【欲は縦にすべからず】 権力が集中する総経理には特に必要なことがある

大連・中山広場(2018年5月)
中国現地会社の総経理(社長)には、権力が集中する。そして、縦社会に在って意見する社員も無い。だからこそ必要になるのが…
成功のヒント 中国ことわざ・格言
佚道(いつどう)を以て民を使えば、労すと雖も怨まず
- 中国語:以佚道使民,虽劳不怨 [ yǐ yì dào shǐ mín, suī láo bù yuan ]
- 出典:孟子(尽心上)
- 意味:人々がより安楽な生活を送れるようにと人々を使えば、人民は苦労をしても怨むことはない。
從心所欲
- 中国語:从心所欲 [ cóng xīn suǒ yù ]
- 出典:論語(为政)
- 意味:好き勝手に振る舞うこと。やりたい放題のことをする。
真偽莫辨
- 中国語:真伪莫辨 [ zhēn wěi mò biàn ]
- 出典:隋書(经籍志一)
- 意味:真偽の区別がはっきりしないこと、信憑性の見分けがつかない。
視る而して見ず
- 中国語:视而不见 [ shì ér bù jiàn ]
- 出典:礼记(大学)
- 意味:不注意であること。転じて、見て見ぬふりをする。無関心を装うこと。
欲は縦(ほしいまま)にすべからず
- 中国語:欲不可纵 [ yù bù kě zòng ]
- 出典:礼記(曲礼上)
- 原文:傲不可长,欲不可从,志不可满,乐不可极〈傲りは長(ちょう)ずべからず、欲は從(ほしいまま)にすべからず、志は満(み)たしむべからず、楽しみは極(きわ)むべからず〉
- 意味:自分の欲だけを満たそうとしてはならない。
記事:【欲は縦にすべからず】 権力が集中する総経理には特に必要なことがある
密告の手紙
「〇〇課長は、陰でこんな悪いことをしている」といった内容の密告の手紙やメールを貰ったことが何回かありました。
大抵は匿名であったので、手紙に書かれている内容は「真偽莫辨」、何とも判じ難いものばかりです。ひょっとしたら、自分の上司を引きずり落そうと画策している類のものかもしれません。
しかし、内々で調査し、その結果、事の真偽のほどがわからなかったとしても、少なくとも悪事を働こうとする者に対する牽制の効果はあるはずです。
総経理の悪事
総経理(社長)が采配を振るう事ができる範囲であればまだしも、総経理自身が悪事に及んだ場合は大変です。
総経理が出入り業者からリベートを要求したり、会社の金を私的に流用したり、その種の悪事はいつかは社員たちの知るところとなるのです。
しかし困ったことに、そのことを咎める部下はなかなかいません。大方は陰でこそこそとうわさ話をするのがせいぜいのところ。「視る而して見ず」というのが現実。
縦社会が特徴の中国社会。会社でいえば総経理に阿(おもね)る社員がいても、文句や意見を言う社員はいないのです。
悪行三昧を続ける総経理の下では社員達の士気が上がる訳はなく、業績もじり貧。疑問を感じた本社は監査と称して現地に入り、ようやく実態を知ることになります。その結果、総経理は更迭され帰国の憂き目にあい一巻の終わり。勝者のいない悲劇の結末です。
箍が外れると
中国では社長に相当する総経理は、「総」がついているだけあって会社のすべての権力を集中して握っています。であるからこそ即断即決ができるというものです。日本人にはとても真似はできません。
しかしながら、それとは裏腹に総経理が思った通りに好きなようにできるわけですから、総経理の箍(タガ)が一つ外れると暴走が始まり、その頃には「從心所欲」、とんでもないことになってしまいます。
勿論、日系企業にはコンプライアンスの一環として「内部通報制度」が設けられるようになりました。しかし、中国現地の日系企業に勤務する中国人社員にとっては、日本本社に「通報」することは結構敷居が高いと思われます
そもそも、権力が集中している、それに文句を言う部下はいない、そういう構造の中にあっては、総経理自身の自己規制がどうしても必要になります。
自己管理は誰のため
総経理と言っても所詮は一人の人間ですから、楽しい人生を送りたいと思うのは自然なことです。日本では平凡な社員であったとしても、総経理として中国へ派遣されてからは、それまでは考えられなかった「楽しいこと」を満喫しようとすればできる立場です。
であるからこそ、「欲は縦(ほしいまま)にすべからず」との言葉を肝に銘じるべきです。やりたい放題やろうと思えばできる環境の中にあって、自己規制するのは大変ですが、それができるか否かが総経理としての品格ではないでしょうか。何としても自己規制をしなければ自身はおろか家族、社員など周囲のすべてが不幸になってしまいます。
会社は社員のモノでも
そもそも会社経営者として考えるべきことは、社員達がより豊かな生活ができるようになるには如何にすべきか、ということです。「佚道を以て民を使えば、労すと雖も怨まず」という格言のように。
つまり、会社は総経理(社長)だけのものではなく社員のものでもあると考えることができます。
そう考えると、権力を集中していているからと言って、何でも好きなようにするのではなく、ほどほどにしなければならないと言えるのではないでしょうか。
会社のトップをコントロールできるのは、トップ自身のみだということです。それを実現するために総経理たるもの常に自分を磨き高める努力と、高い倫理観が求められます。内部通報制度のお世話になることのないように…