法治主義の中国で越えねばならない高いハードルとは… 【見風使舵】で逞しく

 瀋陽市は中国東北部遼寧省の省都。遼寧省の南端の大連市からは北へ約400キロに位置します。人口が約800万人の大きな街です。その瀋陽市に分公司(支店)を設立したのが2002年。ところが、設立登記が完了しているのにもかかわらず開店休業状態が…

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思い立ったが吉日

 私が初めて瀋陽へ行ったのは、2000年4月に大連に着任したその年の冬のことです。大連よりも一回り大きな街である瀋陽の市場を見ておきたかったので出張しました。真冬の内陸部であるため寒さは覚悟して行きましたが、訪れたその日の気温は日中で何とマイナス30度。生まれも育ちも関西の私には初体験の極寒の世界。道路も凍結していてつるつる。何度も転んでしまいました。

 当時の瀋陽は街はでっかく、幹線道路も広いのですが、路面に車線表示はなくセンターラインも引いてありませんでした。そこに人や車、自転車などが好き勝手に往来している様は無秩序そのもの。こんなところで我が社はとても商売はできない、もう二度と来ることはないであろうと、寒かった思い出だけを持って瀋陽を後にしました。

 

 しかしその翌年、所用があり再び瀋陽市を訪れました。そして驚いたことに、街が1年前とは様変わりしていたのです。道路もちゃんとなっていましたし、街のあっちこっちで高層ビルが新築されているではないですか。

 そのわずか1年の変貌ぶりを見て、やはり瀋陽に支店を出そうと即断しました。支店設立には特段の資金は必要ないので、日本本社には事後報告で済ませました。日本のことわざには「思い立ったが吉日」とあります。中国には「寄货可居」と、絶好の機会は逃すなとの意味です。

 中国の大きな街は変わり始めると、とてつもなく速いスピードで変化することに私は気がつきました。「そろそろ支店でも出そうか」と思える時は実はもう遅いのです。「ちょっと早いんじゃないか」というくらいのときに出ていかないと、乗り遅れてしまいます。

 今の中国は法治主義ですから、分公司(支店)の設立も要件さえ整っていれば認可されます。早速手続きを始め、一週間後には我が社の瀋陽分公司(支店)は設立登記することができました。2002年のことです。

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人治のハードル

 支店登記も終わり業務をスタートする準備ができたので、瀋陽の業界筋を招待して会食をアレンジ。「よろしく」との挨拶をしてシャンシャンとなると思っていましたが、相手側からの言葉は非常に意外なものだったのです。

 曰く「外資企業の瀋陽進出は、市場を掘り起こすパワーにつながるので歓迎する。しかしながら瀋陽の業界及び市場は少々乱れている。その整理がついた頃に仕事を始めた方がよいと思うので、開業は少し待ってください」という趣旨でした。よくよく聞いてみると、どうも、実際にはあまり歓迎されていなかったようです。

 既得権を分け合って落ち着いていた業界に、言わば新顔が割って入るわけですから、さもありなんというところでしょうか。法律や規定の上での条件は満たしていたので、歓迎されていなくても開業できなくはなかったのですが、遠回しとはいえ拒否している相手に対して、ゴリゴリ突き進むのもよいとは思えませんでしたので、時が来るのを待つことにしました。

 しかしそれから何か月たっても何の変化もないので、手を変え品を変え打診しましたが、のらりくらりとかわされ一向に埒が明きません。開業の条件は整っているのに、業務を始めることができないなんておかしいではないかと憤りを覚えていました。つてを頼っても、現地には現地の事情があるのだからとこれも埒があきませんでした。

 

 そんな時、現地社員から、中国の巷間では「说你行你就行,不行也行。说你不行就不行,行也不行」と言うではないかと教えられました。まるで禅問答のような中国語です。それは、「上司やお上などリーダーがYesと言えばOKだ。たとえダメなものでもOK。反対にリーダーがNoと言えばダメ。たとえ本来OKのものであってもダメだ」という意味だと教わりました。

