万策尽きた時にはさっさと【走為上】 撤退は恥ずかしくはない

海抜173mの童牛嶺から臨む大連・開発区の街並み(2017年11月)

 

笑顔で握手を交わし乾杯から始まった日中合弁事業。しかし、双方の思惑の違いが表面化し、合弁解消に至るケースが多いこと…

 

成功のヒント 中国ことわざ・格言

善始善終

  • 中国語:善始善终   [ shàn shǐ shàn zhōng ]
  • 出典:庄子(大宗师)
  • 意味:初めから終わりまで最善を尽くす。真面目に処理をすることの例え。立つ鳥跡を濁さず。

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走為上(走ぐるを上と為す)

  • 中国語:走为上   [ zǒu wèi shàng ]
  • 出典:南齐书(王敬则传)
  • 意味:走(に)ぐるを上と為す。逃げるべきときには逃げるのが上策である。面倒なことが起きたら深入りせずに逃げるのが得策である、との意。臆病や卑怯で逃げるのではなく、勝ち目のない時には後日の再起のために勇気ある撤退が必要であるとの教え。兵法三十六策の内のひとつ。「三十六計逃げるに如かず」ともいう。

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匹夫の勇

  • 中国語:匹夫之勇   [ pǐ fū zhī yǒng ]
  • 出典:孟子(梁惠王下)
  • 意味:思慮が浅く、只血気にはやって、がむしゃらに行動したがるだけの勇気のこと。小人の勇。

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惊慌失措

  • 中国語:惊慌失措   [ jīng huāng shī cuò ]
  • 出典:北齐书·元晖业传
  • 意味:驚いて慌てふためくこと。周章狼狽する。惊慌とは驚き慌てるさま。失措とは自失すること。

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※ 山 上るは容易なれど下山 難し

  • 中国語:上山容易下山难   [ shàng shān róng yì xià shān nán ]
  • 意味:巷間言われている言葉。山に登るのは体力を費やすが、危険なことはあまり発生しない。しかし、下山するときに道に迷ったりして難しい。行きは無事でも、帰りには何事か起こるかもしれない、との意。行きは良い良い帰りは恐い。

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記事:万策尽きた時にはさっさと【走為上】 撤退は恥ずかしくはない

思わぬ通告

 日中合弁は、笑顔で握手を交わし乾杯から始まった。将来の発展を思い描きつつ、日中双方がタッグを組んでの合弁事業。

 ところが、相手側から突然の合弁解消通告に「惊慌失措」、驚き慌てふためく日本側。その理由はというと、利益の享受が待ちきれなくなった、事業に対する思惑が違っていた、或は法運用の変更、等々状況は様々。

 あの時の握手と笑顔はいったい何だったのか、日本側にとっては突然のことにしか見えません。それにしても、途中で頓挫する日中合弁事業の多いこと。

 

さっさと

 信義に悖る、と憤慨したところでどうにかなるものでもありません。儲かりそうだと見るや我も我もと群がり、ヤバそうだとなればさっさと引き上げる。そんな光景は日常茶飯事的に見ることのできるのが中国社会です。

 例えば、2014年頃から中国で始まったシェア自転車。環境にやさしく、乗り捨て自由等々、手軽なこともあって、瞬く間に中国全土に広がり爆発的なブームとなりました。2017年頃には日本にも進出し、いくつかの地域で事業を開始しました。しかし、その頃には本国ではブームは一転して急ブレーキがかかり、敢え無く頓挫してしまいました。日本での事業も短命であったようです。

 事業が行き詰っても、何とか立て直して…と頑張り続けるのが日本人。しかし、必要以上の悪戦苦闘は、気がついたら周りは皆退いてしまって自分だけが残り、ようやく事の顛末を知ることになりかねません。

 走ぐるを上と為す」とは兵法三十六計のうちのひとつ。様々な計略があるが逃げることよりも優れた計略は無いと。勝ち目がないと見たならば直ちに退却せよと古くから言われているのです。

 

当たって砕けろ

 消費者モラルの欠如だったのか、或はビジネスモデルが拙かったのか。シェア自転車のブームが一気にしぼんでしまった原因は別として、一旦は勝算ありとみて始めた事業が、やってみたらそうでもないことがわかったら、さっさと引き上げるということです。日本でも事業を継続するメリットが感じられなくなったのでしょう。

 日本人は分が悪くても戦って戦って、活路を見いだそうとする。それが不首尾となれば、今度は当たって砕けろとばかりの玉砕戦法。それは、残念ながら「匹夫の勇」でしかありません。中国では、勝算がない時には戦いを回避するのが鉄則なのです。

 中国社会で変わり身の早さには、昔からの兵法が厳然として生きていることが、背景にあるのかもしれません

 

行きはよいよい

 中国側の合弁相手方が撤収する速さに比し、中国に進出した日本企業が中国から撤退するのはたいへんな労力と時間を伴います。

 日本での店舗経営のノウハウをもって意気揚々と大連で事業を開始したある日系企業。業績が思うように伸びず、やむなく撤退をすることになったその企業の経営者は、ため息交じりにこう言いました。

 「撤退の事務手続きが非常に煩雑で、なお且つ日本から持ち込んだ機材が持ち出せない。既に何カ月も経過している。進出した時とは手の平を返したような対応に振り回されている」と。

 これこそ、「 上るは容易なれど下山 難し」という言い伝えそのもの。

 しかしながら、生産性のない撤退手続きがいくら煩雑であるからと言って、夜逃げ同然で撤退するのはルール違反でありいただけません。

 ある朝、従業員が出勤したら外国籍の経営幹部は全員姿をくらましていたという某国の現地企業の話は情けない限りです。思うように業績が上がらず投げ出したのでしょう。その外国籍の社員は自国に逃げ帰ればいいのでしょうが、可哀そうなのは事情が全く分からず、置き去りにされた中国人社員です。

 

最後はきちんと

 どんなに面倒でも「善始善」と、最後まできちんとしようとするのが日本人。

 何が何でも成功するぞという意気込みと、用意周到にして中国に進出するのですが、必ずしもうまく行くとは限りません。それでも頑張って踏ん張ろうとするのが日本人ですが、中国では、ダメと判断したら速やかに退却するのが得策。

 退却は決して敗北でもなく、恥ずかしいことではないのです。

 むしろ、それは再起へのスタートの第一歩でもあるのです。撤退を決めたら最後まできちんと処理をすることが、次のチャンスが来る時まで信頼を持ち続ける要点ではないでしょうか。

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