【大国を治むるは小鮮を烹るが若し】 社内を引っ掻き回した結果は
本社からの期待を受けて「ようし、やるぞ」という強い意気込みで中国の新任地に赴任。しかし、乗り込んではみたものの、必ずしもその気持ちが現地の皆さんに伝わるとは限りません。
成功のヒント 中国ことわざ・格言
意気自如
- 中国語:意气自如 [ yì qì zì rú ]
- 出典:史記(李将军列传)
- 意味:物事に驚き恐れたりせず、気持ちがふだんと変わらず落ち着いていること。
垂頭喪気
- 中国語:垂头丧气 [ chuí tóu sàng qì ]
- 出典:送穷文
- 意味:気落ちして肩を落とすこと。意気消沈するさま。がっかりした様子。
其の長ずる所を貴び、其の短なる所を忘る
- 中国語:贵其所长、忘其所短 [ guì qí suǒ cháng, wàng qí suǒ duǎn ]
- 出典:三国志
- 意味:呉の孫権の言葉。部下を使うときには、短所は把握しつつ、しかしそれには触れず、長所を伸ばすように仕向けるのがよい、との意。
大国を治むるは小鮮を烹(に)るが若し
- 中国語:治大国若烹小鲜 [ zhì dà guó ruò pēng xiǎo xiān ]
- 出典:老子
- 意味:「小鮮」とは小魚のこと。小魚を烹るときに突っついたりかき回したりすれば、形は崩れ味も落ちる。それと同じで、国を治める時には、何事につけ政府が権力をもって上から干渉するのはよくない、との意。
闘志昂揚
- 中国語:斗志昂扬 [ dòu zhì áng yáng ]
- 出典:介绍一个合作社
- 意味:闘志を漲らせること。
記事:【大国を治むるは小鮮を烹るが若し】 社内を引っ掻き回した結果は
やる気満々であった
中国・大連にある設立後6年を経過した現地会社に日本本社から派遣された総経理(社長)は、着任後1年ももたずに撃沈。社員達からは総スカンを食って、社内は荒れ放題。敢え無く選手交代となった。
日本ではそれなりの経歴を持つ彼は、「闘志高揚」と風雲が奮い立たんばかりに現地会社の運営に取り組んだ。本社から注がれる目を必要以上に意識したのであろうか。しかし、中国経験は全くなかったこともあり、純日本式の管理手法で現地社員に相対した。
叱咤激励の結果
中国現地会社で純日本式マネジメントはミスマッチもいいところ。思うような業績が得られる訳が無い。
「何だ、この結果は…!」「前年よりもマイナスじゃないかっ!」等と目くじらを立て、声を荒げるようなことに。
大きな声を張り上げるような叱咤激励によって奮起する昭和の日本国内ぐらいなものです。中国では多くの場合は、社員達は「垂頭喪気」、気力は消沈。更に、そこに部下の離反の心が芽生えてきます。
荒れた組織にどうする
そんな状態が半年も続けば、社内は荒れに荒れてストライキ寸前。そこに赴任した後任総経理としては、「意気自如」、まずは荒れた社内、社員達の心に平静を取り戻させる事が先決です。
そこで、着任初日、社員のみんなに集まってもらい、こう語りかけました。
「皆さんは会社が設立されてから6年間ずっと頑張ってきました。その皆さんを守るために私はここに来ました。ですからこれからは安心して仕事をしてください。でも、ひとつだけ条件があります。それは一生懸命仕事をすることです。そういう人を守ります。もしそうではない人がいたら、その人は守りたくても守れません」と。
否定するよりも
仮に成績が良くなかったとしても、現地社員の彼らは彼らなりに努力したはずです。にもかかわらず、それを叱責され、いわば全否定されたのでは、たまったものではありません。面子を非常に重んじる中国ですから、それではうまくいくわけがありません。
三国時代、呉の孫権の言葉に「其の長ずる所を貴び、其の短なる所を忘る」とあります。部下を使うときには、短所は把握しつつもそれには触れず、長所を伸ばすように仕向けるとよいと言うのです。これが上手な人使いというもの。
例えば、その月の業績が思わしくなくても、そのことを否定はしない。何故なら、目標は達成できていなかったとしても、それなりに努力はしたのだから。その努力を否定されては部下の立つ瀬がなくなってしまいます。
その点からすると、「やらんかな」と赴任した彼は、「入り方」を間違えたと言わざるを得ません。
認めるところから
目標を達成できなかった際に、社員達に対しては「よく努力をしてくれた。そのことについて感謝している。この次は必ず達成できると思う。我々には、目標をやり遂げる実力があることを確信している」と、つまり、「努力が足りなかったから達成できなかった」という意味のことを肯定的に伝え、同時に「だから来月はもっと努力しよう」と訴えることがよい。
そういった思いを繰り返し話して社員のみんなに伝える。責任者として部下を認めると、部下はそれに応えてくれるものです。その結果、リーダーとしての思いは社員に理解され、シンパサイザーが増え、徐々に仕事がやりやすくなります。
「大国を治むるは小鮮を烹るが若し」とあります。大事な社員を「小鮮」に例えるのは不謹慎ではあるが、訳も分からず社内を引っ掻き回すのは避けたいものです。社員の能動的やる気を引き出すようなマネジメントが求められます。
日本では褒められたことなど一度もなくても、中国では褒めて育てることを重視すべきなのです。