荀子は【人の性は悪】と 中国では性悪説の方がはまる さてそれでいいのか

 ある日系企業の総経理は「社員を見たら泥棒と思え」と過激な発言をした。また別の日系企業ではあろうことか自社の試作品が市場で売られていたことがあったと嘆いていました。
 いったいこの国では社員を信じていいのやら…

会社財産が流出

 一般的に社内の財産が不法に持ち出される例としては、昔からの泥棒被害があります。休日や夜間にこっそりと侵入してきて物を盗まれるという恐れです。こういった外部要因に対してはセンサーの設置や警備員を配置するという対策をしておけば一応安心できます。

 また、昨今ではUSBなどの媒体を使ったでたーの持ち出しという会社の内部要因による被害のケースも増えてきました。日本では外部要因によるものが多いのですが、中国ではむしろ(というよりは圧倒的に)内部要因によるものが多いのです。

 例えば、製造工場では原料の持ち出しや製品の横流しなどの不正行為は、枚挙に暇がありません。中には警備員と結託して製品を大量に持ち出すような不正も決して珍しくはないのです。

オフィス系の職場でも、社員が出入り業者からリベートを受け取ったりすることも少なくありません。

最初は小事から

 そういう内部事案は実はどの企業も多かれ少なかれ発生し、そして昔も今も変わらない総経理の悩み事なのです。

これらの案件の共通点は、最初はごく小さなことから始まったということです。例えば、トイレットペーパーやボールペンの無断持ち帰りです。それが徐々に頻度が増し量が増え、対象物がパソコンや製品に広がり、結局、手が付けられなくなってしまったのです。「これくらいは大したことはない」という安易な会社の姿勢が遠因となった事案です。

 呻吟語には「君子は小損を重んじる」とあります。小さなことをおろそかにするとやがては大事につながると警鐘を鳴らしています。

トイレットペーパーくらいと安易に放置していると、社員からは管理のぬるい会社だと見られることになります。その結果は場合によっては経営に致命的な影響を及ぼすことになりかねないことを総経理(社長)は知るべきです。

価値観が違う中国で

 日本は小さな島国であることが影響しているのかもしれませんが、どちらかと言えば「性善説」によって運営されてきました。人間を信頼するところが物事の出発点でありました。

 あるとき初めて中国に進出する某著名日系企業に、私の会社が提供する商品を売り込みに行きました。私は、「外部からの侵入対策」と同時に「内部の不正防止対策」の両面で考える必要があると現地における経験値からの説明をしました。

日本とは価値観が異なり、さらに会社への帰属意識も薄いので、自社の社員といえども100%信頼するのは危険であるからです。

その企業の担当の方は、「自社の社員は信頼をしている。悪いことはしない。よって内部対策は不要である」とのお考えであることがわかりました。

 言わば性善説であり日本人として、その考え方はよく理解できますしそうありたいものですが、中国ではそうは言っていられないのが現実です。

中国企業では、経理部門は総経理(社長)の身内で固めていることが多くあります。自社の社員はそう簡単には信用しないぞ、という声が聞こえてきそうな気がします。

性善説で社員に対すると

 「性善説」で考えるとどうしても脇が甘くなり、時として足元をすくわれてしまいます。会社備品の持ち帰りや、製品の横流しなど、不正事案が発覚すれば企業として対応せざるを得ません。つまり規定に照らして免職などの懲戒処分を下さざるを得ないことになります。その結果は、その社員はもとより、家族まで巻き込んでしまいます。

性善説では結果として社員は守れないのです。そんなことを繰り返していては、残念ながら中国現地の会社としての順調な発展は難しいと言わざるを得ません。

 一般的には、現地社員の会社に対する帰属意識はたいへん薄く、自分の利益度合を物事の判断基準としている社員が多い現実を見ると、会社を運営している立場からは、荀子の「人の性は悪、その善なるは偽なり」という「性悪説」にならざるを得ないと言えます。

 しかし、社員なくして会社は成立しませんし、まして社員はある意味で仲間ですから、疑っているだけではとても寂しいことです。この二律背反の中でどうすべきなのか。悩ましい問題ですが、総経理(社長)はこれに向き合わなければなりません。

実は性悪説が社員を守る

 私の会社には監視カメラをたくさん取り付けてあります。

例えば、会社のパソコンで勤務中に遊んだり株取引をしたり、その他の不正を働かれては困りますので、その背後にカメラを取り付けて録画監視しています。これは一見して社員の動向を監視しているように見えますが、実は本当の目的はそれではありません。

 中国古典にある「悪には悪の報い有り」との言葉のとおり、悪事を働くとすぐにばれてしまいますよ、と社員の皆さんに訴えているのです。したがって、不正案件は起きにくくなります。すると結果として社員は解雇されることもなく、そして家族が路頭に迷うこともなく生活ができることになります。つまり、監視カメラは帰属意識の薄い社員達を守っているのです。

性善と性悪のバランス

 中国古典の韓非子には「政を為すは猶お沐するがごとし」という言葉があります。事業者として、性善説によって理想を追求するのは悪いことではないが、現実にも性悪説をもって目を向けないと、すぐに足元をすくわれる恐れがある、との戒めの意味が含まれていると思います。要するにバランスをとった運営、総経理の匙加減にかかっていると言えます。

 日本人の私としては「性悪説」という言葉の響きには少々抵抗があるものですから、社員を守りたいという考えを込めて、あえて「新・性善説」と自分勝手に名づけました。

言い方を変えれば「性善説」と「性悪説」のバランスをとるということになります。両方を包含するイメージです。

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成功のヒント 中国のことわざ・格言

为政猶沐也 / 政を為すは猶お沐するがごとし

◆中国語:为政猶沐也   [wéi zhèng yóu mù yě]

◆出典:韓非子

◆意味:政治とは髪を洗うようなものである。

◆解説:髪を洗えば抜け毛が出るが、だからと言ってずっと洗わずにいるわけにはいか     ない。一方で洗えば新しい髪の成長を促すという利点もある。抜け毛を惜しんで利点を忘れてしまうことはバランスを欠いた考えである。

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人之性恶,其善者伪也 / 人の性は悪、その善なるは偽なり

◆中国語:人之性恶,其善者伪也   [ rén zhī xìng è, qí shàn zhě wěi yě ]

◆出典:荀子(性恶篇)

◆意味:人の本性は悪であり、それが善であることは、人為によるものである。

(人間の本性は悪である。しかし、たゆみない努力・修養によって善の状態に達することができるとする説)

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善有善报,恶有恶报 /  善には善の、悪には悪の報い有り

◆中国語:善有善报,恶有恶报   [ shàn yǒu shàn bào, è yǒu è bào ]

◆出典:缨络经·有行无行品

◆意味:善行、悪行にはどちらもそれなりの報いがある。因果応報。

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君子重小损 / 君子は小損を重んじる

◆中国語:君子重小损   [ jūn zǐ zhòng xiǎo sǔn ]

◆出典:呻吟語

◆原文:君子重小损矝细行防微敝(君子は小損、細行を矜み、微敝を防ぐ)

◆意味:優れた人は小さな損失を重視し、些細なことでも慎重に行動し少しの綻びも防ぐ、との意。「これくらいはいいだろう」という緩みがやがては大事になるとの警鐘。

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