中国のことわざ【破顔一笑】笑顔で握手 気をつけろ ちゃぶ台返しがあるかも
あるとき、継続取引をしていた中国・地場の得意先の責任者が交代したというので、挨拶のために私は表敬訪問しました。
新しい責任者の方は私にこう言うのです。「(わが社との)契約をしたのは前任者であって、私には関係のないこと。よってあずかりしらぬ」と。…おいおい、ちょっと待ってよ。
ちゃぶ台返し
その取引先とわが社の競争会社はいずれも政府関連企業です。にもかかわらずその取引企業はいわば身内ではなく我が社を選択したことを、新任者は快く思っていなかったのではないかと推測できます。
実は後々のためにと、継続取引を開始する際には契約書を交わすことをこちらから持ちかけ、双方が押印までしていたのに、まるで開き直りのようなこういう「ちゃぶ台返し」の目にあいました。
「君子は豹変する」と言う中国に伝わることわざがありますが、契約を無視したような態度の変化は御免を被りたいものです。
会社対会社の取引のはずが彼らの意識の中では今もって個人対個人の旧習から抜けきっていなかったのだと思います。
破顔一笑
一民間企業の小さな契約とはレベルが違いすぎますが、例えば国と国の間の約束事もそれはそれで単純ではないようです。
2017年11月に行われた米中首脳会談では、2500億ドル(約28兆円)もの商談や投資がまとまったと報道されていました。
航空機300機や半導体、畜産品など非常に幅の広い米国製品の購入やシェールガスの開発投資など、そのスケールの大きさに驚かされます。
そして「破顔一笑」両首脳の満面の笑みを浮かべ握手をしている報道を見る限り、双方の面子は保たれたのでありましょう。
二国間の交渉事であれ、民間企業レベルの折衝事であれ、笑顔で握手をする場面は多々ありますが、その笑顔の裏側に何かが隠されてはいないか気になるところです。
中国の兵法書である三十六計には「笑裏(しょうり)に刀(かたな)を蔵(かく)す」とあります。笑顔には用心するに越したことはありません。もし用心を怠ればひとたまりもなく計略にはまってしまってしまいます。
とにかく笑顔があればあったでその裏側に何か隠れていそうな気がします。
日本式かそれとも中国式か
一般的には中国側と組んで何かをやろうとした際、まずは意向書を交わすことが多くあります。意向書には拘束力がないのが原則。「こう言うことをしたいね」「そだね~」とまあこんな感じでしょうか。
日本側は事業に当たっておよそ考えられる問題点などをまず検討し、そのうえで中国側と合意ができた時点で契約書にしたため握手する。
中国流のやり方はまずは握手する。これがいわゆる意向書。問題が発生したらその時に対応を考える。起きるかどうかわからないことをあれこれ考えるのは時間の無駄、と言わんばかり。
日本側が自分のやり方に固執すると、話がまとまらないうちに中国側がしびれを切らしてしまいます。中国流では日本側が大きな不安感を持ちます。
柔弱は剛強に勝つ
「敵地」で事業をやろうとするのですから中国式でやむを得ない、と考えるのが基本です。まあ君子であっても豹変するのですから、一般人においておやという鷹揚さも必要です。
その時には、将来きっと問題が起きるであろうことを前提にしておくことが肝要です。
中国側と組んで事業をするということは、例え民間同士でも中国側はバックに「中国」が控えているのです。構図は小が大と組むと考えればわかりやすい。日本単独でマーケットを開拓する場合も同じ構図です。常に大きな相手に挑むことに変わりありません。
もちろん言いなりになる必要などまったくありません。むしろ中国古来の格言が勇気を与えてくれます。「柔弱は剛強に勝つ」と老子が残した格言です。
交わした文書が「契約書」であったとしても、そのとおり履行されるかどうかというのは別の問題。中国はそんなに簡単な国ではありません。
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中国ビジネスの成功を勝ち取る ことわざ・格言
笑里藏刀 / 笑裏(しょうり)に刀(かたな)を蔵(かく)す
◆中国語:笑里藏刀 [ xiào lǐ cáng dāo ]
◆出典:兵法三十六計(第十計)
◆意味:敵を攻撃する前段階として、まずは友好的に接近したり講和停戦して慢心させる作戦を指す。「口蜜腹剣」と同意。にこやかな態度は相手の警戒心を和らげるための方便。
破颜一笑 / 破顔一笑
◆中国語:破颜一笑 [ pò yán yī xiào ]
◆出典:鲁迅(奇怪)
◆意味:顔をほころばせてにっこりと笑うこと。
柔弱胜刚强 / 柔弱は剛強に勝つ
◆中国語:柔弱胜刚强 [ róu ruò shèng gang qiáng ]
◆出典:老子
◆意味:強者が常に強く弱者は常に弱いとは限らない。強者は強いがゆえの傲りがあるとたちまちそれは欠点になる。弱者は弱いがゆえに謙虚であり注意深くことを運ぶ。すると強弱逆転の状況が生まれる。
君子豹变 / 君子は豹変す
◆中国語:君子豹变 [ jūn zǐ bào biàn ]
◆出典:周易
◆意味:今までの態度が急に変わること。但し本来の意味は、君子は過ちをすぐに改め善に戻る様子が豹の黄色と黒の斑点のようにはっきりとしている、との意。つまり、本来は良い方に変わるという意味であったが、現在ではいとも簡単に意見や態度を変えるという意味で使われることが多いようです。