【抜苗助長】 一生懸命なのだが とんでもない悲劇はこうして起きた
社内は随分荒れていた。社員の気持ちもすさんでいたようだ。一体、何故こんなことになってしまったのだろうか。
成功のヒント 中国ことわざ・格言
格格不入
- 中国語:格格不入 [ gé gé bù rù ]
- 出典:礼記(学记)
- 意味:相容れない。まったくかみ合わないこと。
長ずるを助けんとして苗を抜く(抜苗助長)
- 中国語:拔苗助长 [ bá miáo zhù zhǎng ]
- 出典:孟子
- 意味:苗を引っ張って早く伸ばそうとしたところ、苗が枯れてしまったという故事。功を焦って誤った方法をとると必ず失敗することの例え。
自らを以て是とする
- 中国語:自以为是 [ zì yǐ wéi shì ]
- 出典:荀子·荣辱
- 意味:独善的、独りよがりの意。
- 原文:凡斗者必自以为是。(総じて争うことが好きな人は、必ず自分だけが正しいと考えている)
流水の清濁は其の源に在り
- 中国語:流水清浊在其源 [ liú shuǐ qīng zhuó zài qí yuan ]
- 出典:貞観政要(誠信)
- 意味:流水が澄んでいるか濁っているかは源の良し悪しにかかっている。
記事:【抜苗助長】 一生懸命なのだが とんでもない悲劇はこうして起きた
漂う不穏な空気
ある総経理(社長)が、着任後わずか八カ月で再度転勤となった。そして、社命によりその後任を拝することとなり、引継ぎのために初めて訪れた時のこと。
オフィスで引継ぎ中に、前任者と現地社員が言い争いを始めた。いやしくも会社のトップたる総経理(社長)が引継ぎ中なのだが。どうにも、「格格不入」としか見えない。社内は随分荒れた状態で、社員の心も相当すさんでいるようで、不穏な空気が漂っています。
そして、言い争いしている間に読んだ、彼の本社に宛てたリポートには「グループ会社として似ても似つかぬ会社だ」とありました。
あるべき姿とは
この会社は設立されてから、日本本社が派遣した日本人が総経理に就いていたものの、立ち上げ時期には多くある対外対応の必要性から、マネジメントは事実上中国側に委ねられていました。
つまり、日系企業ではあったが、会社運営は「中国式」でなされていたという実態であったようです。
そして、設立後約5年を経過したころ、会社の発展を画す時期となり、総経理が交代しました。件の二代目総経理が本社から送り込まれたのです。彼は、日本国内の事業所運営経験しかなく、中国の実情にはまったくと言っていいほどわかっていませんでした。
その彼が着任し、目の前の現実を見て、“似ても似つかぬ会社”と感じたのも無理はありません。
何とかしなければ、と彼は「グループ会社としてあるべき姿」を声高に現地社員に訴えたのだと思います。しかし、現地社員は一度も日本に行ったことのない社員ばかり。わが社の「あるべき姿」とはどのような「姿」なのか想像もできません。
ただひとつ言えることは、社員達は会社立ち上げから約5年間、初代の総経理のもとで、言われたとおりに行ってきただけのことです。
「流水の清濁はその源に在り」と、組織のトップの言動の良し悪しが清濁を決定するはず。似ても似つかぬ会社にしてしまった原因は、少なくとも彼の眼前の一般社員には無いはずです。
今の濁りは源にある。よって清くするのは新総経理の任務であるはず。にもかかわらず、その責任を一般社員に求めるような態度は少々酷な話である。
自らの存在意義
たった5年とはいえ、現地社員たちと築いてきた歴史があるはずです。それがグループ会社らしくないというのであれば、「らしく」するべく改造に着手しなければなりません。
「本来の姿」とはどんなものかを、現地社員に理解させる努力をすべきであったのではないか。歴史の浅い現地会社において、「グループ会社として本来の姿」を知っている日本から派遣された総経理にしかできないことです。
会社を早く大きくしたいという熱い気持ちは、赴任者であれば誰しも強く持っています。しかし、それはひとつ違えば単なる「自らを以て是とする」ということになってしまいます。
総経理としては、部下のことをとやかく言う前に、考えるべきは自分の態度です。組織の「源」であるトップとしての総経理が善ければ部下もまっとうになるというもの。
焦りが生んだ失敗
日本で経験してきたことは自分の頭の中にしかない。それを、現地社員達に一方的に押し付けてしまったところに前任者の焦りがあり、失敗の原因となったのではないでしょうか。
可哀そうなのは、わからないことを一方的に押し付けられ、「何だこれは…。話にならないじゃないか…」と頭ごなしに怒られていた地元の一般社員達です。
もちろん彼は責任者として、会社を早く大きくしたいという気持ちを、他の誰よりも強く持っていたからこそ、の結果だと理解できるのですが…
「長ずるを助けんとして苗を抜く」とは孟子が残した格言。何事も功を焦っては失敗のもととなります。
この八カ月間、現地社員達はどんな気持ちでいたのだろうか。心の内を思うとやるせない気持ちになります。この問題を解決することが、自分に与えられた使命かもしれないという思いが、事務引き継ぎを進める中で徐々に鮮明になっていきました。同時にその思いは今後の会社運営の方向性も示唆してくれていたのです。