【創業守成】とは中国・貞観政要の言葉 自業自得にならないために
40年以上も前の大失敗。私の上司のことが気に入らず、思いっきりその上司の足を引っ張り、とうとうその人は転勤することになりました。よっしゃー! 勝利感に浸っていたのだが…
自作自受
その上司とは仕事への取り組み方や考え方が合わず、自分としてはその上司がいなくなれば仕事ははかどると信じて行動に移したのです。一旦は成功したように見えましたが、その後しばらくすると、私は若くして窓際に追いやられ、役職も外され完全の干されるという、当時の私にとっては思ってもみなかった結果となってしまいました。
中国古典には「自ら作り自ら受く」ということわざがあります。仕掛けた愚かな悪いことが報いを受ける結果になること、いわば「自業自得」でありましょう。
何が悪かったのか、その行いを深く深く反省し、一からやり直すことになりました。その大失敗から立ち直り一線に復帰するまで結局5年余りかかってしまいました。
面面倶到
「事件」から復帰した約15年後に私は中国に赴任することになりました。現地会社の総経理(社長)として勤務する中で、時々社員から自分の上司に関する密告メールや手紙を受け取ったことがありました。今でいう内部通報。○○課長はこんなに悪い人だ、能力がない人だ、と。
しかし、私は部下の意見によって、その社員の上司である部門責任者を交代させることはしませんでした。自分が若かった時の失敗体験をずっと考えていたのですが、ある組織の問題点を解決することを目的とした異動は概してよくない結果になるとの私の持論でした。さらに言えば、部門のトップを交代させてもその部門の問題点は何も解決しないのです。
例えば、仮に異動させたとすると、以前の私のように喜ぶ社員がいる一方で、それをよくは思わない社員達もいるはずです。するとしばらくしてまた同じような問題が起きるのは明らかです。
「面々 倶に到る」という中国古来のことわざにあるように、すべての面に気を配り手抜かりがないようにしなければなりません。「あちらを立てればこちらが立たず」では何も問題は解決しないのです。とはいえ、100点満点の配慮はなかなか難しいので、少なくとも過半数の社員から支持を得るようにすればよいのではないでしょうか。
創業守成
では、どうするのがよいか。ヘッドを変えるのではなく考え方や行動を変える、同時にチームを構成する社員が主体能動の姿勢を持つ、ということではないでしょうか。何かの問題が発生した際には、場合によっては総経理(社長)が中に入り、その部門の全員とよく意見交換をすることです。老子は「虛懷 谷の若し」と虚心坦懐であることの重要性を説いています。
どんな事業にしても創業するときや、乱れた前任者から引き継ぐ際には、社員達は新しい気持ちで期待を抱くものです。しかしその後は様々な変化や悪政が出がちになります。中国・唐代の太宗と臣下の間の政治論議をまとめた「貞観政要」には「創業は易く守成は難し」とあります。
事業を守り発展させるために、創業の心を継ぎつつ、それ以上の情熱で挑戦を重ねよ、との教えだと思います。そのトップとしての気持を社員達にもどれだけ共有させることができるかが、大きなポイントではないかと思います。
2000年に前任者から事業を引き継いだ私はその後12年半にわたって社業を発展拡大さることができました。もちろんその間、社員達と労苦を共にしましたが、懸命の努力のベースには常に「自他共の精神」をおいていました。
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成功のヒント 中国のことわざ・格言
创业守成 / 創業は易く守成は難し
◆中国語:创业守成 [ chuàng yè shǒu chéng ]
◆出典:貞観政要
◆意味:新しく事業を始めることは容易であるが、築き上げたものを守り続けていくことは難しい。
◆故事:唐の太宗が側近に「帝王の業は創業と守成と、どちらが難しいか」と尋ねたところ、房玄齢は「天下が乱れ、群雄が割拠している状況で、これらの敵を破り降伏させ、戦に勝たねばなりません。ですから創業の方が難しいと思います」と答えました。
一方、魏徴は「守成が難しい」と答えました。「帝王が新たに立つときには、必ず衰え乱れた前代を継承することになり、人民は新しい帝王を喜んで迎え、期待をするとともに従うので難しいものではありません。しかしその後は、驕り高ぶるようになり、当初の志から外れてしまいます。人民は平穏な生活を欲していても、悪政のために人民は弱り衰え、安息はありません。国の衰退は常にこのようなことが原因です。よって守成の方が難しいと思います」
それに対して太宗は「創業の難事は過去のこと。今は守成の難事にあたろう」と答えたという故事です。
自作自受 / 自ら作り自ら受く
◆中国語:自作自受 [ zì zuò zì shòu ]
◆出典:释普济(五灯会元)
◆意味:自身が仕掛けた愚かな悪いことが報いを受ける結果になること。自業自得。
面面俱到 / 面々 倶に到る
◆中国語:面面俱到 [ miàn miàn jù dào ]
◆出典:官场现形记
◆意味:各方面に気を配り手抜かりがない。隅々まで配慮が行き届いていること。
虚怀若谷 / 虛懷 谷の若し
◆中国語:虚怀若谷 [ xū huái ruò gǔ ]
◆出典:老子
◆意味:胸懐(心の中)が谷間のように深く且つ広いこと。人の意見をよく聞くこと。虚心坦懐であること。