【標新立異】感動の恩返しと思いきや… 主流の個人主義にどう対応する
将来を嘱望される優秀人材から、思いもかけず退職申し出が。話を聞いてみると人を感動させる理由があった。しかし…
成功のヒント 中国ことわざ・格言
往く者は追わず
- 中国語:往者不追 [ wǎng zhě bù zhuī ]
- 出典:孟子(尽心下)
- 意味:去っていく者は追わずに去るに任せる。一緒にやる気のない者を引き止めない。
投桃报李
- 中国語:投桃报李 [ tóu táo bào lǐ ]
- 出典:詩経(大雅·抑)
- 原文:投我以桃,报之以李。(我に投ずるに桃を以ってすれば、之に報いるに李を以ってす)
- 意味:人から桃を贈られたならば、李をもってお返しをする。親しい付き合いの例え。人から受けた恩は忘れずにいて、お返しができるようになったらお返しをすること。
徒労無功
- 中国語:徒劳无功 [ tú láo wú gong ]
- 出典:庄子(天運)
- 意味:無駄骨を折って効果がないこと。徒労に帰す。
熱泪盈眶
- 中国語:热泪盈眶 [ rè lèi yíng kuàng ]
- 出典:邹韬奋(我的母亲)
- 意味:感動により熱い涙が目にあふれること。
標新立異
- 中国語:标新立异 [ biāo xīn lì yì ]
- 出典:刘义庆(世说新语·文学)
- 意味:意識的に目新しい考え方を提議し、他の人とは異なることを表すこと。
記事:【標新立異】感動の恩返しと思いきや… 主流の個人主義にどう対応する
熱く語った思い
中国・遼寧省の省都である瀋陽市に支店を出して2~3年後のこと。瀋陽支店の次期責任者と目された優秀な社員から突然、退職の申し出がありました。彼は瀋陽現地で採用した社員で、流暢に日本語と韓国語を操るとても優れた社員で、将来が期待されていました。
退職理由について、「若いころに兄から学費などの援助を受けた。そのおかげで今の自分がある。その兄が、独立し飲食店を開業することになった。今度は、自分が兄を助けなければならない。よって退職したい」と。
「投桃报李」、兄から受けた恩を忘れずにいて、そのお返しができるようになったのだと彼は熱く語りました。
臆面も無く
中国人は親や兄弟など家族思いの人が多い。彼の兄を思う気持ちと、恩返しの義理堅い考えに思わず感動し、励ましとともに成功を願って彼を送り出すことにしました。
そして、その約2カ月後、彼からの突然の電話。「今、○○という外資系の保険会社で仕事をしている。あなたにも保険をおすすめしたい」との営業のアプローチ。
「…?」、暫し絶句し、あの時の感動が一瞬で色褪せてしまった。
事の次第はこうです。
彼は、条件の良い外資系保険会社に入社することを決意した。そのためには、まず、会社との間で締結されていた労働契約を中途解約しなければなりません。そこで心配なことが会社側から違約金を請求されはしないか、ということです。
そこで思いついたのが、「熱泪盈眶」、兄思いのお涙頂戴の物語。
間違っても、他社の方が給料が高いから、なんてことを退職理由にすると、場合によって請求されかねない違約金。その懸念を回避したかったのでありましょう。
まんまと一杯食わされたということ。それにしても、何と臆面もないことか。
一緒にやる気が無い
個人で起業するという夢をかなえるため、との表向きの理由で辞めた社員、勉強に専念するといって辞めて、二倍の給料を出す会社に行った社員など、実はその手の話はいくらも例があります。
ひどい場合は新しい会社との契約を済ませた後で退職を申し出てくるケースもありました。理由は別にして、彼らが退職を申し出た時には、既に心を決めた後。「往く者は追わず」、翻意を求める慰留など無理というもの。辞めてもらっていいではないか。
自己中心
仕事をするときには、普通の社員であれば会社側の言うことをハイハイと聞いています。が、それは表面的に合わせているだけ。実際には、自分の利益について一生懸命に考えているのです。
そして、他に条件の良い働き口を見つけたら、いろんなことを言いながら退職していく。人の期待や都合などお構いなしで、さっさと辞めていきます。
それを見ると、何と個人主義で自己中心なのかと呆れます。それでも個人主義はよくない、とばかり、社員に対しては、日系企業で働いているのだから、日系企業の社員らしく、個ではなくチームワークで競争に勝とう、皆で団結しよう、などと言ったりもします。
中には、実際に団結できる社員に変えようと説教を繰り返す日本人総経理(社長)も。しかしそれは残念ながら「徒労無功」というもの。数千年の長い歴史の中で培われてきた考え方を、突如やって来た一人の日本人が変えられるわけがありません。
個人主義に対抗
ではどうすればよいのか。
同僚である中国人社員からも嫌われる自己中心の考え方は論外であるが、個人主義という考え方について再考すべきではないだろうか。 個人主義に対して良い印象を持たない日本人にとって、「標新立異」、新しい考え方を打ち出してもよいのではないか。
個人主義が悪い悪いといっても実は何も変わらない。中国で仕事をする以上、むしろ、持てる力を発揮するのであれば個人主義でいいじゃないか、と考えた方が現実的です。
大事なことは、個人主義者に負けないマネジメントを行うこと。その論理と対抗施策を総経理はしっかりと考え、マネジメントする。中国ではそれをしない管理者の方が悪い。
日本人は、例えば二人が団結して1+1=2プラスαを求める。中国では、強大な力を持つ二頭の龍をリーダーが直接管理して、相応の答えを出す。いわば、「個」を前提にして物事を考えるのが中国。中国でのマネジメントは日本国内でのそれとは明らかに違います。
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