【心を攻むるを上と為す】力で人は動かない ソフトパワーに磨きを
「心を攻むるを上と為す」とは三国志にある用兵に関する言葉であるが、現代においても会社マネジメントを行う上で重要なポイントである。目の前の一人の社員を大切にするということは全社員を大切にすることと同義なのです。
成功のヒント 中国ことわざ・格言
好事門を出でず、悪事千里を行く
- 中国語:好事不出门,恶事行千里 [ hǎo shì bù chū mén , è shì xíng qiān lǐ]
- 出典:景德传灯录
- 意味:好いことは人に知られることが容易ではないが、悪事はみるみる伝わる。だから、悪事はするべきではない、との戒めの言葉。
心を攻むるを上と為す
- 中国語:攻心为上 [ gong xīn wéi shàng ]
- 出典:三国志
- 原文:用兵之道,攻心为上,攻城为下(用兵の道は心を攻むるを上と為し、城を攻むるを下と為す)
- 意味:相手を心服させて支持を得る方が良い、との意。力だけでは人は動かない。部下が気持ちよく仕事をしてくれるような接し方が成功への条件。
心照不宣
- 中国語:心照不宣 [ xīn zhào bù xuān ]
- 出典:夏侯常侍诔
- 意味:互いに口に出さないが心の中ではわかっていること。
痛不欲生
- 中国語:痛不欲生 [ tòng bù yù shēng ]
- 出典:吊说
- 意味:生きる気力が無くなるほどの悲痛。身も世も無く嘆き悲しむこと。打ちひしがれる。
記事:【心を攻むるを上と為す】力で人は動かない ソフトパワーに磨きを
途方に暮れる社員
ある中堅社員が会社の定期健康診断がきっかけで腎臓に重大な問題があることがわかりました。主治医によれば腎臓移植する以外に助かる方法はないとのことです。
当時の庶民にはとても負担できそうにない医療費がかかることから、「痛不欲生」、打ちひしがれているとの報告がありました。
死という途方もない難題に直面している社員を前にして、とにかくできることはしてやらなければとの思いが湧いてきました。これを「同苦の心」というのかもしれません。
会社としてその社員を助けることとし、移植手術は成功、命を取り留めました。
社員に寄り添う
重病の社員を日本人総経理が救ったというエピソードは、地元新聞でも紹介され、会社の得意先でも知れることとなりました。「好事門を出でず」と中国古典にありますが、実際にはそんなことは無いようです。
人生には、悲しみ、喜び、別れ、出会いなど、悲喜こもごもであり、それは、どこの国のどんな時代の誰でも同じで、たとえ習慣や環境が違う中国であっても人としての喜びや悲しみは何ら変わりません。
中国事業を展開する会社の総経理として、仲間でもある社員の身に何事かが発生した際には、総経理として寄り添うことが求められます。特に社員にとっての「悲しみ」のときには、彼と同じような気持ちで当たることが大事であると思います。「コツ」や「テクニック」という概念ではなく、「人間と人間の心の関わり」という見方で部下社員と向き合うということです。
目の前にいる人
また、例えば、社内の営業会議では、営業社員達に対し「会社にとって最も重要なのが会社を牽引する営業部の君たちだ」、などと話します。しっかりと自覚をもって励んでもらいたいという気持ちを訴えたということです。
別の総務部の会議では「会社の縁の下の力持ちとして頑張っている君たちが会社で最も大事な部門だ」と。すると、社員達の間で「営業部が最も大事だと総経理が言った」、「何言ってんだ、総務部が大事だと言ってたぞ」と。
「最も大事なのは君たちだ」とどの部門に対しても同じことを総経理は言う。口先だけでものを言うと思われそうですが、実は、自覚をもって仕事をしてもらいたい、ということを訴え、動機付けをすることが目的であって、口先で適当なことを言ったわけではないのです。
「重病の社員」や「会議」の件のいずれにも共通しているのが、目の前にいる一人の社員を、目の前にいる一部門の社員達に全力で寄り添っている、ということです。
目の前にいる人からその後ろ側にいある別の社員にも気持ちが伝わっていくのだと思います。「心照不宣」、彼等にも総経理の気持ちはわかっている。
ソフトパワー
どの部門に所属していても、皆がはつらつと活躍してもらいたいという思いで、その時々によって一人に、或はその部門にスポットライトをあてるのです。
総経理は自分の目の前の人、ひとりに、また目の前にある一つの部門に全力で相対する。彼らのこの種の情報伝達スピードは恐ろしく早く、且つ家族や友人など広範囲にまであっという間に届きます。
コツやテクニックではなく、総経理自身の人間性で部下社員に向き合うことこそ大事であると考えます。言葉を換えれば、「心を攻むるを上と為す」。言ってみれば、ハードパワーではなく、ソフトパワーによる影響力を発揮すべきではないか。
社員がうれしい時は共に喜び、悲しい時には同じ気持ちで寄り添う。目の前の一人の社員を大切にするということは全社員を大切にすることと同義なのです。