【好死は頼活に如かず】ということわざ 中国で突然体調が… さてどうする?
その日もアルコール度数52度の白酒を飲むことになりそうだと、重い気持ちを支えながら車で会食会場のレストランに向かっていました。ところが到着する直前に胸のあたりに込み上げるような違和感に襲われました。人生50余年、初めて感じる途轍もないこの違和感。…何これ?
杯中の蛇影
それは2004年8月25日。その日は瀋陽の大切なお客様が大連に出張して来るとのことで、夕刻から会食しながら瀋陽市における事業拡大のための意見交換をする予定になっていました。
実はその二週間ほど前、一時帰国休暇から職場に復帰したあと、胃のあたりにむかむかする不快感があり、病院で診察を受けたところ、胃薬を処方されそれを飲んでいました。実はそのむかつきは大事件発生の予兆であったのです。
ただならぬ事態を感じ、会場に着くやその方と握手と挨拶をして事情を説明し、対応を会社の合弁パートナーの方に託して、私はそのまま大連市内の病院へ直行しました。
病院へ着くなり私はそのまま緊急入院。ベッドに下げられた札には、病名は中国名:冠心病(冠状動脈性心疾患)と書かれていました。
私は身体はいたって丈夫で、中国に来てからも下痢一つせず、まして今まで入院などしたことはありませんでした。それがよりによってあの中国で生まれて初めての入院をすることになろうとは…
その日の夜、病院の指示によってニトロを口に含み、血液の凝固を防ぐ注射をお腹に打たれ、そして血管を拡張する点滴と立て続けの治療です。お腹に注射とは大丈夫なのだろうか? ベッドの横に置かれた機械とケーブルで繋がれ、表示される血圧や脈拍数を見ながら、本当に心細い一夜を過ごしました。
中国の「杯中蛇影」ということわざは、杯に移った影が蛇に見えて怯え疑心暗鬼になるとの意味ですが、人間って弱いなぁということがよくわかりました。入院の経験もなく、この先どうなるのか予測がつかないと、あれこれいろいろなことが頭をよぎり、びくびくしながら眠れない一夜であったことは忘れられません。
中国で入院治療のリスクは
翌日、病院から病状について説明がありました。その際に私から日本に戻って治療を受けたいと伝えたところ、「心臓が不安定な状態で飛行機に乗るのは非常に危険で、命の保証はできない。このまま治療を続けましょう」というものでした。
そもそも人生初の入院であり、心臓の病気であることなどを考えると、中国での治療には大きな不安を感じていたのですが、願いを一蹴され困ってしまったのです。
それでは、ということで即刻、日本のかかり付けの病院へ電話し、担当医に状況を説明しました。「すぐに帰国せよ」との回答を期待していたのですが、案に相違し「飛行機に乗るよりも、中国現地の病院に入院するリスクの方がまだ少ない。帰るな」との意見でした。
双方からそう言われたのではどうしようもなく、腹をくくりその中国の病院で入院治療することにしたのです。
一波三折
思い返せば、2000年4月に大連に着任し4年余りが経過したしたころに、その「事件」が勃発しました。SARS(重症急性呼吸器症候群)騒動も何とか乗り越え、日常的に壁にぶつかりながらも少しずつ業績も上向いてきました。商工会の社外活動もそれなりに楽しくできるようになってきました。そして何より2004年6月には瀋陽市で業務展開がスタートすることができました。会社運営は概ね順調で、いろいろなものが形作られてきたように感じていました。さあ、更に会社を大きくするのはいよいよこれから、と思った矢先だったのです。
中国の古典にある「一波三折」という言葉は、事の進行には幾多の曲折を経るとの意です。物事を進展させる途上で問題が起きるのは当たり前のことなのです。ましてや、人間は生身ですからいつ何時、急な病が起きるかもしれません。それに、海外で生活していると日本とは勝手の違うことが多くあります。
元気な時にこそ、そんな“事件”に備えて保険を掛けておくなどの対策を講じておくべきです。「常に備える」ことは中国でビジネスを成功させることに間違いなくつながります
順調に進展していたと思われた会社運営と事業拡大が、ここらでちょっと一服することを余儀なくされました。中国では「好死は頼活に如かず」と、日本では「命あっての物種」に相当することわざ。病気などのアクシデントに際しても命を保持することが最優先です。
私は已む無く中国現地での入院治療を余儀なくされましたが、それが結果的には大正解でした。突然の発病に際して過度の我慢は禁物。一刻も早く、迷わずに現地の病院へ行き治療を受けることが成功を勝ち取る一つの要点であるのではないでしょうか。
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成功のヒント 中国のことわざ・格言
杯中蛇影 / 杯中の蛇影
◆中国語:杯中蛇影 [ bēi zhōng shé yǐng ]
◆出典:幼学琼林(鸟兽)
◆意味:杯弓蛇影 [bēi gōng shé yǐng] ともいう。自分の杯の酒に蛇の形をした影が映っているのを見て、蛇を飲んでしまったと思い込んでびくびくとし、病気になってしまった。
後にその影は蛇ではなく壁にかけていた弓が映っていただけであったと知ると、すぐに病気が治ったという故事。びくびくとして神経質になり、疑う気持ちが強くなる例え。疑心暗鬼。
一波三折 / 一波三折
◆中国語:一波三折 [ yī bō sān zhé ]
◆出典:晋·王羲之(题卫夫人笔阵图)
◆意味:文章の組み立てが複雑で文章に曲折・起伏があること。転じて次々に問題が起き、幾多の曲折を経るとの意。紆余曲折。
好死不如赖活 / 好死は頼活に如かず
◆中国語:好死不如赖活 [ hǎo sǐ bù rú lài huó ]
◆出典:古代よりの言い伝え(西遊記には「好死不如恶活」=好死は悪活に如かず、とあります)
◆意味:立派に死ぬよりみじめでも生きていた方がよい。死んで花実が咲くものか。