【抜苗助長】という中国のことわざ 苗を無理に引っ張ったら悲劇が…

日光にて(2014年4月)

「グループ会社として似ても似つかぬ会社だ」と。私の前任者は、設立されて以来6年を経過した大連の現地法人のことをそう言ってのけた。しかしなぁ…

社員の思いとかみ合わない不幸

 上海の現法で総経理をしていた私に本社から突然の転勤命令が。想定外のことで不本意でもありましたが本社命令ですからやむを得ません。少々憂鬱な気持ちを引きずりながら引き継ぎのために大連の現地法人に出張しました。

 

 初めて訪れた大連の現地法人のオフィスで事務引き継ぎの最中に、私の目の前で前任者と現地社員が言い争いを始めたのです。いやしくも会社のトップである総経理(社長)の引き継ぎ中の考えられない出来事。いったいどういうことなのか?

 その前任者は着任後わずか8カ月。その間にずいぶん荒れた社内になった、と事前に聞いていました。社員の心も相当すさんでいるようで、この不穏な雰囲気は想像以上でした。

 彼の本社宛のリポートには「大連はグループ会社として似ても似つかぬ会社だ」とありました。現地社員と前任総経理の心はまったく通い合っていなかったようです。

流水の清濁はその源に在り

 この会社が設立されて以来、日本本社から派遣された日本人社員が総経理を担っていたのですが、会社立ち上げ時から対外対応などの必要性から、経営やマネジメントは事実上中国側に委ねられていました。
つまり、日系企業であるにもかかわらず、運営は中国式でなされていたという実態があったのです。

 設立後約5年を経過したころに総経理が交代しました。件の二代目総経理は日本国内の運営経験しかなく、中国の実情にはまったくと言っていいほどわかっていない日本人社員でした。その彼が着任して目の前の現実を見て、“似ても似つかぬ会社”と感じたのだと思います。

 何とかしなければ、と前任者の彼は、「グループ会社としてあるべき姿」を声高に現地社員に訴えたのだと思います。

 しかし、現地社員は一度も日本に行ったことのない社員ばかりで、わが社の「あるべき姿」とはどのような「姿」なのか想像もできません。ただ一つ言えることは、社員達は会社立ち上げから約5年間、初代の総経理のもとで中国側の経営幹部から、言われたとおりに行ってきただけのことです。

 中国古典には「流水の清濁はその源に在り」と、流れる水と同じように組織のトップの言動の良し悪しが清濁を決定するのであるから、トップの人は自分でチェックすべきであることを説いています。

 似ても似つかぬ会社にしてしまった原因は、少なくとも彼の眼前の一般社員には無いはずです。にもかかわらず責任を一般社員に求めるのは少々酷な話であると私は思います。

自らを以て是とする

 たった5年とはいえ現地社員達と築いてきた歴史があるはずです。それがグループ会社らしくなかったのであれば「らしく」改造に着手しなければなりません。

 「本来の姿」とはどんなものかを、現地社員に理解させる努力をすべきであったと思います。それは設立間もない現地会社において、グループ会社として本来の姿を知っている日本から派遣された総経理(社長)にしかできないことです。

 会社を早く大きくしたいという熱い気持ちは、赴任者であれば誰しも強く持っています。しかし、それはひとつ違えば単なる独りよがりになってしまいかねません。

 荀子は「自らを以て是とする」と言っているくらいですから、中国でも古くより独善的な人が少なくなかったのでしょうね。

長ずるを助けんとして苗を抜く

 日本で経験してきた自分の頭の中にしかない「あるべき姿」を、現地社員達に一方的に押し付けてしまったところに前任者の焦りがあり、失敗の原因となったのではないでしょうか。

 可哀そうなのは、わからないことを一方的に押し付けられ、「何だこれは…。話にならないじゃないか…」と頭ごなしに怒られていた地元の一般社員達です。

 もちろん彼は責任者として、会社を早く大きくしたいという気持ちを、他の誰よりも強く持っていたからこその結果だと理解できるのですが…。

 「長ずるを助けんとして苗を抜く」とは孟子が残した格言です。苗を早く伸ばそうと思うあまり引っ張ったら、肝心の苗が枯れてしまった、という故事です。何事も功を焦っては失敗の元となります。

 現地社員の心の内はどうなんだろうかと思うとやるせない気持ちになりました。ひょっとしたらこの問題を解決することが、自分に与えられた使命かもしれないという思いが、事務引き継ぎを進める中で徐々に鮮明になっていきました。同時にその思いは着任後の会社運営の方向性も示唆してくれていたのです。 

「成功を収めるための重要ポイント 現場目線で見たツボ」 はこちら

成功のヒント 中国のことわざ・格言

拔苗助长 / 長ずるを助けんとして苗を抜く 

◆中国語:拔苗助长   [ bá miáo zhù zhǎng ]

◆日本語表記:抜苗助長

◆出典:孟子

◆意味:苗を引っ張って早く伸ばそうとしたところ、苗が枯れてしまったという物語。功を焦って誤った方法をとると必ず失敗するということ。

»本文に戻る

 

自以为是 / 自らを以て是とする

◆中国語:自以为是   [ zì yǐ wéi shì ]

◆出典:荀子·荣辱

◆意味:原文は「凡斗者必自以为是」で、総じて争うことが好きな人は、必ず自分だけが正しいと考えている。独善的、独りよがりの意。(それでは成功はおぼつかない)

»本文に戻る

 

流水清浊,在其源 / 流水の清濁はその源に在り

◆中国語:流水清浊在其源   [ liú shuǐ qīng zhuó zài qí yuan ]

◆出典:貞観政要(誠信)

◆意味:流水が澄んでいるか濁っているかは源の良し悪しにかかっている。「源」とは組織のトップ。トップが善ければ部下もまっとうになる。部下のことをとやかく言う前に自分のことを反省すべきである。

»本文に戻る

「現場目線で読み解く 中国のことわざ・格言」はこちら

Follow me!