【利の在る所皆孟賁となる】との諺 拝金主義の社会でどう采配をとるか

上げ膳据え膳のパンダに羨望の声?(中国・成都2011年4月)

 

今の時代、拝金主義を否定したのでは社員は一歩も動かない。一方、推進すると、暴走が始まる。はてさて…

 

成功のヒント 中国ことわざ・格言

牛に対(むかい)て琴を弾く

  • 中国語:对牛弹琴   [ duì niú tán qín ]
  • 出典:理惑论
  • 意味:牛に琴を弾いて聞かせる。言い聞かせても、その価値がわからないことの例え。

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各(おのおの)利弊有り

  • 中国語:各有利弊   [ gè yǒu lì bì ]
  • 出典:论党内斗争
  • 意味:それぞれ、利もあれば害もある。

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隔靴掻痒

  • 中国語:隔靴搔痒   [ gé xuē sāo yǎng ]
  • 出典:沧浪诗语(诗法)
  • 意味:靴の上からでは足の痒い所が上手く掻けない。転じて、自分の思い通りにならずにもどかしいことの例え。

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油頭滑脳

  • 中国語:油头滑脑   [ yóu tóu huá nǎo ]
  • 出典:红旗谱
  • 意味:軽薄で要領がよくずる賢いことの例え。

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利の在る所、則ち其の悪(にく)む所を忘れ、皆孟賁(もうほん)となる

  • 中国語:利之所在,则忘其所恶,皆为孟賁   [ lì zhī suǒ zài, zé wàng qí suǒ è, jiē wèi mèng bì ]
  • 出典:韓非子
  • 意味:自分に利益があるとなれば、誰でも勇猛果敢になるものだ、という考え方。(「孟賁」とは、秦の勇者の名前)
  • 韓非子は、「人を動かしているのは仁や義、愛、名誉などではなく、ただ「利」のみである。よって、利益さえ示してやれば人間を思うがままに動かすことができる」と言う。

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記事:【利の在る所皆孟賁となる】との諺 拝金主義の社会でどう采配をとるか

情けない出来事

 ある日、とある顧客から感謝の手紙が届いた。「貴社の〇〇〇という社員の素晴らしい対応に感動した。ついては是非、彼を表彰してあげてください」という内容。

 一見うれしい便りではあるが、なんとなく怪しい。でき過ぎの内容に思える。そこで調べてみると、その社員が仕組んだ「やらせ」であったことがわかった。

 金一封欲しさの「油頭滑脳」の企てで、開いた口がふさがらない、情けなくもある出来事であった。

 彼がそんなとんでもない企てを思いついたのにはひとつの背景があった。

 それは「顧客を感動させるような高いレベルのサービスを提供しよう」という戦略を社内で実施したことです。

 実際に、懸命に努力をしたということで、顧客から感謝状に当たる红旗を貰ったこともあった。そんな時にはその社員を表彰し、金一封を贈っていた。それを見て姑息な方法を思いついたのであろう。

 

大号令に動かず

 総経理(社長)が、社員のみんなに「全員で新規顧客を開拓しよう!」と号令を発した。しかし、誰一人動かなかった。

 営業を専門的に行う部門以外の、事務系社員やサービスを顧客に提供する業務部門など、直接営業には関わらない部門の社員も、可能な範囲で新規顧客の開拓に努めよう、という趣旨で訴えかけをしたのですが…

 牛に対て琴を弾く」と言えば、社員を牛に例えて失礼とは思うが、反応は期待に反して皆無であった。

 日本とは違い、それぞれの社員と会社が労働契約を結んでいる中国では、社員は自分の担当する仕事の範囲にはとても敏感。労働契約書には、営業部門以外の社員の職掌の中には「営業」という文字はありません。彼らにとっては契約に書いていないことをする義務はないのです。

 

報奨金に反応

 声を大にして「みんなで協力して会社の業績を上げると、皆さんの給与も上がります」などと、動機づけをしても鈍い反応しかなく、この施策は失敗に終わりました。

 ならば、本来業務外での新規顧客開拓の成果にインセンティブを付けてはどうか。成果に対応した報奨金を出すことにしたら、たちまち自信のある社員が動き出しました。

 営業部門以外の社員にとっては、報奨金はいわば余禄。気の利いた社員は、親戚や友人を巻き込んで情報を入手し成果を出すような猛者も。

 韓非子は「利の在る所、皆孟賁となる」と。利益さえ示してやれば人間を思うがままに動かすことができる、というのであるが、その良し悪しは別として、的を得ている現実がわかります。

 

暴走が始まった

 報奨金の「威力」で社員たちは動き出した。ようし、これでうまくいくぞ、と喜んだのもつかの間、あり得ないことが…。

 何と、今度は自分の本来業務をほったらかしにして、「営業」に打ち込む者が出てきたのです。明らかな報奨金狙いです。成果を横取りされた営業本業の社員も。社内にも不満がくすぶるようになってきました。

 単なる顕彰だけでは人は動かない。報奨金というお金を使えば、意図したような社員の動きが出てくる。しかし、無視できない副作用も起きる。「隔靴掻痒」、思い通りにならずにもどかしい限りである。

 

毒か薬か

 結局のところ、無難な落としどころは、それぞれの社員が自身の本来業務を通じて、顧客の開拓に貢献するということ。地味でインパクトには欠けますが。中国では、コストをかけずに業績だけを伸ばす、などといううまい話はありません。

 人は「利益で動く」のであるならば、どのように「利益」を絡ませるのか、よくよく考えなければなりません。

 各(おのおの)利弊有り」と、物事には良い面と良くない面があるということです。

 拝金主義を否定するのではなく、毒にもなり薬にもなるお金の使い方や匙加減に、気を払う。そこは総経理の知恵の出し所。そう心得ることが欠かせません。

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