【因小失大】 何でもありの中国 屁の突っ張りにもならないものとは…

 例えば片側三車線の道路の信号機のある交差点。赤信号で停車中に少しの隙間があると後続車が割り込んできて4列に並ぶことがあります。そして青信号になると用意ドンでスタート、後から来た車が先頭を走っているのです。

 はたまた、同じ銀行でいくつでも口座を開設ができますし、その場でキャッシュカードがもらえます。

そんな環境で競争して勝ち切ることはできるのでしょうか?

小に因りて大を失う

 企業で何かの問題が発生すると経営者が記者会見を行い、頭を深々と下げ謝罪することが多い日本の社会。その謝罪の仕方がよかったとか悪かったということまで、テレビのワイドショーでコメントされます。

 しかし、誰しも謝罪なんかしたくないので、企業内で問題が発生しないように事前の対策をあれこれルールとして定めています。コンプライアンスを強く求めるのもそのひとつの表れだと思います。

 「何でもあり」の中国でも法令は遵守すべきですし、コンプライアンスは必要だと思いますが、日本とは大きく異なる環境にある中国現地子会社に対しても、まったく日本国内のそれと同じレベルでコンプライアンスの遵守を要求してきます。

 日本国内と同じレベルのものを要求するのは如何なものかと思わざるを得ません。中国で日本標準のルールを厳格に守っていては、勝負に勝てっこありません。

 中国古典のことわざに「小に因りて大を失う」とあります。小さな利益のために大きな利益を失うというのです。日本国内においてのコンプライアンスは「小」どころか、今や企業存続をも危うくする「大事」です。しかし中国においては、コンプライアンスというものは「屁のツッパリにもならない」と言えると考えています。もっと言えば、会社発展の邪魔になるとさえ言えます。

活力を削ぐコンプライアンス

 ひょっとしたら、コンプライアンスの厳格な要求は海外現地会社の活力を減退させている側面もあるように感じます。日本とは習慣も法律も違う環境で、日本と同様のコンプライアンスを実行することは、現法にとって何の意義があるのか、というのが私の率直な思いです。

 とはいうものの中国現法は本社と連結関係にあるという現実がありますので、コンプライアンスを否定することはできません。日本本社からのコンプライアンスを遵守せよとの指示を無視することは、サラリーマン生命が奪われることになりかねません。日本本社からの派遣出向社員にとっては、本社は殺生与奪の決定権を持った怖~い存在です。

 ということで、現地会社を大きく発展させることに重きを置いている駐在社員は、現地の環境と日本本社の狭間で悩んでいるのです。駐在期間を無難に過ごして帰国することだけを考えている人にはそんな悩みは無縁です。

遠交近攻

 国家体制も習慣も違う海外にあっては、自ずとルールの尺度は日本とは違いますが、日系企業である限りコンプライアンスは必要であると言わざるを得ません。

 一方で眼前に広がる現地の膨大なマーケットの開拓という難題との間で、どのようなスタンスで臨めばよいのか。そのヒントは中国の兵法三十六計にあります。その二十三番目にあるのが「遠きと交わり近きを攻める」という策略です。

 油断していて背後(日本本社)から鉄砲の球が飛んできてはひとたまりもありません。その意味では駐在する総経理(社長)にとって本社はある種の「敵」とみなすことができます。

 その「敵」はとにかく強大で、一駐在員がやり合って勝てるわけがありません。ですから日本本社とは適度なコミュニケーションを保ち、後顧の憂いを減らして、目の前にある中国マーケットを攻めるという戦略です。

 日本本社側は現法に勝手なことをされて、万が一にでも謝罪をしなければならないことが起きてはたいへんと心配しています。ですからコンプライアンスの厳守などで現地に送り出した総経理(社長)を押さえ込もうとしているのです。

 中国の詩経にある「未だ雨せざるに綢繆せしめよ」と準備の大切さを説いています。言うならば「転ばぬ先の杖」といえる予防線を張っているというところでしょうか。

総経理の匙加減

 本社から派遣され総経理(社長)を張っていても所詮はサラリーマン。どんなに大口をたたいたとしても、そんなに無茶なことをする度胸はありません。

 「何でもあり」の中国であっても、超えてはならない一線を超えてしまうと、国内企業と何ら変わらないことになり、外資企業としてのアイデンティティはなくなってしまうことは理解しています。

 本社が要求するコンプライアンスを念頭に置き、目の前のことに対して正否を判断する基準を肌感覚で理解しています。担当する地域で自分の実力と自分が持つ人脈との見合いで、どの程度までなら自身で対処できるか、という基準を持っています。大きな問題を発生させて、日本の本社の偉い方に謝罪会見をさせるわけにはいかないのですから、大それたことはできません。

 つまり、本社はそう心配することはないのです。ですから本社が自ら現地に派遣した社員を信頼する勇気を持て、と強く言いたいと思います。

 そして現地会社におけるコンプライアンスの運用については、「便宜に事を行う」と漢書にあるように、総経理(社長)に委ね、いちいち本社のことを気にせず自分で判断し適宜に処置をするのがよいといえます。

成長の肝は

 担当する現法としてのすべての責任を総経理が持ち、腹をくくって現場のマーケットを見据えて、現地の仲間社員と一緒に努力をすることこそが成功の要点です。今までの経験と中国という環境の中で自分が身につけた「行動規範」こそが、事業成功の秘訣であると信じます。

 そうであるならば、海外現地で市場を拡大し成功発展させるための肝は日本の本社ではなく、現地の責任者にあるといえます。

 本社から現法責任者として派遣された総経理(社長)は、運営のすべてに腹をくくって臨むべし。これが私にとっての「是」です。

 今の日本本社は「誰も責任を取らなくてもすむ」というような風潮が漂っています。「責任を持つ」という意識は今は現地会社に息づいているのです。

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成功のヒント 中国のことわざ・格言

远交近攻 / 遠きと交わり近きを攻める

◆中国語:远交近攻   [yuǎn jiāo jìn gong ]

◆日本語表記:遠交近攻

◆出典:兵法三十六計(第二十三計)

◆意味:遠くの相手と手を結んで近くの敵を片付けるという策略。

◆背景:范雎は魏の国に仕えたが、異心があると疑われて、秦の国に逃れ、昭襄王に対して「遠交近攻」を説きました。すなわち、遠い国と同盟を組んだうえで、隣接した国を攻めれば、その国を滅ぼして領地としても、本国から近いので守り通すことが容易である。この方策に感銘を受けた昭襄王は范雎を宰相にして国政を任せました。

遠い斉や楚と同盟し、近い韓、魏、趙を攻めた秦は膨張を続け、やがて六国を平定して大陸の統一を成し遂げることになりました。

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因小失大 / 小に因りて大を失う

◆中国語:因小失大   [ yīn xiǎo shī dà ]

◆出典:漢代劉昼(新論贪爱)

◆意味:芝麻(胡麻)を選び西瓜を失う、というのが語源。小さな利益のために大きな利益を失うことの例え。

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未雨绸缪 / 未だ雨せざるに綢繆せしめよ

◆中国語:未雨绸缪   [ wèi yǔ chóu móu ]

◆出典:詩経(豳风·鸱鸮)

◆意味:雨が降らないうちに窓や戸を修繕する、との意。まずよく準備してから事を行うのがよい。転ばぬ先の杖。

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便宜行事 / 便宜に事を行う

◆中国語:便宜行事   [ biàn yí xíng shì ]

◆出典:漢書(魏相传)

◆意味:指示を仰がず自分で判断して適宜に処置する。臨機応変に処理する。

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