【先入の語を以て主と為す無かれ】 自らの不明を恥じる驚きの結果が

瀋陽・故宮(2013年5月)

 

絶対に成功しないと思った総経理(社長)人事。勿論、それなりの理由があってのこと。ところが…

 

成功のヒント 中国ことわざ・格言

一竅不通(いっきょうふつう)

  • 中国語:一窍不通   [ yī qiào bù tōng ]
  • 出典:吕氏春秋(贵直论·过理)
  • 意味:物事の勘所に通じていないこと。少しもわかっていない、ちんぷんかんぷんであること。

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国は賢を任じ能を使うを以て興る

  • 中国語:国以任贤使能而兴   [ guó yǐ rèn xián shǐ néng ér xìng ]
  • 出典:王安石(興賢)
  • 意味:国というものは賢明で能力のある人を任用すれば栄える。この後に「弃贤专己而衰」(賢明な人を棄てて自分勝手な人であれば国は衰える)という言葉が続いています。

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先入の語を以て主と為す無かれ

  • 中国語:无以先入之语为主   [ wú yǐ xiān rù zhī yǔ wéi zhǔ ]
  • 出典:漢書(息夫躬传)
  • 意味:先に聞いた言葉にとらわれて、後から聞いた別の意見を聞き入れないようになってはならない、との意。先入観や固定観念にとらわれることを戒めた言葉。

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操之過急

  • 中国語:操之过急   [ cāo zhī guò jí ]
  • 出典:漢書(五行志中之下)
  • 意味:問題解決のために焦り過ぎること。やり方が急ぎすぎること。

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咄咄怪事(とつとつかいじ)

  • 中国語:咄咄怪事   [ duō duō guài shì ]
  • 出典:宋・杨万里(明发栖隐寺)
  • 意味:咄咄とは驚きいぶかる声。奇々怪々なこと。奇怪千万なこと。

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記事:【先入の語を以て主と為す無かれ】自らの不明を恥じる驚きの結果が

素人に何ができる

 中国のある日系企業現地法人の総経理(社長)候補であった中国人の彼。以前から彼を知る立場から言えば、会社のトップに据えるなんて、それだけはやめた方がよいとの思いでした。

 理由のひとつが、がさつな性格。とても日系企業の代表者としての細やかさは微塵も感じられません。それに、地方政府に長年勤めたあと、民間企業に転身する事になり、そんなつぶしが効くとは思えない。

 何より、会社組織におけるマネジメントなど、全く経験が無く「一竅不通」、ちんぷんかんぷん。そんな素人に何ができるのか。

現地の日系企業の経営責任者としてヘッドハンティングする対象者としては、最も遠いところにあると思えました。

 

出だしはよい

 一般的に言っても、中国市場を開拓するために現地に会社を立ち上げ、経営は現地人材に任せるのが得策と考える日本側本社経営層は多くいます。中国市場を理解している、現地に人脈がある等々もっともな理由を持ち出すのですが、「操之過急」、その考えはいささか早計に過ぎます。

 最初はなかなかの滑り出しでよいのですが、それが続かないことが多く、だんだん変形し社内にも問題が溜まってきます。その内、看板だけは外資企業、中身はローカル会社状態になってしまうことになります。そんな失敗作がどれだけあったことか。

 

思いがけないことが

 そんな危惧を抱いていたが、日本側は「現地化」方針に拘ったのか、彼を総経理に任命することに決定。その現法はこれで終わった、と内心思ったのですが…

 咄咄怪事」、思いがけないことが出現したのです。

 彼が采配を振るい始めた頃、会社の幹部社員達は入社後すでに5年ほど経過しており、業務に対しては圧倒的に精通していました。

 そんな環境でも、彼は会社理念や商品について懸命に学んだに違いありません。社内ではいつの間にか幹部社員を指導するほどツボを押さえていました。

 さらに、新施策を次々と打ち出し、部下社員達の心を掴んだのです。彼の起用は大成功。総経理としての彼の手によって現法は順調な成長を続けました。

 

ひときわの存在

 彼は就任後、日本本社をそれほども気にせず、それでいて基本理念は守りつつも新しい独自策を打ってきました。その柔軟思考は斬新さに満ちていました。

 与えられた枠の中でしか物事を考えない、冒険なんてとんでもないと思っている、不作為の日本人総経理が多い中で、彼の存在はひときわ光ります。

 日本人は何年かしたら日本へ帰ります。だから失点をしないように考える。中国人総経理である彼は如何にして得点を挙げるかを考える。彼には逃げ帰る場所はないのです。

 国は賢を任じ能を使うを以て興る」という格言は、何も国だけではなく会社組織にとっても同じなのです。人種や国籍は何の関係も無いといえます。

 

肝に銘ずべき言葉

 これほどの成功を収めるとは思ってもいなかった不明を恥じるところとなりました。

 部下社員達には「先入の語を以て主と為す無かれ」と指導しておきながら、自身が先入観にとらわれていたということです。

 当初の不明を詫び、その後の活躍を讃える気持ちを、彼に直接伝え、もやもやを解消することができました。先入観を持つ事の危うさを知らされた一件となりました。

 何人かの社員と接し、彼は部下の社員達が働きやすい環境を作り、もって業績の向上を目指していることがよくわかりました。実は自分の考え方と共通するところがいくつもあったのです。

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