【己の欲せざる所は人に施すなかれ】これを怠るときつい報復を食らうぞ
自分のために、他人のために、前後を考えた仕事が求められる。いい加減な仕事をしていると、いずれきつい竹篦返し(しっぺいがえし)をくらうことに。事がそこに至ってしまうと解決することが容易ではなくなります。
成功のヒント 中国のことわざ・格言
▮今回のことわざ(五十音順)
一丝不苟 / 一糸不苟
- 中国語:一丝不苟 [ yī sī bù gǒu ]
- 出典:儒林外史
- 意味:細かいところまで真面目で少しもいい加減なところが無いこと。いささかもゆるがせにしない。
己所不欲,勿施于人 / 己の欲せざる所を、人に施すこと勿れ
- 中国語:己所不欲,勿施于人 [ yǐ suǒ bù yù, wù shī yú rén ]
- 出典:論語(颜渊篇第十二章)
- 意味:人からされたくないことは、自分の方からも人にしない。他人の心をもって自分の心とするのが良い、との意。
勃然大怒 / 勃然大怒
- 中国語: 勃然大怒 [ bó rán dà nù ]
- 出典:漢書(谷永传)
- 意味:突然顔色が変わり限度を超えるほどに怒ること。
无情无义 / 無情無義
- 中国語:无情无义 [ wú qíng wú yì ]
- 出典:紅楼夢
- 意味:少しの情義(人情と義理)も無いこと。冷酷無情であることの例え。
落井下石 / 落井下石(らくせいかせき)
- 中国語:落井下石 [ luò jǐng xià shí ]
- 出典:柳子厚墓志铭
- 意味:落し穴に落ちた人を助けるのではなく、返って下に追いやり、更に意思を投げつける。人の弱みにつけ込んで痛めつけること。
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記事:【己の欲せざる所は人に施すなかれ】これを怠るときつい報復を食らうぞ
▮弱みにつけ込む
間もなく勤続十年を迎えようかという、あるベテラン中堅社員。あろうことか、彼は、顧客からの大切な預かり物を勝手に持ち出し、返してほしければ金を出せ、というとんでもない要求を突きつけたのです。
何しろ、ずっと仕事をやってきたのですから、仕事の内容には熟知しています。それを逆手にとったその行為は、「落井下石」。井戸に落ちた人に上から石を投げるようなもの。もちろん重大な規則違反。いったい何故、ベテラン社員がそのような蛮行に至ったのでしょうか。
▮激怒した社員
実は中国では会社と社員は、国の法律の定めにより「労働契約」を結び、雇用関係が成り立っています。その契約は一年とか二年などの契約期間が満了する頃に、更新するか否かを協議します。通常は社員は更新を希望するのですが、会社側としては普段の勤務態度や業績などを検討し方針を決めます。
彼の場合は幹部会議にて更新の可否を検討の結果、素行の面で問題が多く不可相当との結論となった。通告を受けた彼は激怒。「勃然大怒」の様相は遂に蛮行に至ったのです。
▮その訳とは
中国は「個人(社員)」を重要視する社会です。もし社員と会社の間で係争が発生した場合、その解決に苦労するのは必至です。従って、社員に何らかの問題があって解雇したいと会社側が考えても、そう簡単には手を出せないのが現実です。
そこで、労働契約の契約期限を、法律上認められている「一年間」とし、問題社員が発生した場合、最長一年待てば労働契約が満了し、そこで更新しなければ「問題解決」ということになります。
さらに言えば、当時の規定では、十年目の更新をした場合は、無固定期限契約となる、つまり、それまでの期限付き契約とは異なり、言わば定年までの雇用が確定することになります。社員にとって最後のハードルとも言えます。
そういう背景があって、件の激怒した社員についても同様で、一年契約を繰り返し、次は十年目というときに更新されなかったことで激怒、蛮行に至ったのです。
彼なりに考えても、更新するか否かを延べ九回も検討し、更新を重ねてきたのに、十回目で更新しないというのはいかなることか。あまりにも「無情無義」というもので殺生ではないか。納得できるものではない。そう考えたことも理解できます。
▮まあいいかでは…
一方で、労働契約の更新時期に更新することでよいのか否か、協議決定することが別の問題が内在していたのです。
労働契約が更新時期に至る都度、幹部社員たちはその社員の更新の是非を検討するのが面倒になり、つい「まあいいか」といい加減に対応してしまう。仮にその後に問題が発生したとしても次の更新を待って対処すればいいと安易に考えてしまいかねない。
しかし人が人を評価するということは、場合によってはその人の一生をも左右する大事なのですから、本来、「一糸不苟」、いささかもゆるがせにできないはず。いい加減に済ますことは、実は後々の大問題になる可能性を残すことだと言えます。
▮人を思いやれるか
新卒で入社し十年目というと、結婚をして子供ができていても不思議ではない年頃。ますますかかるであろう子供の教育費などのことを思えば、突然収入減を絶たれることになり、憤懣やるかたないことです。
自分がその立場になったら、やはり同じように愕然とするであろうことは明白です。論語には「己の欲せざる所を、人に施すこと勿れ」とあります。人の心を慮ることも必要なのです。
会社運営者としては、多くの社員の中には途中で退場願わねばならない人も出てくることを見越しておかねばなりません。入社後、できるだけ早く個々の社員の能力や性格など、会社にとってふさわしいかどうかを見極めて対応することが大事です。いずれ会社についていけなくなるであろうと思われる社員を、いつまでもずるずると引っ張るのは、その社員のためにもなりません。
自分のために、他人のために、前後を考えた仕事が求められる。いい加減な仕事をしていると、いずれきつい竹篦返し(しっぺいがえし)をくらうことに。事がそこに至ってしまうと解決することが容易ではなくなります。