海千山千の管理者こそが【順手牽羊】に対抗できる
将来を嘱望され、信頼していた優秀な幹部社員から突然の退職申し出。理由は自身の起業。そして…
成功のヒント 中国ことわざ・格言
順手牽羊
- 中国語:顺手牵羊 [ shùn shǒu qiān yang ]
- 出典:兵法三十六計
- 意味:機に乗じて他人の羊を連れ去ること。敵の統制の隙を突き、悟られないように細かく損害を与える。小さくても隙を見つけたら必ずそれに乗じて、小さな利益をも獲得する。事のついでに他人の物を持ち去ることの例え。
得寸進尺
- 中国語:得寸进尺 [ dé cùn jìn chǐ ]
- 出典:老子(道德经)
- 意味:一寸進んだら次は一尺進もうとする。欲望は止まるところが無いことの例え。
白手もて家を起こす
- 中国語:白手起家 [ bái shǒu qǐ jiā ]
- 出典:谢觉哉(一支不平凡的生产队伍)
- 意味:無一文から事業を起こすこと。
歯に掛けるに足らず(不足掛歯)
- 中国語:不足挂齿 [ bù zú guà chǐ ]
- 出典:史記(刘敬叔孙通列传)
- 意味:歯牙に掛けるに足りない。歯牙にもかけない。問題にならないことの例え。
老奸巨猾
- 中国語:老奸巨猾 [ lǎo jiān jù huá ]
- 出典:资治通鉴唐玄宗开元二十四年
- 意味:世故にたけ老獪この上ない。海千山千であること。
記事:海千山千の管理者こそが【順手牽羊】に対抗できる
勿体無い
有名チェーン店の加盟店として繁盛していたとあるコーヒーショップ。突然改装工事が始まったと思ったら今までの看板を下ろし、似たようなロゴを掲げて営業を再開。つまりパクリ。しかし、そんな光景はそれほど珍しいことではありません。
その裏側には何があるのでしょうか…
最初は有名店の看板と店舗経営ノウハウをもって始めたはずですが、経営が順調に進んでいくと、売上高に応じて支払わなければならないロイヤリティが不条理と思えてくるようです。あるいはもったいないと。
人間にとって欲望は「得寸進尺」、際限がないというように、商売が軌道に乗り儲かりだすと、もっともっとと感じるのは人間として仕方がないことだともいえます。
河童の屁
ロイヤリティを得ることを事業の柱の一つとしている企業においては、フランチャイジーが途中で離脱しノウハウが流出することは、織り込み済みであるのかもしれません。
しかしそうではない場合、例えば自社の社員、それもノウハウを体で理解しているベテラン社員が退職をするに至っては少し事情が異なります。
もちろんそういったケースでは、守秘義務を課す文書を取り交わしはしますが、実効性は疑問です。
一般的に、元々帰属心が薄い彼らに退職後に守秘義務を守ることは期待できません。「上に指示あれば下に対策あり」という社会に生きてきた彼らにとって、会社を辞めてからの守秘義務への対応などは「不足掛歯」だといえます。
それに、仮にも彼らとの間でもめ事が発生し、それを係争したところで日系企業対一個人という争いの構図からは、残念ではありますが勝ちは到底望めそうにありません。
甘い懐
実は、信頼をしていたあるベテラン幹部社員から、会社を辞めたいと申し出があった時にはことのほか驚きました。
勿論、慰留しようと思い、直接話を聞いたときのことです。彼は、長年の夢であった起業を目指したい、家族にももっといい暮らしをさせてやりたい、と言いました。
若い中国人の多くが無一文であっても「白手起家」と将来の成功を夢見ているのです。彼の熱い思いに絆され、そして、我が社とは競合しないとの彼の言葉を信じて、それ以上の慰留を止め、送り出すことにしました。信頼していた故に守秘義務契約もしませんでした。
しかしその後、彼は我が社と競合する起業をしたのです。自分の懐の甘さを反省する所となりました。
自社の防衛
そんな卑怯とも言えることなどあるのかと思いますが、実は正々堂々というのは日本国内だけの話。
従って、会社を経営し運営している幹部は、「順手牽羊」というようなことが、自社内でも起きるかもしれないことを前提にして、マネジメントを行い自社の防衛を考えるべきだといえます。何しろ、この言葉は千年以上も前からずっと常用されてきた言葉なのですから。
語感は良くないが
日本の本社から派遣された場合、或は自身で一念発起、現地で起業した場合、立場は違っても持てる力を出し切って成功に向かってまっしぐら。そんな気持ちはよく理解できますが、只先頭に立って猛進するだけでは、思いもしなかったことが起きた時にたちまち頓挫してしまいかねません。
一筋縄ではいかないのが中国。中国古典にある「老奸巨猾」という少々語感のよくない言葉。人から老獪な奴だなどといわれるくらい、海戦山千の経営トップでありたいものです。
会社を発展させ、社員やその家族を守るためにも。語感は今ひとつですが、ある意味で誉め言葉ではないでしょうか。