【去日苦多】 酒を前にしたら大いに歌うべき たちまち当時が甦る
勇んで赴任した中国での仕事の中にも、嬉しいことよりもむしろ苦しいことの方が多いかもしれません。しかし、後から振り返るとそれぞれが楽しい思い出になっています。そして、その時々に耳にした中国ポップスと共に奮闘の光景が鮮明によみがえってきます。
成功のヒント 中国ことわざ・格言
一瀉千里
- 中国語:一泻千里 [ yī xiè qiān lǐ ]
- 出典:唐·李白(赠从弟宣州长史昭)
- 原文:长川豁中流,千里泻吴会。(長江は中流で川幅が広くなり千里の遠くまで流れ、呉の地方に注いでいる)
- 意味:仕事などがはかどり、一気に片付くこと。
引人注目
- 中国語:引人注目 [ yǐn rén zhù mù ]
- 出典:毛沢東(湖南農民運動考察報告など)
- 意味:人や物事に特徴を持たせ、人々の注意を引き起こす、との意。
寛にして畏れられ、厳にして愛せらる
- 中国語:宽而见畏、严而见爱 [ kuān ér jiàn wèi, yán ér jiàn ài ]
- 出典:宋名臣言行録
- 意味:組織管理の真髄は、「寛」で臨むと畏れられる、「厳」で臨むと愛される、というバランスにある。
去る日は苦(はなは)だ多し
- 中国語:去日苦多 [ qù rì kǔ duō ]
- 出典:曹操(短歌行)
- 原文(抜粋):人生幾何 譬如朝露 去日苦多「人生幾何(いくばく)ぞ 譬(たと)えば朝露の如(ごと)し 去る日は苦(はなは)だ多し」
- 意味:人の命はどれほどか、それはたとえば、朝露のようだ、過ぎ去りし日の、なんと多いことか。
熟能生巧
- 中国語:熟能生巧 [ shú néng shēng qiǎo ]
- 出典:镜花缘
- 意味:机上で学ぶことは大切であるが、同時に実地の経験が大事であるとの意。慣れれば上手になる。習うより慣れよ。
記事:【去日苦多】 酒を前にしたら大いに歌うべき たちまち当時が甦る
入門曲
中国ど素人が上海に赴任。毎週二回、毎回二時間、中国人の先生から教わった中国語。先輩駐在員に連れられ行ったカラオケで、「熟能生巧」とばかりに懸命に中国語で会話。
少ないボキャブラリーで、発音も今ひとつの状態では、なかなか相手方には通じませんでしたが、とにかく、生活や仕事の中で中国語に親しむことに心がけました。。
そんな赴任直後を思い出させるのがこの歌「月亮代表我的心」です。
テレサテン(中国名:邓丽君)が1977年にカバーし、その後、中国のスタンダードナンバーになっています。
曲調が優しく中国語の歌詞も覚えやすいことから、中国初心者が初めて習う定番の一曲です。その後、社内イベントなど、事があるごとに歌うことになりました。
優しさも過ぎると
中国語の勉強を始めたころ、街でよく耳にしたのが「心太軟」というタイトルの曲。1997年ごろの大ヒット曲だそうです。
題名の意味がまだよく理解できず、中国語の授業の時に先生に尋ねたことがありました。先生は「心が優しすぎて、かな?」と教えてくれました。
君はいつも優しすぎる、もともとはそんなに強くないのに、一晩中涙を流して…
彼を思う気持ちを歌っているのか、ちょっと悲しい内容ですが、とてもいい曲です。
若い男女間のことは別として、仕事上では自分が担当する会社組織を管理する上で、社員に対する思いやりは大事ですが、優しすぎてはこの中国では成功するとは思えません。
「寛容」で臨むと社員からは愛される、「厳格」で臨むと畏れられる、と考えるのが普通ですが、実は、中国の格言では「寛にして畏れられ、厳にして愛せらる」のが管理の真髄だと。
要は「厳」と「寛」をバランスよく使うことができるリーダーになりたいものです。
驚きの企画
ある時、会社ビジョンをぶち上げ、それを社員に周知させるための社員大会を企画しました。
しかし、社内で全体会議など一般社員も参加する会議では、人数も多いことから途中であくびをしたり、見るからに緊張感を欠いた、中身の薄い会議になってしまうことが少なくありません。
そんなことが懸念されたので、一計を案じました。
それはこうです。ちょうどあくびが出そうな会議の中ほどで、女性社員によるダンスパフォーマンスを入れる案を考えたのです。退屈な会議で眠くなってきそうなころに、「引人注目」をとの計略です。
数名の女性社員にお願いをしたところ快諾を得ました。と言うのも、一般的な中国人社員は、人前で踊ったりコントをしたりするのが大好き。衣装やポンポンを揃え、事前に動画サイトで振り付けを練習し、本番では見事なパフォーマンスを披露してくれました。
この企画には会議に参加した社員達にとっても予想外のことで、会議の退屈さは吹っ飛んだようでした。
そのダンスパフォーマンスの際の音楽が、「跟我出发」というアップテンポの曲です。「さあ、わたしと一緒に出発!」という意味のこの曲はキックオフミーティングにはぴったり。「歓楽中国行」というテレビ番組のテーマ曲で、その番組の司会者である董卿さん自身が歌っています。
この決起大会の最後には、高らかにキックオフを宣言し、それに呼応して「ラデツキー行進曲」を会場内に流し、記念の特製マグカップを社員一人一人に手渡し、このキャンペーンへ参画の動機づけを行いました。このキャンペーン、結果は別として上々のスタートを切ったのです。
十八番はこれ
「至少还有你(少なくともあなたがそばにいる)」という名曲で、2000年1月ごろから大ヒットしました。
同年4月に大連に赴任した時、街を歩くとCDショップなどからよく聞こえてきました。新任地へ異動し不安な中にも期待と少しの余裕の中で、耳にした忘れられない曲のひとつです。
仕事も波に乗りはじめ、その後の会社業績がが「一瀉千里」で発展する兆しを実感する毎日でした。そんなことで、カラオケで一曲、という時にはこの「至少还有你」を気持ちよく歌っていました。で、いつの間にか歌詞も覚え自慢の十八番となりました。
大いに歌うべし
約15年間の駐在期間。過ぎてしまえば、いろいろな出来事は誠に多かった。三国志の曹操は「去る日は苦(はなは)だ多し」と言っています。加えて、長かったと思えても、実は朝露のようなもの。だから、酒を呑むしかないではないか。酒を前にしたら大いに歌うべきだ。
曹操のようにはいかないけれど、当時の歌を聞けばたちまち、当時が甦るのです。