中国現法の総経理 ふさわしいのはどっち… 【国を窃む者は候たり】とあるが

青鷺 何を考えているのか見る人によって違うはず (大阪府 2018年11月)

若かった頃の話。私の同僚が「君は風見鶏みたいだ」と揶揄されたことを話していました。風が吹いてくる方向を敏感に感じとり、巧みにそれに合わせる能力にたけている、と冷やかされたというのです。でもね…

 

中国では船の舵

 中国では「風に随いて舵を転す」ということわざがあり、風向き次第でどっちにもなびくという意味の、人を貶す言葉で日本の「風見鶏」と同じ意味です。

 確かに風見鶏は風の吹いてくる方向をいつも向いています。しかし見方を変えれば、向かい風に立ち向かっているとも言えます。向かい風もそよ風の時もあれば台風のような強烈な向かい風もあります。「風見鶏は逆風に果敢に立ち向かう勇敢な心を持っている」と私は言ってやりました。

 見た目では同じことでも、見方によってはずいぶん異なることが少なくありません。
例としてはふさわしくありませんが、中国には「鉤を窃む者は誅せられ、国を窃む者は候たり」ということわざがあります。「鉤」とは古代の帯留めのこと。と言っても中には黄金でできたのもあるそうですが。いずれにしてもそんな小さなものでも盗めば処刑されるが、国をひとつ盗んだら大名に召し抱えられる。矛盾していますがそれが現実というもの。

 まん丸の円の線上に立ち前を向いて歩みを進め、元の場所から一番遠いのが359度回ったところ。しかし、元の場所に立って回れ右をするとさっきは最も遠い地点であった359度の位置は目の前にあるのです。ほんのちょっと見方考え方を変えるだけでまるで違う景色が広がります。

 

成功するのはどっち

 現地会社の総経理(社長)といっても、日本本社から派遣されるケースもあれば、現地人を抜擢し総経理とする場合もあります。元来、前者はたまには成功する、後者は必ず失敗する、というのが現地での経験を踏まえた私の持論でした。

 日本本社から派遣されて総経理を張っている場合は、どうしても本社のことが気がかりになります。そりゃそうです、本社から首根っこを掴まれているのですから。その結果、言わば縮こまってしまいせいぜい現状を維持するだけ、何の面白味もありません。事業の拡大という観点からはほど遠い結果にしかなりません。

 一方、現地の優秀な人材をスカウトしたような場合には、日本本社の意向など比較的気にもとめず、握った権力を武器に自分の考え方ややり方で進むことになります。しかし、自分の利益を優先するため会社の進む方向が少しずつずれてくることが少なくありません。ある現地人営業責任者は売り上げが目標に届きそうにない時に、会社の業務範囲にはないカラオケセットを売ろうとしたことが実際にありました。もちろん止めさせましたが…

 

総経理は日本人か現地人か

 日本から派遣された総経理であっても本社の方は向かずに、目の前にいる地元社員とマーケットのことを四六時中考え行動すれば成功確率は高くなります。現地のことを最も理解しているのは日本本社ではなく、現地に駐在している総経理ですから日本本社を気にせず、思い切ってマネジメントすればよいと思いますが、なかなか…

 しかし、本社が派遣しておきながら、不思議なことですがあまり信用していないようです。もしも現地でしくじったら本社に悪い影響が及ばないか心配して、任しきれないのかもしれません。古代の中国には「人を疑いては用いること勿れ、人を用いては疑うこと勿れ」とのことわざがあるのですが…

 一方で、現地でヘッドハンティングされ抜擢された現地人の総経理。元々私が作った支店を日本本社がリードして独立会社に改組。その新会社総経理に彼が招聘されようとしていました。私は猛反対したのですが本社の力に勝てるわけがなく、彼が総経理になりました。

 ところが、その彼は総経理として日本本社を気にせず、且つ許容範囲をはみ出さず、伸び伸びとしたマネジメントを行い、結果は大成功。まったくの予想外の大活躍でした。縮こまって足を前に踏み出せない日本人総経理をよそに大きな成果を出したのです。

結局、総経理の任に就く人の国籍が問題なのではなく、その人の能力、適応力の問題であるということではないでしょうか。

責任を取らない

 それにしても、日本本社は自らが派遣した日本人総経理のことはあまり信用しないようですが、現地人の総経理のことは全面的に信用する、という不思議。日本人総経理に対して日本本社はあれやこれやと細かいことを言ってきますが、彼らにはそれがありません。気に入らなければ代えたらいい、と私はいつも言っていました。

 そんな中で、最も気になるのは問題があっても誰も責任を取らなくても済んでいるように見える風潮です。例えば、現地会社で日本人総経理のマネジメントに起因して、問題が勃発し社内で騒ぎになり、やむなく総経理を帰国させてもちゃんとしかるべき地位に就いていることがあるようです。
結局本人も本社の部門もみんな無傷。責任を取らない責任者、こんなのでいいのだろうかと思います。

 中国古来のことわざには「天下の興亡、匹夫に責有り」と。国の興亡という大きな問題であっても一般市民に責任の一端があるというのです。ましてや現地を会社を統括する本社経営部門においては責任を取ることは当然のことであり、だれも責任を取らなくても済むなど考えられないことです。いつの間にこんなことになったのでしょうか。稟議制度の曲解が遠因となっているのかもしれません。

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成功のヒント 中国のことわざ・格言

随风转舵 / 風に随いて舵を転す

◆中国語:随风转舵  [ suí fēng zhuǎn duò ]

◆出典:施耐庵(水浒传)

◆意味:風に従って舵を変える。風見鶏。転じて、風向き次第でどちらへでもなびく、との貶し言葉。

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疑人勿用,用人勿疑 / 人を疑いては用いること勿れ、人を用いては疑うこと勿れ

◆中国語:疑人勿用,用人勿疑   [ yí rén wù yòng,yòng rén wù yí ]

◆出典:金史(熙宗本纪)

◆意味:疑いがある人は用いてはならない、一旦用いたならば疑ってはならない。(もちろん頭では理解できますが、これを実行するには上の人の勇気と責任感が必要です)

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窃钩者诛,窃国者侯 / 鉤を窃む者は誅せられ、国を窃む者は候たり

◆中国語:窃钩者诛,窃国者侯   [ qiè gōu zhě zhū qiè guó zhě hóu ]

◆出典:庄子(胠)

◆意味:帯留めを盗めば死刑に処せられるが、国を盗めば諸侯として封土を受ける。不合理な現実の矛盾を例えた言葉。

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天下兴亡,匹夫有责 /  天下の興亡、匹夫に責有り

◆中国語:天下兴亡,匹夫有责   [ tiān xià xīng wáng, pǐ fū yǒu zé ]

◆出典:日知录·正始

◆意味:国家存亡といっても一般人にも責任がある、との意。

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