中国の【習い性と成る】ということわざ 人の褌で相撲を取るとどうなる…

日本メーカーの製品は品質が非常に良いということは、中国でも知れ渡っています。「値段は中国国産よりも高いけれど10年は心配なく使える日本品質です」と監視カメラシステムを地場の金融機関に勇んで売り込みに行ったときのこと。客先からは思ってもみなかった反応が…

10年よりも5年?

 客先の担当者からは「そんな品質の高いものは要らないよ」と。彼が言うには、どんなに品質が良くても10年も使うと経年による陳腐化は避けられない。日進月歩で発達する科学技術は、数年後には今よりもずっと魅力的な製品を生み出すはずだ。だから、「値段は高いが10年持つ」という製品は今の中国にはマッチしない。それよりも、リーズナブルな価格で数年使えるものの方がよい、と。

日本とは違う考え方に妙に納得。なかなかの説得力に半ば感心しました。更に彼は、いくら安くても2年や3年で故障したのではだめだ、もし、そんなものを採用したとしたら、上司から叱責されるのは間違いない。そう考えると5年ほど使えるものがちょうどいい、という説明でした。

習い性と成る

 話を聞いているうちに、彼の話の真意が少しずつわかってきました。説得力のある説明はどうも表の理由で、実はその裏に本音が隠されていたようです。

 彼は購買の担当者として、リベートを当然のように要求します。品質の良い日本製を購入すれば手にするリベートは十年に一回だけ。もし三年しか持たない低品質のものであれば上から叱責されるので意味がない。その点、五年使える製品であれば、叱責はされないし、五年ごとにリベートを手にすることができる。これが裏に隠された本音でありました。

 中国企業では、担当者が取引業者などからリベートを手にすることが当たり前のように行われてきました。中国古典の書経には「習い性(せい)と成る」とあります。善かれ悪しかれ続けている習慣は、やがては生まれつきの性質のようになってしまう、という意味です。決して良いとは言えないリベートの習慣も甘い汁を吸っているうちに当たり前になってしまったようです。自分の所属する部門のことや会社のことよりも自分のことを考える自己本位の考え方と拝金主義が透けて見える話でした。そして、半ば呆れて私はそこを後にしました。

花を借りて仏に献す

 どこの会社でも社員は自らの立場を利用して少しでも利益を得ようと思いを巡らせています。もちろん日本では首ものですが、中国でそれをうまくやると、あの人はやり手だと逆に評価されるという一面もあり価値観の違いも相当です。日本人総経理としては、とんでもない奴だ、と思いますが、自分の会社にもそんな輩が知らないところで暗躍しているかもしれないと思うとゾッとします。管理者としては、まったくもって油断はできません。

 ある時、社員を中途採用することになり、面接に立ち会ったことがありました。大勢の応募者を面接するのですが、ある応募者が私に質問をするのです。「この会社の面接費はいくらですか?」
すぐには意味が理解できなかったのですが、その応募者は、あちらこちらの会社の面接を受けた時に面接費を取られたというのです。いわば受験料。

どうも、人事担当者が上には内緒で応募者から面接代を取っている会社が少なからずあったようです。自己の立場利用です。もちろん「我が社はそんな費用は不要です」と答えました。

 古来中国では「花を借りて仏に献す」ということわざがあります。日本では「人の褌で相撲を取る」に当たります。拝金主義の影響でしょうか、自分の立場を利用して利益を取るための方法をよく考え付くものだと感心します。

小隙は舟を沈む

 そういった不届きな行為ではありますが、何千年もの歴史の中で培われてきています。昨日今日中国に来たばかりの外国人社長が、逆立ちして不正は許さんと叫んでみても何も変わるわけはありません。正義感で一喝しても、むしろ社員の協力を得られなくなるばかりか、全員を敵に回すことになってしまいます。忘れてはならないのが、総経理の周辺にいるのはすべてが中国人社員達であることです。

