【暢所欲言】 イラつく言葉の壁 だが乗り越えないことには成功はない

秋の労働公園(大連2016年10月)

 

中国赴任直前に、上司から「言葉よりも大事なのは仕事のセンスだ」と励まされた。そして中国語が全く分からないままに中国に赴任。言葉は通訳に任せて仕事を始めたのですが…

 

成功のヒント 中国ことわざ・格言

言は心声を為す(言為心声)

  • 中国語:言为心声   [ yán wéi xīn sheng ]
  • 出典:法言(问神)
  • 意味:内心から発する声。胸の内。言葉は人の考えや情感を反映する。言葉は心を表すものであり思想の表出である。

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股肱心膂(ここうしんりょ)

  • 中国語:股肱心膂   [ gǔ gōng xīn lǚ ]
  • 出典:尚書(君乐)
  • 意味:「股」は足のもも、「肱」は手の肘。「心」は心臓、「膂」は背骨。頼みとする部下、腹心のこと。

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舌は兵なり(舌者兵也)

  • 中国語:舌者兵也   [ shé zhě bīng yě ]
  • 出典:説苑
  • 原文:口者关也,舌者兵也,出言不当,反自伤也。(口は関なり、舌は兵なり。言を出して当たらざれば、反って自らを傷う。
  • 意味:口は関所、舌は兵のようなもの。発した言葉が適当でなかった場合は、かえって自分を傷つけてしまう。慎重にとの警告。

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暢所欲言(ちょうしょよくげん)

  • 中国語:畅所欲言   [ chàng suǒ yù yán ]
  • 出典:三垣笔记(崇桢)
  • 意味:言いたいことを遠慮なく言うこと。

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蛮横にして理無し(蛮横無理)

  • 中国語:蛮横无理  [ mán hèng wú lǐ ]
  • 出典:武松演义
  • 意味:横暴で理不尽であること。

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*** 面白ことば ***

跟屁虫

  • 中国語:跟屁虫   [ gēn pì chóng ]
  • 意味:人の後ろにまとわりついて離れない人。金魚の糞。自分の考えや主張を持たず他人に追随する人のこと、との意も。金魚の糞。

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記事:【暢所欲言】 イラつく言葉の壁 だが乗り越えないことには成功はない

半人前

 中国現地会社の総経理(社長)として赴任を間近に控えてはいるが、実は「中国ど素人」。「謝謝(しぇーしぇー)」と「再見(ざいちぇん=さようなら)」しか知らないと不安を抱えていることを察知した上司が、「言葉よりも大事なのは仕事のセンスだ」と言った。

 着任後は、右も左も分からないのですから、頼らざるを得ない通訳は正に「股肱心膂」。

 ということで、総経理だとは言っても、通訳がいなくては仕事ができない半人前、情けない限りです。

 

まどろこしい

 着任間もないある時、顧客であった欧米企業からのクレームに対応した。双方の通訳が同席し対面。顧客の代表者は英語しか話さない。その通訳は英語と中国語で日本語はできない。当方の通訳は中国語と日本語。英語は話さないので、英語→中国語→日本語の順で通訳されることになった。

 それはよいのだが、相手方の言い分を日本語で理解したころには、相手方が次の発言をするので、反論するタイミングが無く一方的に押しまくられたことがありました。

 そんな複雑な場面ではなくとも、通訳を挟んだ二言語のコミュニケーションはそうでない場合に比べて二倍の時間がかかり、加えて、自分の思いが相手に伝わったのか、今ひとつ確信が持てず、イライラが募ることが避けられません。

 まどろこしいとはいえ、通訳の存在はもちろん大いに助かるのですから、「跟屁虫」と例えるのは申し訳ないが、その存在無くしては一人での行動ができない自分が情けない。

 

心が痛む

 せめて言葉のストレスを低減させるために、レベルの高い通訳を活用すればよい、とも考えられます。

 しかし、高レベルの通訳にはそれなりの高い水準の給与が必要です。そうすると、他の社員との給与バランスがゆがんでしまい、会社運営に支障が発生することになりかねません。

 また、総経理という立場上、時には少々辛辣なことを顧客に対して言わざるを得ない場面があります。

 その時でも、通訳者は職務を全うしようと懸命に取り組んでいるにもかかわらず、相手方の中国人からは「お前は日本人の味方か!」と、何とも「蛮横無理」な発言が。これには心が傷みました。

 

高い障壁

 そんなこんなで、言葉を巡るストレスや効率の悪さには閉口しました。

 言為心声」、自分の思いは通訳ではなく自らの口から出した方が周囲にはうまく伝わる、というのが経験則です。

 仮に、自分がどんなにハイレベルの「仕事のセンス」を持っているとしても、それを活かすにはどうしても「言葉」というツールが必要です。

 自力で中国語を操ることは簡単ではありませんが、総経理はその高い障壁を何としても越えなければ成功の二文字は見えてこないのです。

 日本本社からたまにやって来る出張者ならいざ知らず、中国で長期駐在している日本人が物を言わずして周囲との意思の疎通ができるわけがありません。

 

意思疎通

 会社組織を動かす責任者である総経理が言語の壁に阻まれることがあっては、思うような組織運営はできません。

 部下社員であれ取引先であれ、気持ちを通い合わせることが、成功させるためにどうしても必要です。特に日中という二国間でひとつの事業を共同して行い、成功に導く上では両者の間で「暢所欲言」のコミュニケーションほど大事なものはないと考えます。

 つまり、中国土俵で戦う総経理には、中国語をどの程度操れるかが成否に大きく影響します。

 

成否を握る言葉

 その際の要点のひとつが「舌は兵なり」。一度発せられた言葉は元には戻せないのですから、微妙な言葉が正確に伝わらなかったら、不協和音の元に。

 とはいえ、言葉を口に出さないことには何も始まらない。下手でもいいから自分の口で話す方が、総経理としての気持ちが伝わるように思います。

 少ない中国語ボキャブラリーを駆使して自分の思いを必死に伝えようとする総経理。何を言おうとしているのか懸命に理解しようとする相手。そういう両者の思いが良い方に作用するのだと思います。

 赴任前に上司が「言葉よりも仕事のセンス」と言ったのは、不安に負けるなとばかりに、背中を押そうとして発した言葉であって、実際には「言葉も仕事のセンスも両方とも必要」ということに他なりませんでした。

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