老子は【不争の徳】と お隣さんなのに価値観が大きく異なるが…
「不争の徳」とは老子の言葉。争わないことこそが徳であり、徳のある人はむやみに人と争はない、と。相手の価値観の違いを指摘し争っても、何も解決しないし利益も無い。では、異なる価値観を持つ人達と関わりはどうすれば良いのであろうか。
成功のヒント 中国ことわざ・格言
務めて相下れば則ち益を得る
- 中国語:务相下则得益 [ wù xiāng xià zé dé yì ]
- 出典:伝習録
- 原文:“处朋友,务相下则得益,相上则损”
- 意味:友人とのつき合い際して、謙虚な態度で付き合えば益が得られる。相手を見下すと損(マイナス)になる。
怒髪 冠(かんむり)を衝く
- 中国語:怒发冲冠 [ nù fà chōng guān ]
- 出典:庄子(盗跖)
- 意味:怒りで髪が逆立って冠をも突き上げること。激しく怒って髪が逆立つ形相。
眉睫(びしょう)近きに在り
- 中国語:近在眉睫 [ jìn zài méi jié ]
- 出典:列子(仲尼)
- 意味:きわめて接近していること。目前にあること。
不争(ふそう)の徳
- 中国語:不争之德 [ bù zhēng zhī dé ]
- 出典:老子
- 意味:争わないことこそが徳である、との意。徳のある人はむやみに人と争はない。
記事:老子は【不争の徳】と お隣さんなのに価値観が大きく異なるが…
通じていない怒り
「何やってんだ!」と大きな怒鳴り声が隣室から聞こえてくる。
ここは、中国・大連のとある日系企業の新築工事現場事務所。日本から乗り込んできた建築会社の現場監督さんが、中国人の作業員に「怒髪 冠を衝く」とばかりのすごい剣幕で怒っているのです。
隣室まで響き渡るような大きな声。聞いていると、どうも電灯スイッチの取付具合が部屋ごとに不揃いであることが原因のようです。スイッチが傾いて付けられている、床からの高さがバラバラ。そのことに監督さんが腹を立てたようです。しかし、怒鳴られている方は何が原因で怒られているのか、どうもわかっていないようです。もちろん通訳さんが間に入っていますので言葉の意味は理解されてはいるものの、何故そのことが問題なのかが通じていないようです。
価値観が違う隣同士
日本では壁のスイッチやコンセントの取付高さは一定で、もちろん傾きなどあるわけがありません。それどころか、スイッチのプレートを止めるビスの締め具合まで一定。それが日本品質であり日本の美学でもあるのです。
しかし、中国現地では、電灯のスイッチは電灯を点けたり消したりするもので、それがちゃんと機能すればいいじゃないか、という考え方。スイッチの高さや傾きはアバウトで何が問題なのか、というふうに考え方は大きく異なります。
列子の言葉に「近在眉睫」とあります。日本と中国は隣国同士であり、言わば眉と睫ほどに近い。しかし、考え方や価値観はこうまで違うのかと驚かされます。
スイッチ以外にも、建築工事の工程表を作っていないのでいつ工事が完成するのかわからい現場。建築の完工検査の時に玄関ドアに鍵が付いていないことを指摘した建築主に対し、「ドアは作れとは聞いているが、鍵を付けよとは聞いていない」と開き直られ、唖然としたしたり。「なんだそれ」ということが珍しくありません。
争わずに
価値観の違いを埋めようとして怒鳴っても詮無い事。何千年にもわたる歴史に裏打ちされたアイデンティティ。肌の色や風貌はよく似ていますが考え方や習慣は大きく異なります。
そのためか、何十年も前から「日中友好」が叫ばれ、実際に良好な関係の時もありましたが、悪化した時もあり一定してはいませんでした。振り子のように改善と悪化を繰り返しているからこそ「友好」が変わらずずっと言われているのでありましょう。
互いに「違い」を指摘しあっていても物事の解決には結び付きそうにありません。老子の言葉に「不争の徳」とあります。争わない事こそが徳である、というのです。同じ価値観を持つことは難しくても、争わずに互いの存在や価値を認め合うことは努力すればできるはず。
必要なのは謙虚さ
中国現地でビジネスを展開している人にとっては、首まで浸かって待った無しの状態。如何にすれば、異なる価値観を持つ現地の社員たちの協力を得ることができるのか。また、業績を上げ、その結果、事業と関わりのある人々により豊かな生活を送ってもらいたい。そんな強い思いを実現の方向に導くためには、まずどうすればよいのか。
中国明代の王陽明の言葉をまとめた伝習録にはこうあります。「務めて相下れば則ち益を得る」と。謙虚な態度で付き合えば益が得られる。その一方、相手を見下すと損になる。権威を背景にしたパワーコントロールは長続きしないでありましょう。一方、容易には埋まらない双方の溝でも、謙虚であれば乗り越えることはできるのです。
溝の存在を認め、違いを受け入れるところから、様々な具体的な対策が見えてくる。それができるのは現地会社の総経理(社長)しかいないということです。