論語には【一を聞いて十を知る】とあるが 一一言わなければ通じないぞ

大連・中山広場のイルミネーション(2017年5月)

「いちいち言わなくてもわかるだろう!」と力んでみても、現実はなかなか難しい。何しろ、環境も習慣も違うのだから。むしろ面倒がらず、考えられることを前もって「いちいち」網羅しておくことが、解決策になる。

 

成功のヒント 中国ことわざ・格言

一を聞いて十を知る

  • 中国語:闻一知十   [ wén yī zhī shí ]
  • 出典:論語(公治長)
  • 意味:物事の一端を聞いただけで、全体を理解すること。

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心の欲する所に従えども矩(のり)を踰(こ)えず

  • 中国語:从心所欲,不逾矩   [ cóng xīn suǒ yù, bù yú jǔ ]
  • 出典:論語(為政)
  • 意味:好き勝手に振舞っても、道徳や規律から外れることはしない、との意。「矩」は規則・おきて、「踰える」は超えるということ。
  • 原文:孔子の論語の中の一節。「吾十有五而志于学,三十而立,四十而不惑,五十而知天命,六十而耳顺,七十而从心所欲,不逾矩」(吾、十五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳順う。七十にして心の欲する所に従えども、矩をこえず)

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強きを抑え弱きを扶(たす)く

  • 中国語:抑强扶弱   [ yì qiáng fú ruò ]
  • 出典:越绝书(外传本事)
  • 意味:強暴を抑制し弱小を扶けること。

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不言自明

  • 中国語:不言自明   [ bù yán zì míng ]
  • 出典:孟子(尽心上)
  • 意味:ものを言わなくてもはっきりしている。言わずもがな。

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記事:論語には【一を聞いて十を知る】とあるが 一一言わなければ通じないぞ

 

言わずもがな

 中国現地会社の、とある社員が酒気を帯びて出勤してきた。何と不謹慎な行動か。会社は彼に対して仕事に就くことを禁じ、制裁を科すことにしました。

 しかし、彼は制裁を受けることに対して同意せず、納得もしません。理由は、会社の就業規則に「酒気を帯びて勤務してはならない」とは書いていない、つまり、自分は就業規則違反を犯したわけではないのに、制裁される謂れはないというではないか。

 酒を飲んで勤務についてはいけないことくらいは、社員としての、いわば「不言自明」の常識であり、それを破ったのだから当然ながら制裁対象となる、というのが会社側の至極普通の見解です。

 

判官びいき

 思いもよらない抵抗に会って呆れている間に、何と彼は紛争としてその解決を調停に持ち込んだのです。

 そうなると社員(個人)対会社の対立構図となり、会社にとっては少々厄介です。なぜなら、「法」による判断とは少し異なり、むしろ「情」のウエイトが高まるように思えるところがあるからです。

 抑强扶弱強きを抑え弱きを扶く)」とのことわざが、一種の大義名分となり、強者(会社)が弱者(社員)をいじめるのはよくないという、判官びいきの判断をされてしまう。結局、個人と法人(会社)が争うと、事実関係とは別のところで、勝つのは大抵の場合個人ということに。

 

矩をこえずと言われても

 「判官びいき」の問題と合わせて考えなければならないことが、「ふさわしくない」という言葉に孕んでいます。会社の就業規則によくあるのが「〇〇会社の社員としてふさわしくない言動は禁止する」という表現。

 調停の場で考えられることは、「社員としてふさわしい言動か否かは、それぞれ個人の判断基準が異なる。もし会社側が酒を飲んで勤務することが、ふさわしくないと判断し、制裁処分に相当するというのであれば、就業規則上、その旨を具体的に記載すべきである。その点が明確にされていないのであれば、該当社員に非を求めることはできない」と。よって、ここでも社員が勝ち、会社側が負け。

 論語には「心の欲する所に従えども、矩をこえず」とあるではないか。酒気を帯びて勤務することは、どう考えても「矩」をこえている。そう言いたくなるが、その言葉をよく見たら、前に「七十にして」と書かれている。つまり、七十歳にもなれば、好き勝手に振舞っても、道徳や規律から外れることはしない、という意味。会社の社員達はまだまだ若いのだから、「矩」の何たるかはわかっていない。「矩」のひと言で済ませるのではなく、やはり具体的に事例を列挙しておかなければならないということも理解できます。

 

聞一知十

 ということで、就業規則の中には、社員が守るべきルールが事細かく書かれています。「会社の備品を勝手に持ち出してはならない」等々、当たり前のことが、複数ページにずらりと列記されているのです。二、三項目の具体例の後に、「その他、社員としてふさわしくない言動は禁ずる」として、網をかぶせるのが普通なのですが…

 聞一知十(一を聞いて十を知る」という誰もが知ることわざとは対極のような有様。ポロシャツ、ジーンズ姿で通勤する社員達に対して、「○○社の社員らしい服装で通勤するように」と総経理(社長)が力んで言っても、「らしい服装」とはどんな服装かを、期待通りに理解されることは極めて難しい。

 もし、総経理が「一流企業の社員なのだから、スーツ、ネクタイ姿で通勤」するよう、社員に要求したいのであれば、「らしい」ではなく、そのまま具体的に言うべきなのです。

 尤も、そういう指示を受けた社員からは、「じゃあ、スーツを買うから、その手当を出してくれ!」と逆の要求が出るかもしれませんので、その腹積もりもお忘れなく。

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