日本人村が遂に消滅 【夜郎自大】では社員の支持が得られるわけがない
私が上海に赴任した1998年当時、日本人駐在者とその家族向けに高級マンションが日系不動産大手によって開発され、そこは俗に日本人村と呼ばれていました。
日系大手による開発のため、日本式の浴槽が備わり、中には畳の部屋もあり、子供たちが通う日本人学校へのシャトルバスも運行され、至れり尽くせり。その代わり月の家賃が3000ドル以上もする超高級居住物件でしたが、日本レベルの生活ができると大人気でした。
当時から約20年が経過、そのような日本人村が昨今、消滅したとのニュースが。一時は栄華を誇ったことを思えば隔世の感がします。
上海のサバ塩焼き定食
浦東といえば今では上海の一翼を担う大都会化していますが、当時はまだまだ開発途上にあったエリヤで、上海の我が社はそのエリヤにありました。
中華の昼食が何日か続くとやはり日本食が恋しくなります。そんな時には日本人駐在員仲間とタクシーに乗り、浦東エリヤの「日本人村」の中にある日本料理店で昼食。
その時のサバ塩焼き定食の美味かったことは今も覚えています。赴任後まださほど時間がたっていない私にとってまさに水を得た魚のよう。
当時の上海は駐在する日本人とその家族がみるみる増えていました。そして上海在住の日本人人口は2007年の約5万人がピークで、その後は減少に転じとうとういくつかあった「日本人村」は消滅してしまったのです。
夜郎自大
そんな隔離された「日本人村」に住むと、帯同した奥様方の間に強いエリート意識が働いていたようです。「村外」の一般マンションに住む日本人たちですら通勤用に運転手付き車両があてがわれることが一般的でした。
満員の地下鉄やバスで通勤する現地社員とは住む世界の違う雲上人のようなもの。会社では「総経理(社長)」と呼ばれ、席に着くとお茶が運ばれてきます。背もたれの大きな椅子に座り指示を出す。
しかし、総経理(社長)といっても、赴任前は一介のせいぜい課長職であったのに。激変した環境に「俺は偉くなったのだ」と勘違い。中国の古典の史記には「夜郎自大」とあります。能力は大したことはないのに尊大で高慢な態度を取ることを戒めています。
そんな薄っぺらでは三日もしたら部下から見透かされ、誰もついてこなくなることは自明の理。むしろ「ありのまま」の方が部下から愛される。
大智は愚なるが若し
老子は「大智は愚なるが若し」との言葉を残しています。真の賢者はこざかしい知恵をひけらかさないので一見愚者のように見える、と。そういう徳を備えた人は決して偉ぶらないのです。
では俺は偉くなったという勘違いを防ぎ、お互いが悲劇を起こさないようにするにはどうすればいいのでしょうか。
ある先輩は「劇で“総経理”という役を演じていると思え」と言いました。監督から総経理という役を貰って皆の前で演じているのだと思うのがよいということです。どうせ演じるのなら社員(観客)に感動を与え、涙のひとつもこぼすような名演技をする努力を怠るなと。
今は亡き名脇役であった菅井きんさんは、セリフ四文字で見ている人の目が向くと言われたそうです。もちろん、そこまで演じることは私にはできませんが…
謙は益を受く
「人生は朝露の如し」とは漢書にある名言です。人生とは日が昇ると消えてしまう朝露のようにはかないものだとの意です。そうであるならば、中国という異国の地で縁あって一緒に仕事をするこの短い期間を大切にしたいものです。
書経の一節に「満は損を招き、謙は益を受く」とあります。慢心を戒め、謙虚な態度で臨むよう説いています。確かに、采配を振るうのは総経理ですが、実務をこなすのは社員の皆さんですから、尊大ぶった態度で社員に接してどうする。本社から派遣されたとはいえ能力も徳も大しては持っていないのだから。やはり成功の第一条件は謙虚であること、ではないでしょうか。
成功のヒント 中国のことわざ・格言
如鱼得水 / 水を得た魚の如し
◆中国語:如鱼得水 [ rú yú dé shuǐ ]
◆出典:三国志
◆意味:水を得た魚のように、所を得て生き生きしている様。
夜郎自大 / 夜郎自大
◆中国語:夜郎自大 [ yè láng zì dà ]
◆出典:史记(西南夷列传)
◆意味:自分の力量をわきまえず、威張ること。尊大で高慢な態度。「夜郎」とは中国西南地方の小国。当時絶大な強国であった「漢」の使者に対して、「我が国(夜郎国)と漢はどちらが大きいか」と尋ねたのですが、実は夜郎国は山奥にあったので「漢」がそんなにも大きいとは知らなかった、という故事。
大智若愚 / 大智は愚なるが若し
◆中国語:大智若愚 [ dà zhì ruò yú ]
◆出典:老子
◆意味:徳を持つ真の賢者は(こざかしい知恵をひけらかさないので)一見愚者のように見える。
人生如朝露 / 人生は朝露の如し
◆中国語:人生如朝露 [ rén shēng rú zhāo lù ]
◆出典:漢書(苏武传)
◆意味:人の一生は陽が昇ると消えてしまう朝露のようなものではかないものだ。時間が短いことの例え。
满招损,谦受益 / 満は損を招き、謙は益を受く
◆中国語:满招损,谦受益 [ mǎn zhāo sǔn,qiān shòu yì ]
◆出典:書経
◆意味:満は慢心、謙は謙虚のこと。自分の能力を鼻にかけて人を見下す態度のような「満」は、必ず周囲からの反発を受け、自分自身もそれ以上の向上が望めなくなる。よって損を招く。それとは逆に能力がある者が謙虚な態度であれば大きな益を受ける。