【志は易きを求めず】とのことわざ 如何に打開 伸び悩む中国事業の業績

でっかい市場なのに業績が伸びないのは何故(2013年9月大連市街地)
膨大な中国のマーケットに魅せられて意気揚々と現地に進出。未経験の習慣の違い等にも「志は易きを求めず」とばかりに、真正面から挑戦と努力を続けた。何とか事業を拡大したのに、いつの間にか業績は停滞気味になってしまった。
成功のヒント 中国のことわざ・格言
苟且偷安 / 苟且偸安(こうしょとうあん)
◆中国語:苟且偷安 [ gǒu qiě tōu ān ] ◆出典:文定集·廷试策 ◆意味:いい加減にその場逃れをし、一時の安楽をむさぼること。「苟」と「且」はどちらもいい加減に物事を扱うこと。 「偸安」は目の前にある楽なことだけを楽しむこと。 |
志不立,如无舵之舟 / 志 立たざるは舵無きの舟の如し
◆中国語:志不立,如无舵之舟 [ zhì bù lì, rú wú duò zhī zhōu ] ◆出典:王陽明(教条示龙场诸生·立志) ◆原文:明·志不立,如无舵之舟,无衔之马「志 立たざるは舵(かじ)無きの舟、銜(くつわ)無きの馬の如し」 ◆意味:志を持たないということは、舵のない舟やクツワのない馬のようなもので、進むべき方向が定まらない。 |
志不求易 / 志は易きを求めず
◆中国語:志不求易 [ zhì bù qiú yì ] ◆出典:後漢書(虞诩传) ◆原文:志不求易,事不避难「志は易きを求めず、事は難(かた)きを避けず) ◆意味:しっかりとした志を持っていれば、事を行うのに安易な道を求めようとはしない、困難な事にも避けることはしない、との意。 |
千篇一律 / 千篇一律
◆中国語:千篇一律 [ qiān piān yī lǜ ] ◆出典:诗品 ◆意味:千篇の文章が公式化されていて同じような調子であること。物事が一本調子で変化に乏しいこと。転じて、どれをとっても同じようで面白味の無いこと。 |
記事:【志は易きを求めず】 如何に打開 伸び悩む中国事業の業績
▮志は易きを求めず
膨大な中国のマーケットに魅せられて洋洋と現地に進出。未経験の習慣の違い等にも後漢書にある「志は易きを求めず」とばかりに、真正面から挑戦と努力を続け、何とか事業を拡大。しかし、いつの間にか業績は停滞気味に陥った企業は少なくありません。
中国全土に店舗展開をしていたグローバル小売企業ですら、進出してから24年で完全撤退するという憂き目に会いました。なぜそうなったのか、先行き見通しやカントリーリスクなど、それなりの理由があるのでしょうが、その間の苦労を思うと残念でなりません。また、撤退には至らないまでも、業績の不振や伸び悩みの壁にぶつかっている企業もあるようです。
▮苟且偸安
日本から派遣され現地で奮闘する総経理など、事業に携わる社員達は赴任当初は懸命に仕事に取り組むはずです。しかし、この程度の打ち込みで得られる業績はこれくらいだ、と言うこともわかり、始めは大きかった挑戦意欲が徐々に薄れてきます。仕事や生活に慣れてくるとどうしても適当にお茶を濁すことも増えてくるでしょう。「苟且偸安(こうしょとうあん)」のことわざは、いい加減に対応し眼前の楽しみをむさぼる、それは易きに流れると言われる人間として仕方ないことなのかもしれません。
そんな人に限って業績に伸びが無くなった時に、必要なコストまでカットして益出しをしてしまい勝ちです。なにせ、まあまあの業績を残しておけば、遠からず日本本国へ帰任できるわけですから、無理に挑戦や冒険はする必要が無いのです。
▮千篇一律
そんな状態を打開するためのひとつの方法はイノベーションをすること。イノベーションとは中国語では「創新」。新しいものを創造するということで、イノベーションセンターを設けて具体策を検討することですが、次の問題はどこにセンターを置くか、誰が主体になって検討を進めるのか、ということです。注意すべきは半自動的に上海に置こうとすることです。上海が中国経済の中心地ではあるのですが、中国全体のスタンダードではありません。
上海は中国の中で突出した超大都市で、まるで別世界。その上海で将来の中国事業の発展のカギを握る事業創新を考えても妥当な「解」が得られるとは思えません。何でもかんでも上海だ、北京だ、という考え方は「千篇一律」と言わざるを得ません。
今後の中国ビジネスをどうやっていくかを考えるためには、中国国内の標準的なところ(たとえば大連)で首までどっぷりつかることが不可欠だと思います。上海にセンターを置くことは中国音痴の日本本社が言いそうなことです。当たり前のことをしていたのでは社員達の心には響きません。
▮志立たざるは舵無きの舟の如し
日本本社から派遣されて現地会社の総経理(社長)に任じられ、中国ビジネスの現場マネジメントを行っているとはいえ所詮はサラリーマン。もしも、何年かすれば本社に帰るのだというような気持ちでいるとすれば、イノベーションとは対極にある、薄っぺらな存在でしかありません。それでは勝利は望むべくもありません。
中国明代の思想家である王陽明は「志 立たざるは舵(かじ)無きの舟の如し」という言葉を残しています。総経理(社長)が志を持っていないとすれば、舵のない舟のようなもので、どこに向かうのかわからないというのです。それでは社員達が可哀そうです。
志とは目的意識や何のためにという強い意志とも言えます。赴任時に持っていた燃えるような志が失せてしまったとしたら、商品やスキームなどの技術的なイノベーションもさることながら、総経理自身や経営トップ層の頭の中を創新した方が良いのかもしれません。