中国・書経【下を臨むに簡を】とのことわざ 人を動機付ける総経理の…

社員に希望を与えるのも総経理(2019年5月大連市内)

若いころ、京都で単身赴任をしていました。毎週金曜日、仕事が終わった夕刻に家族のもとへと帰省をすることを楽しみにしていました。あるとき、帰省をする私に「駅まで車で送ってやる」とトップから声をかけられたのです。駐車場で待っていると何とそのトップが現れ、自らが運転すると…

 

眉開眼笑

 私は専属の運転手さんが送ってくれるものと思い込んでいたのでもうびっくり。自分にとっては雲の上のような人からそうされると、普通の嬉しさを越えて心は舞い上がってしまいます。中国の元の頃の「眉開眼笑」ということわざのように心が躍ったことを覚えています。

 その上司は、単身赴任を終えて地元に転勤する私の送別会の二次会で「今日は朝まで飲もう!」と。実際にはそのようなことは無いのでしょうが、その気持ちがうれしいですよね。また。別の上司は、私が中国に赴任することが決まった時に、「お前の骨は俺が拾ってやる。だから思いっ切りやってこい!」と激励してくれました。

 

士は己を知る者の為に死す

 いずれの出来事も何十年も前のことですが、今でもその時の言葉やシーンは鮮明に脳裏に焼き付いています。

中国の古典の戦国策には「士は己を知る者の為に死す」という言葉があります。そういう心意気はごく普通のサラリーマンであった私にも理解できますし、強く同感します。雲の上の上司からそんな言葉をかけられた時の嬉しさは百倍。心底から感動しました。その上司のために仕事を頑張らねば、と奮い立ったことをまざまざと思い出します。

 人というのは決して論理・理屈だけで動くのではなく、むしろ感情で動くのだとその経験から結論を得ました。なるほど昨今、成長を続けている日本の企業のリーダーの方々には、強いリーダーシップを持っているのはもちろんですが、一方では、相手の感情に訴える説得力を持っていることが共通しているように思えます。

 

善く将たる者は愛と威とのみ

 つまりドラスティックに強権を振りかざすのではなく、感情の動物と言われる人間にはむしろ、相手の感情に訴えかけるのがよいということが言えるのではないかと考えます。そして、そういったリーダーシップが強い組織を作るのだということではないでしょうか。

 中国古典の尉繚子には「善く将たる者は愛と威とのみ」とあります。部下を愛しむ心と部下に対する威厳の両方が必要でいずれか一方だけではうまく成功できないというのです。

 「愛」はハートに訴えること、「威」は論理的な厳しさで、と理解できると思います。この二つをその時々に応じてとりまぜて発揮することで、人心を掌握し強い組織が出来上がるというものです。そして私の経験値からはハートが8割、論理が2割といった匙加減がよいのではないかと考えます。

 

簡と寛

 「愛」と「威」のバランスが取れた運営をすると、リーダーと皆の間でストーリーが共有でき、そして組織として一体感が出てきます。いくら正しくても、論理だけでは人は動かない。どうしても感情に訴える力が必要であるということです。

 また、書経には「臨下以簡、御衆以寛」と簡素と寛容が大事であると書かれています。会社組織において、上からの規制や押さえつけばかりでは、社員は伸び伸びと仕事ができません。しかし「寛容」ばかりに気を取られると緩々の組織になってしまい、会社としての体をなさなくなります。実は、簡単、寛容を運用するのは簡単ではありません。メリハリのきいた運営をすることが総経理に求められます。

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成功のヒント 中国のことわざ・格言

眉开眼笑 / 眉開き眼は笑う

◆中国語:眉开眼笑   [ méi kāi yǎn xiào ]

◆日本語表記:眉開眼笑

◆出典:王实甫(西厢记)

◆意味:うれしく愉快な様子。喜びがあふれるさま。

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士为知己者死 / 士は己を知る者の為に死す

◆中国語:士为知己者死   [ shì wèi zhī jǐ zhě sǐ ]

◆日本語表記:士為知己者死

◆出典:戦国策(赵策一)

◆意味:男は自分の価値を認めてくれる人のためには命をも投げ出す、との意。相手のやる気を引き出すためには、まず相手を認めてやることから始まるのではないでしょうか。(実は原文ではこの後に「女为悦己者容」とあります。これは、女は自分を愛してくれる人のために装う、との意)

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善将者爱与威而已 / 善く将たる者は愛と威とのみ

◆中国語:善将者爱与威而已   [ shàn jiàng zhě ài yǔ wēi ér yǐ ]

◆出典:尉繚子(うつ りょう し)

 (尉繚子は、中国の戦国時代に 尉繚によって書かれた兵法書)

◆原文:爱故不二,威故不犯,故善将者爱与威而已。(兵を大切にするから兵に二心がない。威厳があるから兵は命令に背くことはない。故に善い将は愛と威を併用するのみである)

◆意味: リーダーは地位や強権を使えば部下を命令に従わせることができる。しかし、それだけでは「心服」は得られない。「愛」をもって接すれば部下のやる気を引き出し、よい仕事ができる。いずれか一方だけではリーダーとしての責務が果たせない、との意。

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临下以简 / 下を臨むに簡を以ってす

◆中国語:临下以简   [ iín xià yǐ jiǎn ]

◆日本語表記:臨下以簡

◆出典:書経(大禹谟)

◆原文:临下以简,御众以宽(下を臨むに簡を以ってし、衆を御するに寛を以ってす)

◆意味:国民に対しては簡素でわかりやすい政治を心がけ、国民を指導するときには寛容の精神を持つのが良い、との意。(元々は為政者に対する言葉)

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