中国のことわざ【勢如破竹】 途方もなくでっかい目標は突破できるか
ある日、現地社員である営業部長が私のデスクにやってきて、「営業用の車を買ってください」と言うのです。車一台といっても安くはないのに…、と一瞬頭をよぎりました。そして、即座に彼に答えた決定とは…
勢如破竹
当時は、中国が劇的に発展している経済状況であったこともあり、少々手前味噌ながら我が社の業績は「竹を破るが如し」といえる勢いがありました。経営状況のバロメーターでもある新規開拓した顧客数は毎月60件~70件と以前とは比較にならない好調さをキープしていました。大連市街地では目に見えて我が社のユーザー分布の密度が高まりつつある時期でありました。
そんな状況の中で営業部長から「車一台を…」との要望があったのです。総経理(社長)であった私は「よし、月に100件売れたら買おう!」と即答しました。すると彼の闘争心に火がついたのです。右肩上がりの勢いを更に上を目指すためには彼は十分な人材であったのです。
択人任勢
中国のことわざ「择人任势」とは、勢いがあるときにはむしろそれを利用して「勢いに任せる」のがよいという孫子の言葉です。100件売れたら車を買おうとは言っては見たものの、内心では「期待半分」で状況の推移を見ていました。しかし、彼は見事に100件という金字塔を打ち立てたのです。もちろん、彼の部下を100件という目標達成に駆り立て、獲得した新記録でありました。私は約束どおり安くはない車を営業用車両として購入しました。
後日、その新記録によって、「100件越えでよくやった、到達しなかった月はまあまあだ」という具合に評価するところとなりました。実績がよい月もよくない月もありますが、その評価基準である勝敗ラインを従前よりもかなり高い100に押し上げることになったのです。
燕雀鴻鵠
私が赴任したときに比べると、約10年を経過した時点で我が社の顧客数は概ね10倍以上にまで拡大していました。ある日の幹部会議で「次なる目標をどうするか」について議論しました。勢いのある時の彼らはとても積極的で、“顧客数1万件”としてはどうか、というのです。大きなことを言うやつだと思いつつも、その気持ちがうれしく決定しました。
目標やビジョンはでっかい方がよい、とはいうものの、一般社員にとってはとても届きそうにないと感じたのであれば、それは目標としては適切ではありません。中国古典の史記には「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」とあります。燕や雀のような小さな鳥には鳳や白鳥のような大きな鳥の心がわかるはずがない、とあまりにも大きな目標は一般の社員には理解されず、返って戦意喪失を招くなど、場合によっては逆効果となりかねません。
山溜穿石
しかしながら、達成できそうにない大きな目標であってもそれに向かってモチベーションを落とさずに挑戦することができれば、ひょっとしたら大目標を達成することができるかも知れません。幹部社員達は大目標の背景や意義について理解をしているし、十分な挑戦意欲もある。問題のひとつは、ただでっかい目標だけを与えられた形の部下社員達をマネジメントし行く過程に不安が残ります。実はそれは総経理(社長)の手腕にかかっているのだと考えます。
中国の古いことわざに「山溜 石を穿つ」とあります。山中の滴り落ちるような小さな水の流れが石をも穿つ、というのです。目標があまりにも大きく、見上げただけで挑戦意欲をなくしてしまう社員。あるいは目標に対して一か八かの一発勝負を試みる社員。現地の社員はそれが普通ですが、実は大目標を達成する基本は「山溜」にあります。コツコツと毎日の営業活動を重ねていくところに大目標達成というゴールがあるのです。そのような地道な活動をする営業社員が部内や社内で団結し競争するマネジメントは総経理にしかできないと思います。
大目標を掲げることと毎日コツコツと活動することは、表裏をなす成功の極意と言えます。まずは勢いをつけること、次にその勢いを利用して大目標に挑戦する。そのすべては総経理(社長)の双肩にかかっているといえます。
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成功のヒント 中国のことわざ・格言
择人任势 / 人を選び勢いに任せる
◆中国語:择人任势 [ zé rén rèn shì ]
◆日本語表記:択人任勢
◆出典:孫子(势篇)
◆原文:故善战者,求之于势,不责于人,故能择人而任势。
◆意味:善く戦うものは勢いに求めて人に責めてはならない。それゆえ人材を選び既にできていた勢いに適応し利用すること。人材を選び有利な形勢を利用すること。
势如破竹 / 勢い 竹を破るが如し
◆中国語:势如破竹 [ shì rú pò zhú ]
◆日本語表記:勢如破竹
◆出典:晋书(杜预传)
◆意味:戦闘や仕事においていささかも障害になるものがないことの例え。破竹の勢い。
山溜穿石 / 山溜 石を穿つ
◆中国語:山溜穿石 [ shān liù chuān shí ]
◆出典:枚乘(上书谏吴王)
◆意味:山溜とは山間部の細い流れのこと。山中の水の滴りが石を穿つ、との意。決意があれば気力があることの例え。
燕雀安知鸿鹄之志 / 燕雀(えんじゃく)安(いずく)んぞ鴻鵠(こうこく)の志を知らんや
◆中国語:燕雀安知鸿鹄之志 [ yàn què ān zhī hóng gǔ zhī zhì ]
◆出典:史记
◆意味:鸿は鳳、鹄は白鳥のこと。燕や雀のような小さな鳥には鳳や白鳥のような大きな鳥の心がわかるはずがない、との意。平凡な人には大人物の志はわからないことの例え。