【遼東の豕】とは何たることか 唯我独尊では陥りやすいこの罠
中国に赴任して現地で生活をしていると、島国の日本では考えられない奇天烈なことにしばしば遭遇する。そして、そこには成功へのヒントが隠されている…
成功のヒント 中国のことわざ・格言
見少なく怪多し(少見多怪)
- 中国語:少见多怪 [ shǎo jiàn duō guài ]
- 日本語表記:少見多怪
- 出典:漢・牟融(牟子)
- 意味:見聞が少ないと、ありふれたことでも不思議に思う。転じて見聞が少なく常識のない人を嘲る言葉。
想方設法
- 中国語:想方设法 [ xiǎng fāng shè fǎ ]
- 出典:得失
- 意味:あれこれ方法を考えること。いろいろ手立てを考える。
入境するに俗を問う(入境問俗)
- 中国語:入境问俗 [ rù jìng wèn sú ]
- 出典:礼记(曲礼)
- 意味:別の国に入るときには、まず禁止事項や風俗習慣を問い、間違いを犯さないようにすること。郷に入っては郷に従う。
分毫不差
- 中国語:分毫不差 [ fēn háo bù chā ]
- 出典:醒世恒言
- 意味:寸分も違わないこと。どんぴしゃり。
遼東の豕(いのこ)
- 中国語:辽东之豕 [ liáo dōng zhī shǐ ]
- 出典:後漢書(朱浮传)
- 意味: 世の中で知られていることを、自分だけが知っていると、思い込んで得意がることの例え。当たり前のことを独りよがりに得意に思う。世間知らずのために、つまらないことを誇りに思ってうぬぼれることの例え。
- 故事:昔、中国・遼東で頭の白い豚が生まれ、珍しいので朝廷に献上しようと河東地方まで来た。そこで見た豚はみな白かったので恥ずかしくなり引き返した。
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レトロなチンチン電車で
大連名物のひとつで、中国では珍しい市内を走る路面電車(中国では「有軌電車」)。運賃は1回1元。何もすることの無い休みの日に乗ってみるのも良し。何しろ、レールの上を走るので、悪徳タクシーのように遠回りされるような不安感はありません。
ある時、乗車し運賃箱に1元硬貨を入れようとすると、運転手の横に立っていた見知らぬ乗客が目の前に手を出して「その1元、俺にくれ」と言っています。何を言うとんのや…
どうもその乗客は1元の小銭を持っていなかったので、5元札を運賃箱に入れたようです。しかし、お釣りが出るようなシステムではありません。両替機も無いので、あとから乗車する人からお釣り分の4元をもらわねばならない。だから、運転手の監督のもと、次の乗客を待っていたという訳でした。
乗客にしても、運転手にしても「想方設法」、生活の知恵と言おうか、柔軟思考には感心します。「あと3元だ」と呟いていたその乗客、首尾よくいったのでしょうか…
日本よりもはるかに早くからICカードが普及していた大連では、現金派はむしろ少数派なのですから。
方言の威力
ところで、中国では乗用車に、いわゆる「カーナビ」は搭載せず、ダッシュボードに置いたスマホのナビが重宝されています。しかし、2000年当時はスマホは有ろうはずもありません。よって、タクシーに乗るのも結構大変。
「○○交差点を左折し、まっすぐ行ってくれ」と、下手ではあろうが一生懸命に中国語で目的地を説明。運転手が車を出したのだが、すぐに車を止めて通行人に場所を尋ね、再び走り出すようなことも。中国語が通じていなかったのか、外国人の地理案内を信用していなかったのでしょうか。
そんなタクシーで、最も通じやすいのがその土地の方言。例えば上海では「次の交差点を右へ、その次を左へ…」などと上海語で伝えると「分毫不差」、どんぴしゃりで運転手に通じたのです!
実は、上海人が話す上海語は中国の普通語とは全く違う言葉。上海の地の人に簡単な「タクシー用語」を教わり、使ってみると気持ちいいほどよく通じます。方言の威力といったところでしょうか。
豚と猪
事程左様に、「中国」を分かっていない日本人にとっては驚くばかり。しかし現地の方から見れば、単なる「世間知らず」。ということで、日本が世界のスタンダードだなどと思ってうぬぼれていては「遼東の豕」との謗りを免れません。
それにしても、愛する大連のことを「遼東の豚」と田舎者呼ばわりするとは如何なることであろうか! (「遼東」は中国遼寧省南部一帯を指します。そして遼東半島の南端に位置するのが大連なのだが…)
ところで、十二支の最後は亥年です。当てられた動物は日本では「いのしし」ですが、中国では「ブタ」。「ぶた肉」は日本では「豚肉」であるが中国では「猪肉」。いやはやややこしいことです。
一歩国外に出ると如何に自分が不見識であったか気づかされることに間々遭遇する。自身は何も変わっていないのだが、大きく異なる環境の中にあっては「少見多怪」。その時、日本の常識は世界の非常識と揶揄されることを実感するのです。
それはそうと、干支は何かと尋ねられた日本人駐在員のとある奥様。悠然と「パンダです」と答えたそうな。つまらん質問をしなさんな、と言う意味でしょうか…
成功への第一歩
とにかく、物事を達観しているわけでもないのに、唯我独尊とばかりに現地の習慣や考え方を理解しようとしないようでは、現地会社の運営が上手くいこうはずもありません。
「入境するに俗を問う」とのことわざにもあるように、まずは謙虚な姿勢で臨むべきであることは論を待ちません。もちろん、何でもかんでも現地に迎合するのではなく、まず現地の習慣などを理解するところから始める。そこに成功への第一歩がある。