孫子は【兵は拙速なるを聞く】と 我慢ならないスピード感の無さ
中国で成功を勝ち取るには、まず、日本から派遣された総経理(社長)や、本社の経営サイドが責任を取る覚悟を決めることから始まる。そして、中国の土俵に合ったやる方を選ぶ。そのひとつが「拙速」です。
成功のヒント 中国ことわざ・格言
過ぎる雁の毛を抜く
- 中国語:雁过拔毛 [ yàn guò bá máo ]
- 出典:儿女英雄传
- 意味:飛んでいる雁の羽を抜く、との意。どんな機会も逃さず私利を得ようとすること。転んでもただは起きぬ。
同心同徳
- 中国語:同心同德 [ tóng xīn tóng dé ]
- 出典:書経(泰誓中)
- 意味:考えは統一し、信念が一致する、との意。一心同体で心を合わせること。
破綻百出
- 中国語:破绽百出 [ pò zhàn bǎi chū ]
- 出典:李廷平集·答问下
- 意味:次々とぼろが出ること。
兵は拙速なるを聞く
- 中国語:兵闻拙速 [ bīng wén zhuō sù ]
- 出典:孫子(作戦)
- 意味:少々まずい作戦でもすばやく行動して勝利を得ることが大切である、との意。日本では「兵は拙速を尊ぶ」として知られています。
記事:孫子は【兵は拙速なるを聞く】と 我慢ならないスピード感の無さ
事業成功のため
中国では現地資本と合弁を組んで事業を展開することがたいへん多い。しかしその合弁事業がうまく行っているところは意外と少ない。スタートした時には「同心同徳」と、日中の双方が心を合わせて事業の成功のために、努力しようと確認し合ったはずなのに…
中国での事業の合弁協議は相手方のホーム、つまり日本にとっては完全アウエー。勝手のわからない日本側はどうしても中国ペースでの交渉になってしまいます。
まず互いに握手し共に食事、そして酒を酌み交わし、気持ちがほぐれたところで「では共同で事業を始めましょう」という流れ。その時には共同で事業をするということ以外の詳細は何も決まっていない。
まずはスタートすることが大事、後の具体的なことは走りながら考えるのが中国流。一方日本側は、先に取り決め事を細かく決めた後、意見が一致したところでシャンシャンと手打ちし、スタートするのが常。
細かいところが決まってもいない中国流でスタートを切れないので、本社と相談をするのですが、そのまどろっこしさは中国側には到底理解されません。結局日本側が譲歩して細部があいまいなまま、それこそ見切り発車することに。
噴出するほころび
問題の発生を想定し、それに備えようとする日本に対して、起きるかどうかもわからない問題について、事前に考えるのは時間の無駄であるという中国側。
危うさを孕んだままではあっても笑顔でスタートした日中合弁。すぐには出るわけがない利益に中国側が業を煮やし、我慢できなくなってきたころから、合弁にほころびが出てきます。その後は「破綻百出」と次々に出る合弁のぼろ。日中双方の当事者が険悪ムードに。
ただ、日本側にも問題が。見切り発車であることがわかっていながら、不足部分を補おうとする努力が十分とは言い難いケースも。如何にアウエーであったとしても、合弁相手方から言われっぱなし、見ているだけではどうにもなりません。
ですから、合弁事業のスタート後、遅かれ早かれ様々な問題が起きるのは当然であることを前提として、会社オペレーションを考えるべきだということです。
薄れる疎通
更に御しがたいのは、問題が発生した時に相手方にそのことを質しても、「没问题(問題ないよ!)」で取り付く島もありません。しばらくしても変化が無いので再度質すと「没办法(仕方がないんだ!)」と開き直られておしまい。このころになると、おたがいの疎通も薄れ、利益も出ないし相手方は放置状態。
「雁過抜毛」という中国のことわざがあります。飛び去ろうとする雁の羽を抜く、つまりどんな状況にあっても、私利は確保するというしたたかさを意味します。
うまくいかなかった場合はさっさとその合弁を解消し、独資形態に改めるなり、別の合弁パートナーを見つけるなり、中国側のしたたかさを見倣うことをすればよいということです。
実は中国にも「用意周到」を意味する古来のことわざはいくつもありますから、物事は適当に進めればよいとは言われていないはずです。問題は「用意周到」のレベルをどの程度とするのか、という肌感覚に大きな違いがあるように思います。
合わない日本式
日本の困った習慣はスピード感がないこと。
現地の責任者である総経理(社長)の後ろには日本本社が控えています。一つひとつ本社にお伺いを立てて、しかる後に中国側に回答をするやり方には、即決主義を常とする中国側から見ると、時間を浪費しやることが遅いと言われることになります。更には、中国側が相対している日本側の責任者には何の権限もないと映り、軽く見られてしまいます。
それにしてもこのスピード感の無さは、現地で仕事をしている日本人にとっても如何ともしがたくいら立ちを隠せません。孫子には「兵は拙速を尊ぶ」とあります。戦に際しては、少々まずい作戦でもすばやく行動した方がよい、という意味です。
イラついた中国側は、この共同事業の話がうまくいかなくたって、別にどうということないよ、と一時の熱は冷めてしまい、それが日本側からは「何だよ、中国側は…」というすれ違いとなり、合弁は遠からず破綻の憂き目に。
日本側が日本流のやり方に固執するのではなく、中国土俵にあったやり方を考えるべきでしょう。流動性が大きな社会では「巧遅」よりも「拙速」の方が圧倒的に有利です。
日本から派遣された総経理(社長)、本社の経営サイドが責任を取る覚悟を決める、腹をくくるということが無ければ成功への道は開けません。