【鞭は長くとも及ぶこと莫れ】 中国ではアドバンテージを持つが故の危うさも
優秀なるが故に落ちてしまう落し穴。また、総経理(社長)が交代したその都度、現地会社の業績は落ち込み、鋸の刃のようなグラフになってしまう。
成功のヒント 中国ことわざ・格言
虚懐 谷の若(ごと)し
- 中国語:虚怀若谷 [ xū huái ruò gǔ ]
- 出典:老子
- 意味:謙虚な気持ちが谷のように深い。非常に謙虚であること。包容力があり、人の意見をよく聞き入れること。
継往開来
- 中国語:继往开来 [ jì wǎng kāi lái ]
- 出典:朱熹(朱子全书·周子书)
- 意味:過去(往)を継ぎ、未来を開く。先人の後を継ぎ将来の道を開く。
風吹浪打
- 中国語:风吹浪打 [ fēnɡ chuī lànɡ dǎ ]
- 出典:长生殿
- 意味:危うい事態に遭遇したり、厳しい試練。修羅場をくぐること。
鞭は長くとも及ぶこと莫(なか)れ
- 中国語:鞭长莫及 [ biān cháng mò jí ]
- 出典:左傳(宣公十五年)
- 意味:鞭は長いのだが、いつも馬の腹には届かない。力量不足で思うに任せないことの例え。
目中に人無し
- 中国語:目中无人 [ mù zhōng wú rén ]
- 出典:冯梦龙(东周列国志)
- 意味:驕り高ぶることの例え。眼中に人なし。尊大で傲慢なこと。
記事:【鞭は長くとも及ぶこと莫れ】 中国ではアドバンテージを持つが故の危うさも
知らない修羅場
立派な学歴を持ち頭もよく、且つ本社からの覚えもめでたい優秀な日本人社員。だからと言って、中国の現地法人の総経理(社長)として、必ずしも成功するとは限らない。
彼らは往往にして現場経験が少なく、中には皆無の場合も。それというのも、本社のお気に入りなので、経営層の近くにいてデスクワークの毎日。現場で顧客に相対することも無く「風吹浪打」、言わば修羅場をくぐった経験もありません。
それが、いきなり環境の全く異なる中国の現地会社の責任者たる総経理として赴任するのですから、本人も現地会社の社員達も大変だ。
上から目線
そのエリート社員・総経理は、優秀なるが故か「目中に人無し」の振る舞い。
何しろ、現場でのマネジメント経験がないものですから、強弱のコントロールができず、ただただ厳しい管理をしてしまいがちです。最も、見苦しいのはエリート意識丸出しで上から目線の物言い。
時には内部で軋蝶を起こしたり、ひとりよがりになったりと、組織がうまく機能しないことが間々あるようです。
結局、管理者は一人相撲で空回り、部下は誰もついてこない。一番かわいそうなのは部下の現地社員です。それでは、事業の急拡大は望むべくもありません。
こんな人事は、中国の日系企業としての壮大な無駄使いであるとしか言いようがありません。
折角
彼らはエリートであることに加え、本社に対して従順であることも多く、本社にとっては御しやすい社員であるとも言えます。
大雑把に言えばイエスマン。現地マーケットや部下社員達のことよりも、自分の出世のために、むしろ本社を向いて仕事をしがちなイメージ。
着任後も、現地事情や習慣といった日本との違いにも関心も薄く、また、知ろうともしないようです。従って、「鞭长莫及」、日本で培った高い知識を生かせず、結局は、現地会社を運営するための力量不足を露呈することに。
マネジメント実務経験が浅いこともあり、現地会社の経営責任者として管理強弱のさじ加減がわかっていない。そのようなリーダーの下では、現地社員達も戸惑いがち。
その結果、会社業績が落ちてしまい、本社からは「もっとしっかりやれえ!」と叱咤され、ただ「はいっ。わかりました」と答えはするものの、具体的にどうすればよいのかわからない。
ナレッジを引き継ぐ
そんな「エリート君」、ではどうすれば現地で成功を収めることが可能なのでしょうか。
そのための条件のひとつは、形式的な事務引継ぎは型どおりで済ませ、大事なことは「継往開来」、前任者との引継ぎを十分に行い、そのうえで未来の道を切り開くビジョンを描くことです。
日本とは生活も仕事の取り組みにも大きく異なる中国環境に順応し、会社業績を伸ばしてきた前任の総経理は、後任の総経理にとって格好のお手本。
同じ事業でも国や環境が違うので、通り一遍のマネジメントではうまくいかないことを経験値として知っていたはずです。
つまり、サラリーマンとはいえ本社の考え方や方針をそのまま伝達することはしないで、現地の状況に合わせて咀嚼し、自社の方針や施策をリメークして現地会社を運営したのです。現地を知らない日本本社は相談相手にもならず、総経理が自分で試行錯誤を繰り返し…
中国で筆舌には尽くせない苦労を以て積み上げた中国での経営ナレッジを、精一杯引継ぎとして受けることが後任総経理の第一の仕事だと言えます。
そうでなければ、快走していた前任総経理からバトンを受け継いだ後任者が、そこで一旦立ち止まってしまうことになり、「中国初心者」として前任者が歩んできた道を再び歩く苦労から改めて味わうことになります。
そんなことをしていると、会社の業績グラフはまるで鋸の歯のようなギクシャクしたグラフとなります。レガシーが受け継がれていない会社の業績は行きつ戻りつの何とも歯がゆいものとなってしまうのです。
謙虚な姿勢
もう一つは、「虚懐 谷の如し」の心を持つこと。自慢のキャリアをひけらかしたくなる気持ちは抑えて、前任者からの引継ぎ、現地事情を知り理解したり等々、すべての根底に謙虚な心を置くことです。中国初心者なのですから、謙虚な姿勢で事に臨んだ方が、むしろ日本でのキャリアが生きてくる。
日本での素晴らしいキャリアと、強力なバックを持っているが故の失敗を回避し、成功に向かって進む。それは自分から始まる。「長い鞭」を使いこなすことができるようになるのは、やはり自身の取り組み姿勢によります。