【千丈の堤も螻蟻の穴を以て潰ゆ】 小さな相手を見くびるという情けない行動
例えどのような商品であっても、物を販売するのは簡単ではありません。それが、まるで出合い頭のような商機に遭遇した。にも拘らずその商機を自ら放棄した。そんなことがあるのか…
成功のヒント 中国ことわざ・格言
禹行舜趨(うこうしゅんすう)
- 中国語:禹行舜趋 [yǔ xíng shùn qū]
- 出典:荀子(非十二子)
- 意味:禹王のように歩き舜帝のように走る。聖人の動作をまねるだけで実質が無いことの例え。「趨」は、走るの意。
至誠にして動かざる者は、未だ之れ有らざるなり
- 中国語:至诚而不动者,未之有也 [ zhì chéng ér bù dòng zhě, wèi zhī yǒu yě ]
- 出典:孟子
- 意味:こちらが誠意をもって当たれば、相手がどのような人であっても動かすことができる。
石沈大海
- 中国語:石沉大海 [ shí chén dà hǎi ]
- 出典:西厢记
- 意味:石が海に沈む。さっはり音沙汰がないことの例え。梨の礫。
千丈の堤も螻蟻の穴を以て潰ゆ
- 中国語:千丈之堤,以蝼蚁之穴溃 [ qiān zhàng zhī dī, yǐ lóu yǐ zhī xué kuì ]
- 出典:韓非子(喻老)
- 意味:些細な油断や不注意から思いもよらない大事を引き起こすとの例え。
自ら羅網に投ず
- 中国語:自投罗网 [ zì tóu luó wǎng ]
- 出典:三国魏·曹植(野田黄雀行)
- 意味:自ら罠にかかること。
記事:【千丈の堤も螻蟻の穴を以て潰ゆ】 小さな相手を見くびるという情けない行動
こんなことあるのか
高価な事務機を購入するつもりで依頼した見積書が、待てど暮らせど一向に届かない。何じゃこれ…
経済成長の真っ只中にあった当時の中国・大連。一般的な会社では、まだ見かけることが無かったカラープリンター。まだまだ高価ではあったが、会社で購入することにした。顧客に対する提案書をカラー化し、訴求力を高めることが目的であった。
ちょうどそんな時、偶然にも日系のある一流事務機メーカーの中国法人の営業員と、日本本社からの出張者が会社を訪問してきました。
どんぴしゃりのタイミングでしたので、さっそく見積を依頼し、後日届けてもらうことになり、彼からの書面を待つことにしました。
ところが一週間たち十日経っても、「石沈大海」、何の音沙汰もありません。届き次第、購入決裁するつもりだったのに。
已む無く大連にある別の日系事務機メーカーのカラープリンターを購入しました。我が社は大連で第一号のカラープリンターユーザーであったと聞きました。
再びの訪問
その事務機メーカーからは、その後も何の連絡もありませんでした。そして数年が経ち、再び突然の訪問がありました。
何らの臆面も無かったようなので、前回の出来事を指摘、日本本社の担当の方からは、丁寧なあいさつとともに不首尾を詫びる言葉がありました。
そこで、今回は紙ファイルによる顧客データの保管方法に関する改善策を提案してもらうことにしました。
ところがまたもやその日を最後に連絡が来ることはありませんでした。実は「禹行舜趨」、表向きの態度は礼儀正しく丁寧ですが、うわべだけで中身が乏しいと言わざるを得ません。
その事務機メーカーから見れば、ちっぽけな会社であったかもしれませんが、あまりにも無礼な対応に、がっかりしました。
無責任仕事
日本本社から出張者は、現地の状況をよく知りもしないで、ただ見下すことが間々あるようです。こちらに向かっては慇懃な態度ではあるが、同行の現地部下社員には尊大な態度で「ちゃんとやっておけ!」と。
きっと、その後はフォローする事も無く、放りっぱなしの無責任仕事。現地を甘く見たのか、或いは見くびったのかはわかりませんが、そこには誠意はあまり感じられません。
「至誠にして動かざる者は、未だ之れ有らざるなり」とあるのですから、部下にもきちんと対応しておけば、見積書不着などといった、考えられない初歩的ミスは起こらなかったであろう。
時間とお金をかけて、わざわざ日本から営業活動のために訪中し、この会社に先進の自社製品を売り込みに行こうと、部下を伴って来社したのであろうけれど、結果は、「自投羅網」、自ら見込み客側に不快感だけを与えに来たようなもの。そして去っていった。
大丈夫かこの会社
それにしても、二度も商機をみすみす逸したその会社。日本人なら誰もが知る著名大企業ではあるが、それがこの程度では、同じ日系企業として大丈夫かと、当時は心配したものです。
「千丈の堤も螻蟻の穴を以て潰ゆ」と言われるように、外見ではたいそう頑丈に見えていても、蟻があけた小さな穴ひとつで、崩れ去ってしまう。怖い言葉です。
特に、口コミが幅を利かすこの社会では、例え意図的ではないにせよ、相手を侮っていては足元をすくわれることになりかねません。ライオンは小さな兎を捕まえるときにでも、一旦は一歩下がり勢いをつけて跳びかかるそうです。
常に謙虚さと誠実さを持ち、たとえ相手が小さくとも侮らず、真摯な態度で臨むべきであるという基本を忘れないようにしたいものです。