【孤掌、鳴らし難し】と韓非子 中国で成功のために不可欠なこと…

現地事情を理解しなければ成功できない (2016年10月大連中山広場の歴史建造物)
孤掌、鳴らし難し
性悪説で名を馳せる韓非子には「孤掌、鳴らし難し」という言葉があります。原文では、「君主の患いは応ずる者がないことである。故に、片手だけで手を拍っても、手を疾く振っても音は無い(原文:人主之患、在莫之応、故曰、一手独拍、雖疾無声)と。これは、人間は一人きりでは生きられないし、何もすることが出来ないということ例えたことばです。現代を生きる人、なかんずく、中国に派遣された、或は中国の現地で起業した人など、中国で業績を上げようとする日本人にとっては肝に銘ずべきことわざです。
何せ、中国は日本人にとっては異国の地であり、政治体制を始め習慣や考え方など日本とは大きく異なります。その違いがわからないまま、事業や会社運営を進めようとしてもうまく行くわけがありません。そう簡単にはうまくいかないのが中国です。
そもそも、仮に中国で5年、10年生活し現地理解が進んだとしても、地元で生まれ育った中国人にはかないっこないのは明白です。ましてや、中国に来てしばらく経っただけで、「中国がわかったよ」と言う日本人に至っては、何をかいわんや、です。
沾沾自喜
日本本社の命を受け中国に赴任した人達は所詮Bクラス人材だ、と揶揄されることがあります。エース級であれば本社中枢に配属されているのでしょうから、中国に派遣される社員はAクラスではないのかもしれません。
しかしながら、中国に派遣される人の共通点は、日本では役職や経験は様々であっても、皆それなりに実績を上げてきているということです。「問題児」を高い経費をかけて「飛ばす」場所ではないことくらいは誰にでもわかります。
いずれにしても「選ばれた人材」として中国に赴任して、会社からは運転手がついた車をあてがわれ、社員からは総経理(社長)と言われ、つい自惚れた意識を持ってしまう。日本での実績と現地での待遇が赴任した日本人に自惚れをもたらすという訳です。史記には「沾沾自喜」と、実力以上に自分が優れていると思い得意になることを指すことわざがあります。自ら喜ぶことが体に付着すると他人からは鼻につくというものです。
紙上談兵
赴任当初はやる気満々であったはずですが、現地事情に目を向けようとせず日本国内での経験やノウハウだけで運営するのは、言わば机上の空論。史記の著者である司馬遷は「紙上談兵」と、紙の上で兵を談じるようなものだと言っています。日本でノウハウや経験を如何にたくさん持っていても、現地事情を軽く見て途中で挫折し、撤退を余儀なくされたケースがどれだけあったことか。
如何に秀でた能力を持ち合わせていたとしても、中国で自身が一人でできることはたかが知れたものです。実は、現地事情がわかっていないという、言わばその日本人にとってのハンディを補ってくれるのが現地社員、スタッフです。信頼できる中国人スタッフの支えは中国での事業を成功させるためには、必要にして不可欠です。
二人同心,其利断金
易経にも「二人 心を同じくすれば、その利 金を断つ」とあります。理解ある協力者を得ることが事業成功の重大なポイントであると言えます。できれば複数の協力者を見つけ出し、育てて社内の要所に配置すれば強力な布陣が出来上がります。
現地の事情など自分の不足する所は彼らの協力に委ね、彼らに足りないマネジメント分野などは自分が補う、相互の協力関係を実現させることこそ総経理(社長)としての大きな仕事です。
時間はかかると思いますが、志を同じくする仲間が団結すれば、大きな勢力とも十分に戦えることになります。どのような業種であれ、また、規模の大小を問わず中国で事業を成功させるには、責任者の燃え上がるような情熱、努力・工夫、それらの基礎には自信の人間力が必要であることは言うまでもありません。結局、中国で事業を成功に導く肝は総経理自身にあるということです。
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成功のヒント 中国のことわざ・格言
孤掌难鸣 / 孤掌、鳴らし難し
◆中国語:孤掌难鸣 [ gū zhǎng nán míng ]
◆日本語表記:孤掌難鳴(こしょうなんめい)
◆出典:韓非子(功名)
◆原文:人主之患在莫之应,故曰:一手独拍,虽疾无声。
◆意味:片方の手のひらだけでは拍手して音を鳴らすことができないように、何事も一人の力だけでは成し遂げるのが難しいということの例え。
沾沾自喜 / 沾沾自喜
◆中国語:沾沾自喜 [ zhān zhān zì xǐ ]
◆出典:史記(魏其武安侯列传)
◆意味:実力以上に自分が優れていると思い得意になること。自惚れること。
二人同心,其利断金 / 二人 心を同じくすれば、その利 金を断つ
◆中国語:二人同心,其利断金 [ èr rén tóng xīn,qí lì duàn jīn ]
◆出典:易経(系辞上)
◆意味:二人が心を合わせて協力すれば、金属でも断ち切るような力を発揮するとの意。
纸上谈兵 / 紙上 兵を談ず
◆中国語:纸上谈兵 [ zhǐ shàng tán bīng ]
◆出典:史记(廉颇蔺相如列传)
◆意味:机上の空論。紙の上で兵の動かし方を議論すること。