【善く将たる者は愛と威とのみ】と韓非子 メリハリの動機付けが成功への道
マネジメントを担当する立場としては、寛容と厳格のどちらに軸足を置くか、悩ましいところです。「軟硬兼施」とのことわざもありますが、結論としては、その両方に足を置いたスタンスを取り、時時に応じて重心を移動するのがよいと。
成功のヒント 中国ことわざ・格言
士は己を知らざるに詘(くっ)して己を知るに申(の)ぶ
- 中国語:士者诎乎不知己,而申乎知己 [ shì zhě qū hū bù zhī jǐ, ér shēn hū zhī jǐ ]
- 出典:晏子春秋(杂上)
- 意味:男子は自分を理解していない者に対してはまげる(力を出さない)が、自分を知ってくれている者の為には力を尽くす、との意。
軟硬兼施す
- 中国語:软硬兼施 [ ruǎn yìng jiān shī ]
- 出典:张扬(第二次握手)
- 意味:柔軟策と強硬策の両方を使うこと。硬軟両様の手を使う。
善く将たる者は愛と威とのみ
- 中国語:善将者爱与威而已 [ shàn jiàng zhě ài yǔ wēi ér yǐ ]
- 出典:尉繚子(うつ りょう し)=尉繚子は、中国の戦国時代に 尉繚によって書かれた兵法書。
- 原文:爱故不二,威故不犯,故善将者爱与威而已。
- 意味:兵を大切にするから兵に二心がない。威厳があるから兵は命令に背くことはない。故に善い将は愛と威を併用するのみである。リーダーは地位や強権を使えば部下を命令に従わせることができる。しかし、それだけでは「心服」は得られない。「愛」をもって接すれば部下のやる気を引き出し、よい仕事ができる。いずれか一方だけではリーダーとしての責務が果たせない、との意。
喜びは望外に出る
- 中国語:喜出望外 [ xǐ chū wàng wài ]
- 出典:蘓武(与李之仪)
- 意味:思ってもいない喜びに出くわし、非常に嬉しいこと。望外の喜び。
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望外の喜び
「喜出望外」とのことわざがあるように、思ってもいなかった嬉しいこと遭遇したとき、また、思っていた以上のことをしてもらったとき、「人」はそれを喜びと感じる。
日本で単身赴任していた若いころのこと。家族のもとに帰省することを楽しみしていた週末、ボスから「駅まで車で送ってやる」とひと言。そして、現れたのはボスが自ら運転する車。専属の運転手が送ってくれるものとばかり思い込んでいたのびっくり! 助手的に座り、ボスの思いがけない気配りに、舞い上がるような嬉しさを感じたものでした。
中国現地会社でマネジメントする立場であっても、「望外の喜び」を社員に感じさせることができるシーンはいくつもあります。
例えば、自分のオフィスから最も遠い派遣先や営業所への突然の視察・激励の訪問。そこで働く社員にとっては所謂サプライズ。こんな遠いところまで来てくれた、と喜ぶはず。他にも、年会での飛び入りで歌を歌ったりするパフォーマンス。それに、社員自身の想定外の高評価等々。
社員を思いやる総経理(社長)の行動は、きっと社員から心服を得ることに通じます。そして、良い仕事、良い業績に直結します。
意気に感じるならば
こんなこともありました。中国赴任が決まった時、当時の上司は「骨は俺が拾ってやるから、思いっ切りやってこい!」と、超日本的な激励を。実際にはそうはならないでしょうが、雲上の上司の気持ちに対して「よっしゃー! やったろう!」と意気込んだことは脳裏に焼き付いています。
「士は己を知らざるに詘して己を知るに申ぶ」という言葉があります。中国現地会社のトップとして、社員達を認める所から始めるべきではないでしょうか。その結果、心から尊敬されることに行き当たる。
例えば、部下からの要望があった際には、二つ返事で快諾するのがよい。もちろん、ここぞというときで、許容範囲に収まると判断される場合に限り、であるが。例えば、営業責任者が営業用の車を買ってほしい、などの要望があった時には、四の五の理由を聞くまでもなく即決する。車一台以上の価値が生まれる。
但し、瞬時に妥当な判断をするために、日頃から現場の状況、組織の隅々の状態、等々を掌握しておかなければなりません。それには自身で現場に入らないとわからないし、結局、上の項で記した「望外の喜び」とリンクします。
愛と威厳
新任の総経理は、会社業績を向上させようという強い気持ちが先に立ち、ややもするとドラスティックな運営をしがちです。しかし、人間は感情の動物だと言うのですから、相手の感情に訴えかけるような運営でないと、社員達はなかなか思うようには動いてくれません。論理や理屈だけではうまくないということです。
地位や強権を使えば部下を命令に従わせることができますが、それは表面だけ。中国戦国時代の兵法書である尉繚子には「善く将たる者は愛と威とのみ」とあります。愛と威厳の両方が備わって、初めて強いリーダーシップが発揮されるというもの。
バランスとメリハリ
「軟硬兼施す」という言葉にあるように、硬軟両様を織り交ぜたマネジメントが大事です。硬とはいわば威厳でありドラスティックな運営。軟は則ち部下への愛しみであり情に当たります。
両方を併せ持ち、時々に応じて取り交ぜて発揮することで、人心を掌握し強い組織が出来上がるというものです。その内、論理、威厳は少しで良し。多くは愛、ハートで。
「愛」と「威」のバランスが取れた運営をすると、リーダーと皆の間でストーリーが共有され、そして組織として一体感が出てきます。
会社組織において、上からの規制や押さえつけばかりでは、社員は伸び伸びと仕事ができません。しかし「寛容」ばかりに気を取られると緩々の組織になってしまい、会社としての体をなさなくなります。簡単ではありませんが、メリハリのきいた運営をすることが総経理に求められます。