孟子は【衆寡敵せず】と言った けれど無勢が多勢に勝った! その要点とは

大連・労働公園から市街地ビル群を臨む(2019年5月)
わずか2.5%の市場占有率しか持たないちっぽけな会社が、97.5%シェアのガリバー企業を目の前にしてどうする…?
衆寡敵せず
赴任当時の我が社は設立されて約六年、顧客数は数百件しかなく、もちろん赤字。それに比べ競合相手であるガリバー企業の顧客数は約二万件。さらに言うとその競争相手は絶対的な官権力を背景にしたまさに巨大官製企業です。その前にあって吹けば飛んでしまいそうです。
孟子は「衆寡敵せず」と、少人数は多人数に適わないという言葉を残しています。多勢に無勢では、マーケットでの勝算は見えず、我が社が挑んで勝負になる相手だとはとても思えませんでした。
そのちっぽけな会社に総経理(社長)として赴任したものの、さてどうしたものか。何とか現状を維持しておけばいずれ帰国するという道はありますが、それでは現地の社員達が可哀そうです。
勝算がなければ戦うな
中国古代の兵書である尉繚子(うつりょうし)によれば、勝算がなければ戦はしてはならないと。「戦いは必勝にあらざれば以て戦いを言うべからず」とあります。
日本国内なら、一生に一度は負け戦と分かっていながら戦わねばならないこともあるかもしれません。しかし、わざわざ中国に赴任して、勝算も無いのに戦いを挑むのは無謀です。犬死には避けたいところです。そうであるならば、勝算を見つけてから戦いを挑めばよい。尉繚子の言葉の裏側にはそう書いてあるのだと感じました。
国の体制は違っていても、習慣がちがっていても、そこで人々は生業を持ち生活を営んでいるのですから、どこかに勝算を見出すことはできるはず。たとえ劣勢の中であっても敢えて戦いを挑むと格好よく決めましたが、さて如何なりますことか…
処女と脱兎
暗闇の中にあっても、しばらく目を凝らしているとうっすらと物が見えてきます。ですから最初はおとなしく観察していればそれでよい。うっすらと見えるものを感じ、それがはっきりとした段階で打って出る。
孫子の兵法にあるのは「始めは処女の如く、後には脱兎の如し」との言葉。勝算も見えないのに闇雲に戦うことは愚かなことであるが、勝算を見出せたときに攻勢に転じよ、との教えです。
私にとってはガリバーのような巨大とも言える競争相手、しかも背景には強力な官権を持つ。どうにも打つ手がないと思っていたそれこそが実は弱点であることに、赴任して3年後にやっと気がつきました。
その競争相手は、巨大であるが故か顧客対応はずいぶんぞんざいで社内の団結力も脆弱。また、官権力を背景に顧客を拡大していたので企業としての満足な営業活動はできていませんでした。そのことがわかったのです。
そして、矢継ぎ早に営業施策を打ち出し、日系企業らしく一致団結して挑んだ結果、数年後には遂に勝利を収めることができたのです。殷の紂王と周の武王の逸話にもあるように団結力によって「無勢」が「多勢」に勝ったのです。
初難を憚ることなかれ
一般的に、人数が増えるほど一人当たりの発揮する力は小さくなるという。集団になればなるほど、他の人がなんとかしてくれるだろうという手抜きの心理が無意識のうちに働いてしまう。これをリンゲルマン効果というのだそうです。計画経済の余韻がまだまだ残る社会にあって、件の競争相手も、誰かがやってくれるだろう、とか「やらされ仕事」の域を脱し切れていなかったようです。
一方の我が社では、仕事をする際には社員ができるだけ主体性を持って取り組むこと、社内でも競争心と団結力を醸成することなどに重きを置きました。
中国で成功を勝ち取るには決して奇策などなく、基本は正攻法であると考えます。菜根譚にある「初難を憚(はばか)ることなかれ」との格言のとおり、見上げるほど高い壁であっても怖気づくことなく、くじけないことから始まります。すると勝算が見えてくる。そして、味方の気持をひとつにして自発能動の組織体を作ること、つまり、総経理(社長)の強い一念で大軍にだって勝てるのです! 大軍に向かって怯むことはないのです。
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成功のヒント 中国のことわざ・格言
战不必胜不可以言战 / 戦いは必勝にあらざれば以て戦いを言うべからず
◆中国語:战不必胜不可以言战 [ zhàn bù bì shèng bù kě yǐ yán zhàn ]
◆出典:尉缭子(攻权第五)
◆意味:戦いは勝算を得てから始めるべきである。勝算のない戦いはするべきではないとの意。戦争は事前に敵の勢力を調査分析し、勝算を得てから始めるべきである。
始如处女,后如脱兔 / 始めは処女の如く、後には脱兎の如し
◆中国語:始如处女,后如脱兔 [ shǐ rú chǔ nǚ,hòu rú tuō tù ]
◆出典:孫子(九地)
◆原文:始如处女,敌人开户;后如脱兔,敌不及拒 (始めは処女の如くにして、敵人戸を開き、後には脱兎の如くにして、敵、拒(ふせ)ぐに及ばず)
◆意味:表面ではしとやかに振舞っていると、敵は油断する。その間に着々と戦いの準備を行い、機を得て脱兎のような勢いで攻め込む。作戦行動における静と動の切り替え。
毋惮初难 / 初難を憚ること毋(なか)れ
◆中国語:毋惮初难 [ wú dàn chū nán ]
◆出典:菜根譚
◆原文:毋恃久安,毋惮初难(久安を恃むことなかれ、初難を憚ることなかれ)
◆意味:安寧はいつまでも続くとは限らない、最初の困難であっさり挫けて逃げ腰になるないように。
寡不敌众 / 衆寡敵せず
◆中国語:寡不敌众 [ guǎ bù dí zhòng ]
◆出典:孟子(梁惠王上)
◆日本語表記:寡不敵衆
◆原文:寡固不可以敌众 [寡は個(もと)より以て衆に敵すべからず]
◆意味:「衆」は多人数、「寡」は少人数のこと。少人数は多人数には勝てない。多勢に無勢。