【狡兎三窟】 狡くても生き残った方が勝ち チャイナリスクへの備えを
「想定外」の事態に遭遇すると、現地会社の総経理(社長)として、時として、力の無さを痛感する。しかし、それに負けるわけにはいかない…
成功のヒント 中国ことわざ・格言
狡兎三窟
- 中国語:狡兎三窟 [ jiǎo tù sān kū ]
- 出典:戦国策
- 意味:賢いうさぎは三つの巣穴を持つ。狡賢い者は用心深く難を逃れるのが上手いとの意。
絶処 生に逢う(絶処逢生)
- 中国語:绝处逢生 [ jué chù féng sheng ]
- 出典:明·冯梦龙(喻世明言)
- 意味:死地にあって命拾いをする。九死に一生を得る。絶体絶命の境地で活路を見い出すこと。
促膝談心(そくしつだんしん)
- 中国語:促膝谈心 [ cù xī tán xīn ]
- 出典:田颖(揽云台记)
- 意味:膝を交えて腹を割って話すこと。
備え有れば患い無し(有備無患)
- 中国語:有备无患 [ yǒu bèi wú huàn ]
- 出典:左傳(襄公十一年)
- 意味:日頃から準備をしておけば、万一のことが起きても心配することはない。
禍 天従(よ)り降る(禍従天降)
- 中国語:祸从天降 [ huò cóng tiān jiàng ]
- 出典:旧唐書(刘瞻传)
- 意味:思いもよらず災難がやってくること。
記事:【狡兎三窟】 狡くても生き残った方が勝ち チャイナリスクへの備えを
会社存亡の危機
2000年4月に大連に着任。その約3カ月後、突然、当局から一通の通知文書が届きました。そこには、「国有企業など政府関連施設に対する新規顧客開拓や既存の契約の更新は禁止する」といった内容が書かれています。
まだまだ現地に慣れない時期であるのに、「禍 天従り降る」との想定外に遭遇したのです。
実は、元々は、政府系の企業との合弁会社として1993年に設立され、まずまずの経営がなされていました。
ところが、1999年末になって、「政府系企業は民間企業と合弁してはならない」との通達が出されたことにより合弁を解消せざるを得なくなり、会社はやむを得ず一旦は日本独資企業の形態をとることになったのです。
しかし、息つく間もなく、その文書により営業活動範囲が極端に制限され、それまでできていた自由な企業活動ができなくなったのです。これは、会社として存亡の危機に直面することになりました。
超難題が解消
たった一通の文書によって企業活動が制限された中で有効な対応策も見い出せず、総経理(社長)として困り果てていました。
そんな時に1993年、会社設立時に支援していただいた方が、独資状態の打開策に窮していることを聞きつけ、手を差し伸べてくれました。以前の「官+民」ではなく「民+民」で新しく合弁をスタートさせたらどうか、と提案してくれたのです。
それを受けて、日本本社との間に立って交渉し、基本合意に至りました。その後も合弁協議はとんとん拍子に進み、2001年7月には改めて日中合弁企業として登録することができ、ついに大きな難題は解消されることになりました。
これこそ「絶処逢生」、九死に一生を得ることになったのです。
パートナー同士の疎通
パートナー側から1名の方に董事会(役員会に相当)に入ってもらい、経営陣の構成も固まり、撤退の窮地からの逆転劇が始まったのです。
日本式「暗黙の了解」のような曖昧さは中国向きではないので、パートナー側との間で仕事の分担も明確にしました。更に、「同床異夢」に陥らないよう日中双方の間でコミュニケーションを深めることに努力したのです。
パートナー側から派遣された董事(役員)の方と、毎朝「促膝談心」、意見交流を十分行ったのです。
それを総経理の任にあった2012年末までずっと実行し、双方の意思疎通を見事に成し遂げることができました。そのことが、業績向上や会社発展の上で、極めて大きな力を発揮した事は間違いないことだと言えます。
賢く備え
政府方針等の突然の変更はチャイナリスクだと言えばそれまでですが、事業を継続する立場からは、そうも言っていられません。中国で商売をし、且つ拡大していくためには、きれい事や正直だけではうまくいくわけがないと考えるべきです。
「狡兎三窟」とあるように、とにかく生き残りを図っておくことが求められます。「狡賢く」とは聞こえが良くありませんが、「賢く」なければ中国での成功は覚束ないのです。
複数の収入源を持つことや、会社の柱たる幹部社員の強化、社外の協力者、合弁パートナーの協力等々を揃え持つことで、会社運営の安定化を図るべきなのです。いつ何が起こるかわからない中国です。「賢兎三窟」が持論です。
厳しい社会で生き抜く
さて、この第二次合弁は極めてうまく、そして気持ちよく展開できました。安心して事業展開ができることのありがたさを感じさせてくれました。そして、この大事件を克服したことを境に会社発展のスピードがぐんぐん上がっていくことになりました。
中国古来の兵法書である「兵法三十六計」には、戦いに勝つ方策を解説してあります。誤解を恐れずに言うならば、それらの言わんとするところは、如何にして相手を攪乱し、騙し、味方を有利に導くかということであると思います。
そういう厳しい現実の中で生き抜かなければなりません。そのリーダーとして、智恵を絞りに絞って戦うことが必要です。
社員の向こう側には妻や子供たちといった彼らの家族がいて、その生活が懸かっているのです。時には自力ではどうしようもないリスクも立ちはだかってきます。会社を守り、社員達を守るには、総経理は会社経営者として、賢く「有備無患」に腐心すべきです。でなければ生き残れないということです。