相手は巨竜 それがどうした【弱能く強を制す】 懐に飛び込むと見えてくるものは…

京都・清水寺の祥雲青龍(2018年8月)

 大勢の人が目の前を行き交う。片側三車線、四車線の大きな道路では自転車もバイクも車も溢れています。そこは節操も規則性も見えてこない風景です。空を見上げると高層ビルが林立している途轍もない規模の街。

「今夜の会食の会場は政府当局が経営しているレストラン」と部下。他にも立派な看板を掲げたホテルが大学のキャンパスの中に。これらはどう理解すればいいのやら…

盤根錯節

 聞けば、当局はレストランばかりか不動産業や貿易会社、果てはサウナ、カラオケまで幅広く経営しているとのこと。(その後、規則が改定され、政府機関のそういった企業の経営はごく一部の例外を除いて廃止されました)

 巨大市場で且つ日本ではあり得ない理解不能な仕組みの中に突然放り込まれたのです。後漢書には「盤根錯節」とのことわざがあります。物事が複雑に入り組んで、解決しがたい状態のことを言ったことわざですが、何ひとつ予備知識もない私には、そのことわざのとおりどこから解きほぐせばよいのやら糸口がさっぱり見えませんでした。

巨竜に立ち向かう

 言わば中国とは社員と家族を含めて14億人からなる超巨大企業、のようなもの。本社に当たる中央政府の下には、支社に相当する地方政府があり、そこの認可を受けて多くの外資企業が設立され、我が社もそのうちのひとつです。ややっこしいのは、地方政府は自らが出資、設立した直営企業があることです。つまり、我が社を管轄する部局は同時に我が社の競争相手の出資者でもあります。

 困ったことにその支社(地方政府)では直営子会社が有利になるようにローカルルールを作り、或はルールの運用幅を弱めたり強めたりととても厄介です。

 小さな我が社が現場で競争する地方政府直営子会社の背後には、巨大組織がドカッと居座り睨みを利かせています。我が社は存続のために地方政府とは友好関係を維持しなくてはなりません。しかし市場ではそこの子会社と競争するという二重構造。右手で握手しながら左手の拳を振り上げている。そんな土俵で戦って果たして勝ち目はあるのだろうか? 

竜の彫刻 瀋陽・故宮にて(2013年5月)

弱能く強を制す

 紀元前11世紀ごろの中国、殷王朝最後の紂王は酒池肉林の贅沢の限りを尽くして悪政をほしいままにしていました。一方、殷王朝に対抗する周の文王の子・武王は善政を行い人々の信望を集めていました。そこで武王は殷の紂王討伐の戦を起こしました。

 周は4万5千の軍勢。殷は70万の大軍。しかし、殷の兵士たちに強い戦意はありません。武王の軍は、諸侯が結束し同じ目標を持ち、結果、殷王朝に代わって周王朝が誕生しました。少数の軍であっても精鋭が団結することによって、数の上では圧倒的に上回る相手を打ち破ることができた、という物語です。

 「弱能く強を制す」とは中国古典にある言葉です。弱いものがかえって強い者に勝つとは、弱小企業にとってどれだけ勇気づけられる言葉でしょうか。小が大を負かすにはその条件を揃えることはもちろんですが…

また、人は集団で作業を行うとき、その集団が大きくなればなるほど手抜きをする、というリンゲルマン効果が言われています。

 我が社も件の競合社も、それぞれの顧客にサービスを提供することを生業としています。もちろんサービスを提供するのは社員。リンゲルマン効果にあるように、その社員がもし手抜きをしたとしたら、サービス品質は間違いなく悪化します。社員数が圧倒的に多い競争社にとっては、まさにそのことが大きな課題であるはずです。

 我が社にとっては、そこに勝機ありといえます。顧客は当然品質の高い方を選ぶのですから。大きいということは時にはむしろハンディとなるのです。

勝負は人材

 サービス品質を決める大きなファクターのひとつは社員が自主的能動的に仕事に取り組むことです。そのためにリーダーたる総経理(社長)は、まず何をすべきか。

 中国のことわざの「天下を争う者は、まず人を争う」という言葉によれば、人心(社員)の掌握に努め、人材の育成に注力するべきだというのです。組織は人によって成り立っている、その重要性が現れています。

 どんなに総経理の能力が高くても所詮は一人の人間。できることには限りがあります。まして、外国人総経理はなおさらです。結局、社員の仕事の出来栄えがサービスの良し悪しを左右するのは明々白々です。ですから、まずもって人材育成に努力傾注すべきです。つまり、高品質のサービスを提供することによって、顧客からの強力な支持を得ることに成功すれば、きっと勝機が見えてくる。そうすると巨龍にだって勝てる! 勝負を分けるのは人数ではありません。臆することはないのです。

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成功のヒント 中国のことわざ・格言

盘根错节 / 盤根錯節(ばんこんさくせつ)

◆中国語:盘根错节    [ pán gēn cuò jié ]

◆出典:後漢書(虞詡伝)

◆原文::“不遇盘根错节;何以别利器乎!”

◆意味:盤根は大木の曲がりくねった根。錯節は入り組んだ節。物事が複雑に入り組んで、解決しがたいことを例えたもの。

盤根錯節に遭遇すればこそ、切れる刀の区別ができるのだ、という前向きなことわざです。

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酒池肉林 / 酒池肉林

◆中国語:酒池肉林    [jiǔ chí ròu lín]

◆出典:史记(殷本纪)

◆意味:酒をもって池となし、肉をかけて林となす。殷王朝の紂王の放逸な生活ぶりをいう。

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争天下者 必先争人 / 天下を争う者は、必ず先ず人を争う

◆中国語:争天下者 必先争人   [ zhēng tiān xià zhě bì xiān zhēng rén ]

◆出典:管子

◆意味:天下を狙う人は、まず人材を確保することから競い合う。大きな勝負をするときにはどうしても周囲の社員達の支持や協力が必要で、そのことに成功しなければ勝負に勝てない。

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柔能制刚,弱能制强 / 柔よく剛を制し、弱能く強を制す

◆中国語:柔能制刚,弱能制强  [ róu néng zhì gāng, ruò néng zhì qiáng ]

◆出典:三略(上略)

◆意味:柔らかいものがかえって力強い者に勝ち、弱いものがかえって強い者に勝つ。

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