【遠水は近火を救い難し】とのことわざ 突然胸部に強烈な違和感が ここが正念場

瀋陽・故宮の大政殿 皇帝の象徴である龍が(2013年5月)

大連に赴任して約4年経ったある日の夕刻。瀋陽での事業展開について意見交換するために予定されていた会場に向かう車中でのこと。突然、込み上げてくるような何とも言えない胸の違和感が… 

 

出其不意

 なにこれ! 今まで経験したことのない、ただならない事態に迷わず病院へ直行。有無を言わせず即刻入院。それまで大きな病気はしたことも無く、まして入院した経験もありません。それがよりによって中国で入院とは!

 孫子は「出其不意」と相手方が予測していないときに不意を衝くことを兵法として説いていますが、発病ということはまったくもって予測もしておらず、あまりの突然のことに頭は真っ白!

 

無所適従

 聞かされた病名は冠心病(日本では狭心症)とのこと。血液凝固を防止する注射をお腹に打たれ、ベッドサイドには脈拍や血圧などが波形とともに表示される機械が置かれ、いくつものケーブルが私の体とつながれています。それに酸素吸入までもが。まるでテレビドラマを見ているような光景。その中にいるのですから不安が掻き立てられます。

 医師の話しでは、カテーテルを入れて狭窄を起こしている冠動脈を拡張する手術が必要とのこと。えらいことになりました!
中国の古典には「適従する所無し」と。何をどうすればよいのやら、及びもつきません。

 病室に一人ぼっちで心細く眠れない一夜が明け、早速、日本のかかりつけの医師に電話。その医師からは思ってもいないアドバイスが。「いくら中国の(医療事情に満足できない)病院であったとしても、飛行機に乗るよりはリスクが低い」。入院した病院の医師からも、病状が不安定な状態で飛行機に乗ると命の保証はできないと突き放され、そのまま入院し手術をすることに腹をくくりました。

 

病院の中国流

 しかしそれからがたいへん。手続きや検査、診察、手術などそれぞれの場面で慣れない「中国流」との闘いです。多くの患者とその付き添いらしい人でごった返している院内では、受付から始まり検査や診察のどこも行列。おとなしく待っていたのでは自分の順番はいつになるかわかりません。それに、先にお金を払うのが原則ですから、病院内で診察室に入ったり支払窓口へ行ったりと、もう大変です。さらに外国人の場合は言葉も大きな問題です。そんなことで単独で病院へ行くのはなかなかしんどいことなのです。

 医療サービス会社とサポート契約をしておけば、検査や診察の順番取りや費用の支払い、医療専門用語の通訳など、面倒なことはすべてその会社がやってくれます。外国人にとっては、万が一の時に備えて是非準備しておくべきでありましょう。

 

遠水は近火を救い難し

 中国の病院では日本のような完全看護ではありませんので、身の回りの面倒を見てもらえる人がどうしても必要になります。単身赴任していた私は、日本から妻に来てもらおうと思いはしましたが、妻は現地の勝手がわからないのでかえって周りに負担がかかってしまうことを心配し、結局呼びませんでした。

 患者の身の回りの世話をすることを職業にしている人もいるのですが、私にはそれも不要でした。会社の運転手や中国の友人等々が世話を買って出てくれたのです。多大な協力をいただき大感謝です。また、私が緊急入院をしたことを聞きつけた仕事上の中国側パートナーが、人脈を使ってその病院でナンバー1の医師を主治医として手配してくれました。その影響か、事務方や看護士さんなど、一目置いた対応をしてくれました。人治の国ではさもありなんと思いつつも、そういう存在があるのとないのでは対応に大きな開きが出てくるのもまた事実です。おかげで、私は安心して手術を受けることができました。

 「遠水は近火を救い難し、遠親は近隣に如かず」との中国の言い伝えは、蓋し名言であると身をもって体験することができました。中国で、いざというこの時に頼りになるのは、勝手がよくわかっている地元の中国人。普段から彼らとの付き合いは大切にしなければならないということです。

 

正念場でどうする

 人は病気を患うことによって人生の意味を見つめ、生命の尊厳に目覚め、そして充実した人生を歩むきっかけにしていくことができる、といいます。中国で入院・手術という人生初の大きな出来事は、私にそのことを気づかせてくれました。そして、多くの中国人の皆さんに支えられてその困難を乗り越えることができました。

 孟子が残した格言に「已むべからざるに於いて已むる者は已めざる所なし」とあります。人生の中のひとつの正念場で、ここを突破すると大きな自信につながり、一回り大きく成長できるというのです。その正念場の相対した時にもし逃げ出していたら、その後の充実感は決して享受でき得なかったでありましょう。

 この経験が、大連での事業が一瀉千里の大発展につながっていくことになったのは間違いありません。

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成功のヒント 中国のことわざ・格言 

於不可已而已者、無所不已 / 已むべからざるに於いて已むる者は已めざる所なし

◆中国語:於不可已而已者、無所不已   [ yú bù kě yǐ ér yǐ zhě, wú suǒ bù yǐ ]

◆出典:孟子

◆意味:やめてはならない所でやめてしまっては、何をやっても中途半端にしかならない。「已むべからざる所」とは、ここで踏ん張らなければ、せっかく今まで築いてきたものを、失ってしまうといった時のことです。その山を乗り越えれば、大きく展望が開けるはずです。もしそこで踏ん張れずに挫折したら、一生それを引きずって生きていかねばならなくなります。そこで人生の明暗が分かれるとその格言は教えています。

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出其不意 / 不意に其れ出(いずる)

◆中国語:出其不意   [ chū qí bù yì ]

◆出典:孫子兵法(计篇)

◆意味:相手が予測していない機に乗じて行動をとること。不意を衝くこと。

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无所适从 / 適従する所無し

◆中国語:无所适从   [ wú suǒ shì cóng ]

◆出典:左傳(僖公五年)

◆日本語表記:無所適従

◆意味:どうすればよいのかわからない。よりどころが無いこと。

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远水难救近火、远亲不如近邻 / 遠水は近火を救い難し、遠親は近隣に如かず

◆中国語:远水难救近火、远亲不如近邻   [ yuǎn shuǐ nàn jiù jìn huǒ, yuan qīn bù rú jìn lín ]

◆出典:明心宝鑑

◆日本語表記:遠水難救近火、遠親不如近隣

◆意味:遠くの水で近くの火事は消せない、遠くの親戚より近所の人の方が頼りになる。

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