苦卓绝 [ jiān kǔ zhuó jué ]
- 出典:宋史(邵雍传)
- 意味:非常に苦しく尋常ではない奮闘の形容。苦難に満ちていて苦しいこと。
司空見慣
- 中国語:司空见惯 [ sī kōng jiàn guàn ]
- 出典:本事詩(情感)
- 意味:日頃から常に目にしていて奇しくない。見慣れている。日常茶飯事との意。「司空」とは建築土木を司る古代の官名。
前車の覆るは、後車の戒め
- 中国語:前车覆,后车戒 [ qián chē fù, hòu chē jiè ]
- 出典:漢書(贾谊传)
- 意味:前の車が覆るのを見たら、後の車は(同じ轍の跡を行かないように)戒めとせよ。転じて、先人の失敗は後人の教訓としなければならない。
踱来踱去(たくらいたくきょ)
- 中国語:踱来踱去 [ duó lái duó qù ]
- 出典:紅楼夢
- 意味:ゆっくりと来て去ること。行ったり来たりすること。行きつ戻りつ。
記事:漢書に【前車の覆るは、後車の戒め】と 何とかしたいバトンパスのロス
当たり前のこと
「司空見慣」とは見慣れた当たり前のことという意味のことわざ。サラリーマンにとって人事異動は、関心事のひとつであり、そして年中行事の如く当たり前に行われています。それは、中国現地会社の総経理(社長)といっても同じこと。本社から派遣されている身分である以上、いつまでもそこに居座ることはできません。
あらかじめ定められていた任期が到来した時、或いは何らかの事由があった時など、総経理が交代することになりますが、実は、そのバトンを渡すときにロスが発生することが少なくありません。現地における、業容拡大を妨げかねない、見えない罠が待ち受けているかもしれないのです。となれば、「日常茶飯事、いつものことだ」とお気楽にスルー出来ないはずです
もちろん、企業における人事異動による適材配置などの、組織マネジメントは欠くことはできないのではあるが…
苦労して得たのに
赴任したばかりのの総経理にとって、人前で部下社員を叱ってはならない、という「中国の常識」は、知るところではない。しかし、それをやらかしてしまったとき、会社内で孤立するかのような気まずい雰囲気に始めてそれを知ることになる。
他にも中国独特の習慣や考え方の不理解が原因で、失敗をひと通り重ね組織マネジメントにおける試行錯誤の結果、中国通といわれるベテランに「成長」します。
大きく異なる環境のなかに突如放り込まれ、予備知識もなく、また相談相手もない。部下には自身の弱みを見せられず、頼りにできるのは自分だけ。それでも会社の業績を伸ばすことに腐心する毎日。
「艱苦卓絶」、苦難の中で積み上げた苦労は筆舌に尽くせない。その一つひとつがレガシーであることは疑いが無い。
総経理交代という異動は悪いことではありませんが、国内異動と同じような感覚で総経理を交代させるのは、貴重なレガシーを途絶えさせることにもなり、それはとても残念なことです。
行きつ戻りつ
兎にも角にも、そうして新任の総経理が着任。高高一週間ほどの引継ぎを行い、前任者はさっさと帰国。ただ、その短期間の引継ぎは、ほとんどが事務的なもので、前任者が艱難の困難の中で得た数々のレガシーは水泡に消え去ってしまいます。
快走していた前任総経理からバトンを受け継いだ新任総経理は、猶のこと慣れない環境に驚くばかりで、思うようには走れません。
その結果、新任の総経理は、「中国初心者」としての苦労を改めて味わうことになります。それは、前任者が歩んできた道をなぞって歩くようなもの。会社の動静グラフはまるで鋸の歯のようなギクシャク型。レガシーが受け継がれていない会社の業績は「踱来踱去」、行きつ戻りつの何とも歯がゆいものとなってしまうのです。
しかし、日本本社では、現地の苦労など知ろうはずもなく、新任総経理に「もっと、しっかりとやれっ!」と檄を飛ばし、彼はそのまま部下に下す。可哀そうなのは、変わらず努力している部下社員達。
どうするバトンパス
漢書には「前車の覆るは、後車の戒め」とあります。先人の失敗は後人の教訓とせよ、との格言ですが、併せて、成功した先人からはそのやり方をまねるがよい、とも理解できます。
バトンを受けたらゼロクリアで一からやり直すロスを避けて、バトンをパスした時点でリスタートがかかるように、考えるべきだと思います。
正式の交代日をもって経営責任は新任者が負い、前任者はすぐに帰国するのではなく、その日から半年ほど現地にとどまり後見の役割を果たす。その間にレガシーを伝える。
例えばそのような仕組みが、独特の社会を成す中国では得策ではないかと考えます。
それには前任者をほんの一時、現地に残し副役職の立場で後任者を補佐するような仕組みを作らねばなりません。ナレッジマネジメントは中国で勝ち抜くためには不可欠です。他方、日本のルールや習慣は時には邪魔になることを理解したいものです。