三国志・曹操は【烈士暮年、壮心已まず】と 中国に15年もいたが後悔は…
30年近い間、ちっぽけな歯車として自分の意志とは無関係にくるくる回り続けていた。そこに降って湧いたような中国への転勤内示。海外勤務の希望があったわけでもなかった。中国との縁もなかった。こんなことってあるのか…
鶏口となるも牛後となるなかれ
人生には自分では想像もしないことが起きる。それを「青天の霹靂」と中国・宋の陸游は言ったそうです。私にとっては、余りにも大きな衝撃であったせいかもしれませんが、意外にもわりと冷静な自分がそこにいました。少し躊躇した後、意を決した中国勤務が始まりました。49歳のときのことでした。
日本で「小さな歯車」のときは、「あれはどうなった?」「今月の見通しはどうだ」等と、叱咤なのか激励なのか、上からの電話がしょっちゅうでした。中国現地では日本本社からのそんな電話はほぼ皆無。海外現地子会社への出向という身分ですから、本流から外れたような気がしないわけではありませんでしたが、割り切ればこれも悪くない。むしろ、任された現地法人の経営、運営という日本では経験できなかった責任はやりがいとして感じるものです。
中国古典の戦国策には「鶏口となるも牛後となるなかれ」とあります。大きい牛の肛門よりも小さいが清潔な鶏の嘴の方がよい、というのです。何も、日本本社を牛の肛門だというつもりではありませんが…
人生は人それぞれですが、充実を求めるのなら「鶏口」もまた良しというところでしょうか。
白駒 隙を過ぐ
中国の企業といえば、もとはすべてが国営企業。他人よりも頑張っても頑張らなくても、もらえる給料は同じ。ならば、定時が来たらたとえ仕事が残っていたとしても、さっさと帰ろう、というのが普通の社会。その名残からか、民間企業である我が社でも、定時の10分後くらいにはほとんどの社員は退社してオフィスはガランとしています。
中国では夫婦共働きがほとんどで、定時で会社を出て家に帰る途中のスーパーで夕食の材料を買い、晩御飯は家族揃って食卓を囲むというとても人間的な暮らしぶりです。ということで、私も定時を過ぎると、帰り支度をします。日本では空が暗くなる前に退社するなどは考えもしませんでしたが、ここではそれが当たり前。
時には自分で料理もしてゆっくりと夕食が取り、さらに仕事のことをあれこれ考える自分の時間が取れるのです。荘子は「白駒 隙を過ぐ」と、人生は戸の隙間から白駒が走りすぎるのを見るように、ほんの一瞬のことであると戒めています。ならば、可能な限り有意義に過ごしたいものです。朝早く家を出て夜遅く帰り、まるで家には寝に帰るだけのような生活では、一度っきりの人生、寂しいではないですか。中国での駐在生活は、実は人間的な暮らしができるのです。
壮心已まず
同じように日本全国から中国現地に来て仕事をしている、多くの日本人の方と知り合いになることができました。また普段、なかなか会えないような偉い方にもお会いし、得難い経験をすることもできました。それに、優秀な中国人の友人もたくさんできました。
何より、多くの方々の協力を得て、思いっきり仕事をすることができ、充実した15年間の駐在員生活ができたことが、人生の中でも得難い経験となりました。会社の業績も他に自慢できるほどの結果を出せましたし、一片の悔いもありませんでした。
三国志の曹操は「烈士暮年、壮心已まず」という言葉を残しました。私も「まだまだこれからだ」との強い思いがありましたが、本社指示には逆らえず15年の駐在を終えて本帰国することになりました。
今の若い世代の方の中で、海外勤務を希望していない方も、もしそのような機会が訪れたのなら是非チャレンジすべきであると私は確信します。たった一度の人生なのですから…
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成功のヒント 中国のことわざ・格言
青天霹雳 / 青天の霹靂
◆中国語:青天霹雳 [ qíng tiān pī lì ]
◆出典:宋·陆游《四日夜鸡未鸣起作》
◆原文:“放翁病过秋,忽起作醉墨。正如久蛰龙,青天飞霹雳。”
◆意味:思いがけなく起きる突然の出来事。(もともとは筆の勢いが激しいことを例えた言葉)
宁为鸡口,无为牛后 / むしろ鶏口となるも牛後となるなかれ
◆中国語:宁为鸡口,无为牛后 [ nìng wéi jī kǒu ,wú wéi niú hòu ]
◆日本語表記:寧為鶏口、無為牛後
◆出典:戦国策(韓策一)
◆意味:「牛后」とは牛の肛門のこと。小さいが清潔な鶏の嘴の方が、大きいけれど臭い牛の肛門よりも良い。一生鳴かず飛ばずの下済みで終わる可能性の高い大組織に組み入れられるよりも、小さな組織の方が腕を発揮できる機会が多いのでよいではないでしょうか。
白驹过隙 / 白駒 隙を過ぐ
◆中国語:白驹过隙 [ bái jū guò xì ]
◆日本語表記:白駒過隙
◆原文:人生天地之间,若白驹之过隙,忽然而已。(人の天地の間に生くるは、白駒の隙を過ぐるが若く、忽然たるのみ)
◆出典:庄子(知北游)
◆意味:時間は過ぎるのが早いことの例え。人生とは、戸の隙間から白駒が走りすぎるのを見るように、ほんの一瞬のことである。楽しく有意義な人生を送りたいものです。
烈士暮年,壮心不已 / 烈士暮年、壮心已まず
◆中国語:烈士暮年,壮心不已 [ liè shì mù nián, zhuàng xīn bù yǐ ]
◆出典:曹操(步出夏门行·龟虽寿)
◆意味:男らしい男は晩年を迎えても、心は若々しくチャレンジ精神をも持っている。