【口は好を出し戎を興す】 相手の気分を壊しかねない配慮を欠いたその言葉
軽いジョークのつもりで発したのかもしれないが、必ずしも相手もそう受け取るとは限らない。何しろ相手の心の中は見えないのだから。
成功のヒント 中国ことわざ・格言
温恭自虚
- 中国語:温恭自虚 [ wēn gōng zì xū ]
- 出典:管子(弟子职)
- 意味:温厚で恭しく自ずと謙虚で、且つ自惚れないこと。
口は好を出し戎(じゅう)を興す
- 中国語:口出好兴戎 [ kǒu chū hǎo xìng róng ]
- 出典:書経(大禹谟)
- 意味:口から出た言葉は、友好を生み出すし、戦いをも生み出す。言葉を慎むよう戒める句である。
鈎を窃む者は誅せられ、国を窃む者は候たり
- 中国語:窃钩者诛,窃国者侯 [ qiè gōu zhě zhū qiè guó zhě hóu ]
- 出典:庄子(胠)
- 意味:鈎を盗めば死刑に処せられるが、国を盗めば諸侯として封土を受ける。不合理な現実の矛盾を例えた言葉。鈎は「帯鈎」のこと。中国古代の貴族などが革帯を締めるために使用された金具。
随風転舵
- 中国語:随风转舵 [ suí fēng zhuǎn duò ]
- 出典:施耐庵(水浒传)
- 意味:風向きに従って舵を切ること。転じて、風向き次第でどちらへでもなびく、との貶し言葉。風見鶏。
瞠目結舌
- 中国語:瞠目结舌 [ chēng mù jié shé ]
- 出典:夜谭随录(梨花)
- 意味:あっけにとられてものが言えないことの形容。
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言われてしまった
「お料理はボケ防止にいいそうですよね」と真顔で言われてしまい思わず「瞠目結舌」。
それは、一時帰国休暇を終え、関空から大連に向かうエアラインの機内での出来事。備え付けの雑誌をめくっていた時、目に留まったのが料理の頁。美味な写真とともに、レシピもそう難しくないようです。
そこで、大連に戻ってから作ってみようと思い、機内のCAさんに、雑誌を貰えないか尋ねた時に、「お料理なさるんですか?」と。その後に言われてしまったそのひとことに絶句。まだまだ現役バリバリなんだけど…
ま、結局は「よろしければどうぞ」ということでしたので、まあいいか。
逆風に立ち向かう
若かった頃の話。同僚から「君は風見鶏みたいだ」と。何処を向けば得するのか、吹く風に巧みに合わせる能力にたけている、と揶揄。無定見のゴマすり野郎、とでも言いたかったのでしょう。
そこで、反論。何を言うか、風見鶏はいつも風の吹いてくる方向を向いている。つまり、向かい風に立ち向かい、「随風転舵」と舵を切っているのだと。「風見鶏は逆風に果敢に立ち向かう勇敢な心を持っている」と言ってやりました。
そんなバトルを仕掛けてきた同僚とは、今も付き合っている、実は「好朋友」なのです。
年寄りに見られて
大連市内を網の目のように走る公共バス(路線バス)。休みの日には、ぶらりバスに乗って出かけるのもよし。ある時、座席が満席で吊り革につかまって立っていると、前の席に座っていた女子学生らしき人から、席を譲られたのです。思ってもみなかったので一瞬びっくり。
人からはそんな歳にみられていることに、些か落胆しつつも、ここは「温恭自虚」、素直に受け入れることに。
生まれて初めて席を譲られたのが中国・大連の地。心根の優しいその若い人の対応に、暫くしてから、ほのぼのとした気持ちになりました。年上の人を大切にする習慣は今も生きているようです。
ほんの少しの違いが
庄子は「鉤を窃む者は誅せられ、国を窃む者は候たり」と。盗みを働くことは同じでも、盗むものによって結果は随分違います。
「鉤」とは古代の帯留め。たかが帯留めとはいえ、中には黄金でできたのもあるそうです。それにしても、処刑されるか大名に召し抱えられるかは大違い。だが、それが現実というもの。
考えてみれば、まん丸の円の線上に立ち、前を向いて歩みを進め、元の場所から一番遠いのが359度回ったところ。しかし、元の場所に立って回れ右をするとさっきは最も遠い地点であった359度の位置は目の前にあるのです。ほんのちょっと見方考え方を変えるだけでまるで違う景色が広がります。
総経理の喋り
良かれと思って発した言葉、ジョークのつもりのひとこと、聞く方のその時の心持ちによっては、必ずしも話し手の意図する所とは大きく離れた結果になるかもしれません。
日本では、サラリーマンにとっては、口数の少ない方が出世する可能性が高いように思えます。その正否は別として、中国現地会社の総経理(社長)ともなれば、そうもいきません。
むしろ、社内の部下や顧客に向かって話す機会も多くあります。だからこそ、他の人よりも、「口は好を出し戎を興す」の格言を肝に置かねばなりません。
部下を持つリーダーたる者は、言葉を発する際に前後のことを考え、相手のことも察しながらの慎重さが必要なのです。