 しかし、だからと言って悪事を是認することは決してできません。テレビや新聞で報道される巨悪に比べればこの手の不正は小さな悪事。これをどう捌くかが老練な総経理(社長)の腕にかかっています。

 中国古典には「小隙は舟を沈む、小虫は身を毒す」と小事を軽く見てはならないと警鐘を鳴らしています。小さな隙間でも舟は沈むし、小さな虫が体に害を与えるというのです。「小さなことだから…」とその対応を放置すると、瞬く間に“成功事例”として社内に伝わり、今度の総経理は何も知らない虚け者と思われ、社員にやりたい放題される会社になってしまいかねません。

術を磨く

 例えば、ある社員は自分の携帯電話を新しくした等々、日頃から社員を観察していると「何か」を感じるときがあります。そんな時には上手に人事異動を行うのです。特に叱責しなくても、本人はそれだけでばれていたことに気がつくはずです。但し、それで反省するようなことはないようです。たいていは、何もなかったように新しい部署で仕事をしています。ですから、こちらもそんなに気を遣うことは必要ありません。サラッとやればよいのです。

 小さい時から道徳教育はほとんどされていない彼らに、今更モラル教育なんぞはもう手遅れ。韓非子では「術而御之」、つまり技を以て統治せよ、と言っています。「術」とは、総経理(社長)として社員をマネジメントするノウハウであり、ツボを心得ることです。

社員の小さな悪事を見逃さず、勤務評価で総経理としての意思を示すこと。悪事を働けばどうなるか、身をもって知らしめるのがよいとは私の経験値です。そのためには、総経理として人事や金などの権力をしっかりと握り、組織の隅っこまで常によく観察し掌握しておくことが肝要です。

安穏とはしていられないのが総経理。大切な組織を預かり発展させるというミッションを託されているのですから。また、自ら立ち上げた起業家であればなおさらです。

「成功を収めるための重要ポイント 現場目線で見たツボ」 はこちら

成功のヒント 中国のことわざ・格言

无术而御之,身虽瘁臞,犹未益也 / 術なくしてこれを御せば、身 瘁臞(すいく)すと雖も、猶お未だ益あらず

◆中国語:无术而御之,身虽瘁臞,犹未益也   [ wú shù ér yù zhī, shēn suī cuì qú, yóu wèi yì yě ]

◆日本語表記:無術而御之,身雖瘁臞,猶未益也

◆出典:韓非子(外儲説)

◆意味:”術” をわきまえずに経営すれば、身は疲れはてやつれるばかりで、働いても益なく治まらない。瘁臞とはやつれ (瘁) やせる (臞)こと。

»本文に戻る

 

习与性成 / 習い性(せい)と成る

◆中国語:习与性成   [/responsivevoice] [ xí yǔ xìng chéng ]

◆日本語表記:習与性成

◆出典:書経(·太甲上)

◆意味:毎日、続けている習慣は、やがて、その人の生まれつきの性質のようになってしまう、との意。習慣が第二の天性となる。

»本文に戻る

 

勿轻小事,小隙沉舟 / 小事を軽んずる勿れ、小隙は舟を沈む

◆中国語:勿轻小事,小隙沉舟   [ wù qīng xiǎo shì, xiǎo xì chén zhōu ]

◆原文:勿轻小事,小隙沉舟;勿轻小物,小虫毒身(小事を軽んずる勿れ、小隙は舟を沈む。小物を軽んずる勿れ、小虫は身を毒す)

◆出典:吴尹子·九药

◆意味:小さな隙間が船を沈めることになり、小さな虫が体を害することもある。些細なことを軽視してはならないとの意。

»本文に戻る

 

借花献佛 / 花を借りて仏に献す

◆中国語:借花献佛   [ jiè huā xiàn fó ]

◆出典:刘鄂(老残游记)

◆意味:他の人の花を使って仏に献呈すること。他人の物をもって好意を示すことの例え。人の褌で相撲を取る。

»本文に戻る

「現場目線で読み解く 中国のことわざ・格言」はこちら

 

 

Follow me!