 私が設立した瀋陽分公司は法律上は何の問題もないのですが、その地の業界を管轄する機関が(お家の事情があって)「Yes」とは言わないので、事実上事業を始めることができないというのです。長い物には巻かれろといったところでしょうか。法規制というハードルを越えてドアを開けたら、目の前に人治のハードルが待っていたのです。

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風を見て舵を使う

 それは人治の最たるものです。規則は規則として、それとは別に運用があるということです。中国で会社を運営するということは、様々な要因や背景の中で必死に頭をめぐらし、策を練って実行する必要がある、ということだと思います。

 中国の書経にはこうあります。「慮らずんば胡ぞ獲ん、為さずんば胡ぞ成らん」と。事を始めるにあたっては情報を集め分析し、勝算の程度を検討、熟慮し、勝算ありとなれば断行せよと教えています。地場の経営者たちは熟慮断行をするためにたくさんの人脈を持ち、日々活動しているというわけです。

 私は瀋陽支店は勝算ありと見て開設し、断行を目指しましたが、実際には事業展開ができないままで時間だけが経過。その間も毎月1回は瀋陽に出張して更なる根回しや準備を重ねました。そして、分公司設立から約2年後にようやく業務を始めることができました。

 

 中国では法規定を遵守することはもちろんですが、あわせて人治のハードルを越えないと事は運びません。「人治」に不慣れな日本人として、とてもじゃないが理解できないということも少なくありません。しかし、人によって言うことが違う、ころころと規則が変わる、そんなことをボヤいていても何も始まらないのです。

 中国の長い歴史の中で培われた運用の術、日本人も「見風使舵(風を見て舵を使う)」ということわざを駆使してたくましく乗り越えねばなりません。法治の向こう側にある人治を理解し受け入れることも現地で采配を振るうには必要なことです。瀋陽における紆余曲折と最終的な成功体験はずいぶん勉強になりました。

「成功を収めるための重要ポイント 現場目線で見たツボ」 はこちら

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成功のヒント 中国のことわざ・格言

说你行你就行,不行也行;说你不行就不行,行也不行。不服不行

◆中国語:说你行你就行,不行也行;说你不行就不行,行也不行。不服不行 

◆日本語表記:说=説

◆注釈:上司、政府、党中央等のリーダーがYesと言えば、たとえダメなものでもOK。反対にNoと言えばたとえ法律などに則りOKであっても実際にはダメ。服さないのはダメ、という意味。(ことわざでも格言でもありません)

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奇货可居 / 奇貨(きか)居(お)く可(べし)

◆中国語:奇货可居   [ qí huò kě jū ]

◆出典:史记(吕不韦列传)

◆意味:奇貨とは珍しいもの、絶好の機会のこと。居は蓄えるとの意。珍しいものはとりあえず買っておいて、時機を見て高く売るというのが元の意味。絶好の機会は逃さずにうまく利用すべきであるという例え。(「思い立ったが吉日」に通じる)

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见风使舵 /  風を見て舵を使う

◆中国語:见风使舵   [ jiàn fēng shǐ duò ]

◆日本語表記:見風使舵

◆出典:宋代·释普济(五灯会元)

◆意味:風向きを見ながら舵を取る。情勢をうかがって態度を決めるとの意。日和見主義という貶す意味もある。

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弗虑胡获,弗为胡成 / 慮(おもんばか)らずんば胡(なん)ぞ獲(え)ん、為さずんば胡ぞ成らん

◆中国語:弗虑胡获,弗为胡成   [ fú lǜ hú huò, fú wèi hú chéng ]

◆出典:書経

◆意味:事を始めるにあたっては熟慮すること。さもないと良い結果は得られない。実行すべきとなれば断行すること。ためらっていては何も得られない。

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「現場目線で読み解く 中国のことわざ・格言」はこちら

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