【言行は君子の枢機】向日葵の種はオームの食べ物という冗談は裏目に出た
場を和ませるためユーモアのつもりで放ったひと言が、相手は必ずしもそうは受け取らないことが。
成功のヒント 中国ことわざ・格言
言多ければ必ず失する
- 中国語:言多必失 [ yán duō bì shī ]
- 出典:鬼谷子(中经)
- 意味:口数が多いと失言し易くなり、そのせいで失敗を招くことになる、との意。
言行は君子の枢機なり
- 中国語:言行,君子之枢机 [ yán xíng, jūn zǐ zhī shū jī ]
- 出典:易経(彖辞上传)
- 意味:言行は君子にとって最も重要である、との意。
事與願違
- 中国語:事与愿违 [ shì yǔ yuàn wéi ]
- 出典:幽愤
- 意味:事は希望どおりにいかないこと。意図したとおりに事が運ばない。裏目に出る。
綸言汗の如し
- 中国語:纶言如汗 [ lún yán rú hàn ]
- 出典:礼記(缁衣)
- 意味:汗がひとたび出ると元には戻らない。君主の言葉はひとたび発せられると取り消すことはできない。綸言とは君主の言葉のこと。
記事:【言行は君子の枢機】向日葵の種はオームの食べ物という冗談は裏目に出た
意と違って
中国のスーパーやコンビニのどこにでも売っている「瓜子」。ひまわりやカボチャなどの種を煎った食べ物で、おつまみとしてもよく出されます。
·· この瓜子、食べるのにはちょっとしたコツがあって、前歯で殻をポリっと割って種の中身を食べるのです。中国人はそれがとても上手であっという間に殻の山を築きます。
しかし、食べ慣れていないと、どうも上手に殻を割ることができません。それが悔しくて、「日本ではオームが食べている」と、言ったところ「事與願違」、こっぴどく怒られてしまいました。ユーモアのつもりで発した言葉が、まったく意と違う展開となったのです。
ところで、この瓜子はとても栄養価の高い食べ物なのだそうです。
悲劇のユーモア
当方はユーモアのつもりで言ったことであっても、相手は必ずしもそうは受け取らないことは結構あるのです。
ある時、東京から超有名な落語家を大連に招き、文化イベントが開催されたことがありました。その中で聞いたフランス小噺が、どこがおもしろいのか理解できなかったことを覚えています。その小噺が高尚すぎたことの他に、東京と大阪の「笑い」が違うこともあったのかなと思います。、
まして国を跨ぐと笑いやユーモアは自分の感覚とは大きく異なることがあります。それは中国でも同様で、下手で不用意な冗談やユーモアが、結果的であっても多くの中国人不快感を与え、更には敵に回し、巨大市場を失うようなことになると一大事です。
そうなってからどんなに謝罪をしても、「綸言汗の如し」、一度出た言葉は取り消したりできないと戒めています。
ユーモアは人との距離を縮め周囲から好感を得ることができます。豊かなユーモアは潤いのある人間関係を築く一助となることは違いありません。
しかし自身の口から発したユーモアがその対象や場合、程度によっては人の自尊心や感情を傷つけることになりかねないことを忘れてはなりません。
ユーモアは時としてユーモアではなくなるという悲劇の側面も併せ持つので、気をつけなければなりません。
雉も鳴かずば
冗長な発言の中にこそその危険がはらんでいる。「言多ければ必ず失する」と、言わなくてもよいユーモアのつもりのつまらない冗談の一言がその場の空気を一変させる。
中国人同士の会話の中でも、気まずい空気を感じ取った時には「开玩笑(今のは冗談だよ)」と念押しするほどです。
冗談を飛ばした本人が「今のは冗談だから気にしないで」、などと言うのはいささか白けた話ですが、相手との関係がこじれてしまうことを思うとその方が無難。
日本では政治家や芸能人が不適切な言葉を発し、後から謝罪する場面が間々ありますが、口数が多くなると、つい失言してしまうのは誰にでもあること。
日本本社の上司と面談した時の私の失敗が蘇ってきます。
今後の中国事業の展開について検討しているときに、比較的口数が少ないその上司と私の間で沈黙の時間が発生し、その気まずさに耐えられず私が先に口を開くと、上司からは「それは違うだろう!」とカウンターをくらってしまったことがありました。雉も鳴かずば撃たれまい、黙っていたらよかった…
不用意なひと言
現地会社が小なりと言えども、そこの総経理(社長)は、立場上は一国の君主と同じ。総経理の不用意なひと言が従業員の反感を買い、場合によってはストライキに発展することだってあり得ることを知らねばなりません。
中国古典の易経にあるように「言行は君子の枢機なり」、総経理にとって言行が最も重要であるとの戒めです。
だからといって総経理が委縮してしまう必要はありません。そのために日頃から現地社員とのコミュニケーションを取り、総経理に対する支持と評価を得ておくことがとても大事なことです。そうすれば、多少の発言の齟齬があっても修復は十分可能です。それは何もすべての社員の支持を取り付けておけというのではなく、経験値としては過半数の社員からの支持を得ておけば何とかなると言えます。
自ら発するユーモアも含め総経理は自身の発言に責任を持つことは当然のこと。中国で成功を目指す者としては、軽率な言葉での失敗は避けるべきです。