【見風使舵】は悪くない 蔑むこともない むしろ中国では必要な逞しさ

瀋陽市故宮 文徳坊(2008年6月)

 

何処にあってもその地の法律、規則を守ることは当然。法治のハードルをクリアすると、次に越える必要があるのが…

 

成功のヒント 中国ことわざ・格言

慮(おもんばか)らずんば胡(なん)ぞ獲(え)ん、為さずんば胡ぞ成らん

  • 中国語:弗虑胡获,弗为胡成   [ fú lǜ hú huò, fú wèi hú chéng ]
  • 出典:書経
  • 意味:事を始めるにあたって熟慮すること。さもないと良い結果は得られない。実行すべきとなれば断行すること。ためらっていては何も得られない。

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風を見て舵を使う(見風使舵)

  • 中国語:见风使舵   [ jiàn fēng shǐ duò ]
  • 出典:宋代·释普济(五灯会元)
  • 意味:風向きを見ながら舵を取る。情勢をうかがって態度を決めるとの意。日和見主義という貶す意味もある。

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奇貨(きか)居(お)く可(べし)

  • 中国語:奇货可居   [ qí huò kě jū ]
  • 出典:史记(吕不韦列传)
  • 意味:奇貨とは珍しいもの、絶好の機会のこと。居は蓄えるとの意。珍しいものはとりあえず買っておいて、時機を見て高く売るというのが元の意味。絶好の機会は逃さずにうまく利用すべきであるということの例え。

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雑乱無章(ぞうらんむしょう)

中国語:杂乱无章   [ zá luàn wú zhāng ]

出典:送孟东野序

意味:雑然としていること。秩序がないこと。

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说你行你就行,不行也行;说你不行就不行,行也不行。不服不行。

  • 中国語:说你行你就行,不行也行;说你不行就不行,行也不行。不服不行 
  • 注釈:(上司や御上等の)リーダーがYesと言えば、たとえダメなものでもOK。反対にNoと言えば、たとえ(法律などに則り)OKであっても実際にはNo。服さないのはNo。(ことわざでも格言でもありません)

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記事:【見風使舵】は悪くない 蔑むこともない むしろ中国では必要な逞しさ

瀋陽は大きな街であるが

 こんな街ではとても商売はできないな。そう思えたのは2000年の冬、初めて訪れた瀋陽市の印象であった。

  瀋陽市は中国東北部遼寧省の省都。人口は約800万人の大きな街です。遼寧省の南端の大連市からは北へ約400キロ。緯度的には函館に相当します。

 内陸部にある瀋陽、冬の寒さは覚悟していましたが、訪れたその日の気温は日中で何とマイナス30度の極寒の世界。道路も凍結してつるつる。何度も転んでしまいました。

 何より、当時の瀋陽は街はでっかく、幹線道路も広いのですが、如何せん、車線表示もなくセンターラインも引いてありません。そこに人や車、自転車などが好き勝手に往来している様は「雑乱無章」そのもの。こんなところでは、とても商売はできない、もう二度と来ることはないであろうと、瀋陽の街を後にしました。話の種に、寒かった思い出だけを持って…

 

驚きの瀋陽

 その翌年、所用があり再び瀋陽市を訪れました。そして驚いたことに、街が一年前とは様変わりしていたのです。道路もちゃんとなっていましたし、街のあっちこっちで高層ビルが建築されているではないですか。

 わずか一年間での変貌ぶりを見て、やはり瀋陽に支店を出そう、と即断しました。支店設立には特段の資金は必要ないので、日本本社には事後報告で済ましました。

 寄货可居」とのことわざがありますが、危うく、絶好の機会を逃すところでした。

 中国の大きな街は、一旦変わり始めると、とてつもなく速いスピードで変化することに気がつきました。「そろそろ支店でも出そうか」と思える時は、実はもう遅いのです。「ちょっと早いんじゃないか」というくらいのときに出ていかないと、乗り遅れてしまいます。

 

予想外の瀋陽

 早速、駆け足で手続きを行い、一週間後には瀋陽分公司(支店)の登記をすることができました。2002年のことです。

 いよいよ業務をスタートする準備ができたので、瀋陽の業界筋を招待して会食をアレンジ。「よろしく」との挨拶をしてシャンシャンとなると思っていましたが、相手側からの言葉は非常に意外なものだったのです。

 曰く「外資企業の瀋陽進出は、市場を掘り起こすパワーにつながるので歓迎する。しかしながら瀋陽の業界及び市場は少々乱れている。その整理がついた頃から仕事を始めた方がよいと思うので、開業は少し待ってください」という趣旨でした。

 慇懃な態度ではあるのですが、どうも、実際にはあまり歓迎されていなかったようです。

 既得権を得て落ち着いていた業界に、言わば新顔が割って入るわけですから、さもありなんというところでしょうか。

 法律や規定の上での条件は満たし、支店登記もなされたとは言え、この地でゴリゴリ突き進むのも得策とは思えず、少しの間、待つことにしました。

 それから何か月たっても何の変化もないので、手を変え品を変え打診しましたが、のらりくらりとかわされ、埒が明かない状態が続きました。

 中国の巷間では「你行你就行,不行也行。你不行就不行,行也不行」と言うではないかと、会社の現地幹部社員。

 法律上は何の問題も無く「OK」であっても、然るべきリーダーがノーと言えばダメだというのです。法規制というハードルを越えてドアを開けたら、目の前に今度は人治のハードルが待っていたのです。

 

やっとの思い

 そんな人治の最たる捌きを目の当たりにして、一筋縄では行かない事を思い知らされたのです。

 中国で会社を運営するということは、規則を守ることはもちろんですが、それとは別に運用の壁があるということです。そこで、様々な要因や背景の中で必死に頭をめぐらし、策を練って実行する必要がある、ということ。

 慮らずんば胡ぞ獲ん、為さずんば胡ぞ成らん」と。情報を集め分析し、勝算の程度を検討熟慮し、断行するか否かを判断する事を求められる地場の経営者達。

 実は、そのために、たくさんの人脈を持ち、日々活動しているというわけです。

 勝算ありと見て開設した瀋陽支店ですが。事業展開が開始できないままで時間だけが経過。その間も毎月1回は瀋陽に出張して、更なる根回しや準備を重ね、そして、登記から約二年後にようやく業務を始めることができました。

 

身に着けたい運用の術

 人によって言うことが違う、ころころと規則が変わる、そんなことをボヤいていても何も始まらない。

 中国では法規定を遵守することはもちろんですが、あわせて人治のハードルを越えないと事はうまく運びません。「人治」が不得意の人にとっては、とてもじゃないが理解できないということも少なくありません。

 中国の長い歴史の中で培われた運用の術、日本人も「見風使舵」ということわざを駆使して、逞しく障壁を乗り越えねばなりません。

 日和見だとか、変わり身が速いだとか、何と言われたって、その逞しさを発揮した方が勝ちに近づくことを忘れまい。

 法治の向こう側にある人治を理解し受け入れることも、現地で采配を振るう総経理(社長)には必要なことです。

 瀋陽における紆余曲折と最終的な成功体験がそう物語っています。

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