戦国策には【狡兎三窟】とのことわざ 中国では一筋縄では行かない…

チャイナリスクはどこに(大連・星海広場2017年11月)

2000年4月に大連に着任。その約3カ月後、突然、政府当局から届いた一通の通知文書。そこには国有企業など政府関連施設に対する新規顧客開拓や既存の同様契約の更新は禁止するといった内容が書かれているではありませんか。さて、困ったことになった…

 

降りかかるチャイナリスク

 それまでは何とか順調に経営ができていた我が社にとっては「事出意外(寝耳に水)」の出来事です。それでは自由な企業活動ができなくなるばかりか、営業活動範囲が極端に制限され、最悪の場合は中国から撤退せざるを得なくなりかねない、会社として存亡の危機です。

 実は、わが社は政府系の企業と合弁を組み、その結果、上述の通知文書にあるような制限は受けず、自由な営業ができていました。

 ところが、1999年末に中央政府から、政府系企業は民間企業と合弁してはならないとの通達が出され、突然でしたが、やむを得ず我が社はその合弁を解消せざるを得なくなり、一旦は独資企業の形態をとることになったのです。

 そうなるともともと省条例にあった外国独資企業は政府関係機関等に対するサービス提供をしてはならないという規定に抵触することになり、業務停止の通知文書発行に至ったという訳です。合弁を維持できなくなった原因は我々にあるのではないのにもかかわらず…。

 政府による突然の方針変更によって、自由な事業活動が影響されるのは、中国ではよくあること、と言えばそれまでですが、このチャイナリスクともいうべき大問題が頭上に降りかかってきたのです。

 

絶所で生に逢う

 たった一通の文書によって、企業活動が制限され、有効な対応策も見い出せず、会社責任者として困り果てていました。

 そんな時に1993年、会社設立時に支援していただいた方が、独資状態の対策に窮していることを聞きつけ、手を差し伸べてくれました。官民ではなく民民で新しく合弁をスタートさせたらどうか、と提案してくれたのです。

 それを受けて、日本本社との間に立って交渉し、基本的合意に至りました。その後も合弁協議はとんとん拍子に進み、2001年7月には改めて日中合弁企業として登録することができ、ついに大きな難題は解消されることになりました。これこそ「絶処逢生」、九死に一生を得ることになりました。

 パートナー側から1名の方に董事会(役員会に相当)に入ってもらい、経営陣の構成も固まりました。その協議の中で、パートナー側は対外的な対応を重点とすること、当方は会社の経営や内部運営を行うというふうに仕事の分担も明確にしました。会社にとって死とも言える撤退の窮地からの逆転劇が始まったのです。

 

事業の成否は

 日本では暗黙の了解などという曖昧なことが少なくありませんが、中国の合弁会社の運営は、はっきりとした方がパートナー側もやりやすくなり、お互いに良いと思います。出資者間の合弁契約書とは別に、運営現場の合意内容を文書にまとめ、双方が保管することとしました。

 上海で経験した「同床異夢」になってしまってはならないと考えたためです。双方が向かい合わせになって対峙するのではなく、両者が同じ方向を向くことが大切で、そうすれば業容の発展に寄与することは間違いありません。

 合弁が失敗する多くの原因が、日方中方間のコミュニケーションの不足にあるのではないかと私は思います。そのため、私はパートナー側から派遣された董事(役員)の方と、毎朝意見交換を行い、コミュニケーションを十分取ることにしました。それは私の在任中の2012年末までずっと実行し、双方の意思疎通を見事に成し遂げました。そのことが、業績向上や会社発展の上で、大きな力を発揮したのではないかと思っています。

 

狡兎三窟

 中国で商売をし、且つ拡大していくためには、きれい事や正直だけではうまくいくわけがないと考えるべきです。中国古典の「戦国策」には「狡兎三窟」とあります。賢い兎は巣穴を三つ持っていると言うのです。ひとつつぶされてもまだ二つ、二つつぶされてももうひとつある。そうやってとにかく生き残りを図る、という言い伝えです。狡く生きよとは言いづらいが、「賢く」生きなければ中国での成功はおぼつきません。

 何が起こるかわからない中国では「賢い兎」のように、会社も三つの収入源を持つことが経営を安定させることにつながります。また、日頃の運営についてもがっちりとした三本の柱で安定させなければなりません。

 経営も運営も柱が一本ではすぐにぐらついてしまいます。二本でも不安定でなかなか自立できません。「会社の幹部社員」という柱、「社外の協力者」という二番目の柱に加え、この新たな合弁により、「対外対応」をしてくれる三番目の柱を持つことができ、安定した会社運営が可能になりました。

 

有備無患

 さて、この第二次合弁は極めてうまく、そして気持ちよく展開できました。安心して事業展開ができることのありがたさを感じさせてくれました。そして、この大事件を克服したことを境に会社発展のスピードがぐんぐん上がっていくことになりました。

 古来中国の兵法書である「兵法三十六計」には、戦いに勝つ方策を解説してあります。誤解を恐れずに言うならば、それらの言わんとするところは、いかにして相手を攪乱し、騙し、味方を有利に導くかということであると思います。

 そういう厳しい現実の中で生き抜かなければなりません。そのリーダーとして、智恵を絞りに絞って戦うことが必要です。社員の向こう側には妻や子供たちといった彼らの家族がいて、その生活が懸かっているのです。中国独特のカントリーリスクも時には立ちはだかってきます。会社を守り、社員達を守るには、総経理(社長)は会社経営者として、中国古典にも「有備無患」と言われるように、十分な備えをもって憂いをなくすことに腐心すべきです。でなければ生き残れないということです。

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成功のヒント 中国のことわざ・格言

事出意外 / 事出意外

◆中国語:事出意外   [ shì chū yì wài ]

◆出典:清·曹雪芹(红楼梦)

◆意味:思いもよらない出来事に驚くことを例えた言葉。寝耳に水。

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绝处逢生 / 絶所で生に逢う

◆中国語:绝处逢生   [ jué chù féng sheng ]

◆日本語表記:絶処逢生

◆出典:明·冯梦龙(喻世明言)

◆意味:死地にあって命拾いをする。九死に一生を得る。絶体絶命の境地で活路を見いだす、との意。

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狡兎三窟 / 狡兎三窟

◆中国語:狡兎三窟   [ jiǎo tù sān kū ]

◆出典:戦国策

◆原文:「狡兔有三窟 僅得免其死耳

◆注釈:賢いうさぎは三つの巣穴を持つ。狡賢い者は用心深く難を逃れるのが上手いという意味。

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有备无患 / 備え有れば患い無し

◆中国語:有备无患   [ yǒu bèi wú huàn ]

◆日本語表記:有備無患

◆出典:左传(左傳)襄公十一年

◆原文:居安思危。思则有备,有备而无患。

◆意味:日頃から準備をしておけば、万一のことが起きても心配することはない。

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