【先入為主】とは中国のことわざで先入観のこと 私 これが原因で…

 中国のある現地法人の総経理(社長)の候補者であった彼。彼はついこの前までは中国の地方政府に勤めるお役人でした。彼の直属の上司が不正に組したのではないかとの嫌疑により失脚。縦社会の中国では「親亀がこけたら子亀もこけた」となり頼みの綱がきれてしまいました。

 将来の希望の灯が潰えたと感じた彼は下野する道を選択した。当時は単なるがさつ者。日系企業の代表者としてのきめ細かさは微塵も感じられません。現地の日系企業の経営責任者としてヘッドハンティングする対象者としては、最も遠いところにあると私には思えました。

咄咄怪事

 私は以前より仕事の関係で現職の時の彼をよく知っていました。また、元来お役人というのはつぶしのきかない人達が多く、民間企業にはそぐわないと考えていました。ですから、グループの中国東北エリヤにある現地会社の総経理(社長)候補者であると知った時には、彼をよく知る者として私は猛反対しました。

 一般的に言っても、中国市場を開拓するために現地に会社を立ち上げ、経営は現地人材に任せるのが得策と考える日本側本社経営層は多くいます。中国市場を理解している、現地に人脈がある等々もっともな理由を持ち出すのですが、その考えはいささか早計にすぎます。

 最初はなかなかの滑り出しでよいのですが、それが続かないことが多く、だんだん変形し社内にも問題が溜まってきます。途中からは「外資の看板を上げたローカル会社」になってしまうことになります。そんな失敗作がどれだけあったことか。

しかし、日本側は「現地化」方針により彼を総経理に任命することに決定しました。その時、これで(その現法は)終わった、と私は思い溜息が出ました。

ところが思いもしないことが…

結論から言うと彼の起用は大成功。グループ各社が伸び悩む中、彼が担当した現法は順調な成長を続けました。中国には「咄咄怪事」という思いがけない奇々怪々のことを意味する言葉がありますが、私にとってはそうとしか思えない状況が出現したのです。

孤軍深入

 彼が総経理(社長)として入社した時には、幹部社員達は入社後すでに5年ほど経過しており、業務に対しては彼らの方が圧倒的に精通していました。

そんな環境でも彼は会社理念や商品について懸命に学んだに違いありません。社内ではいつの間にか幹部社員を指導するほどツボを押さえていました。

何の支援もない中で孤軍奮闘し深く入り込んでいたのです。

強力に推薦してくれた中国側の出資者に対するメンツもあったことは否めませんが、大したものだと感服しました。

先入観の錯誤

 「先入の語を以て主と為す無かれ」と中国の格言にあります。先入観にとらわれてはならないことを戒めているのですが、私自身が先入観にとらわれていたことを恥じ入りました。自社の部下社員には先入観を持ってはならないと指導しながら…

 これほどの成功を収めるとは思ってもいなかった私は、当初、猛反対したことを詫び、その後の活躍をうれしく思っていることを直接彼に会って伝えなければと思い立ち、彼のもとを訪問しわだかまりを解消することができました。何人かの社員と接し、彼は社員が働きやすい環境を作り、もって業績の向上を目指していることがよくわかりました。私の考え方と共通するところがいくつもありました。

 

不作為の総経理

 彼は就任後日本本社をそれほども気にせず、それでいて基本理念は守りつつも新しい独自策を打ってきました。私は柔軟思考をすることではだれにも負けないと自負していましたが、彼には大きく凌駕する斬新さがありました。

 与えられた枠の中でしか物事を考えない、冒険なんてとんでもないと思っている、不作為の日本人総経理が多い中で彼の存在はひときわ光ります。

日本人は何年かしたら日本へ帰ります。だから失点をしないように考える。中国人総経理である彼は如何にして得点を挙げるかを考える。彼には逃げ帰る場所はないのです。

 中国古典には「国は賢を任じ能を使うを以て興る」という格言があります。賢明で能力のある人を任用すれば国は栄えるとの名言です。何もしない日本人総経理と彼のように周囲にある他社や日本本社にとらわれず施策を実行するのと、どちらをとるか? 会社にとっても同様で人種や国籍は何の関係もないことがわかりました。

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成功のヒント 中国のことわざ・格言

先入为主 / 先入 主となる

◆中国語:先入为主   [ xiān rù wéi zhǔ ]

◆日本語表記:先入為主

◆出典:漢書(息夫躬传)

◆原文:无以先入之语为主(先入の語を以て主と為す無かれ)

◆意味:「先入為主」とは、先入観や固定観念にとらわれること。原文では、先入観にとらわれて後から聞いた別の意見を聞き入れないようになってはならないと、先入観を持つことを戒めています。

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孤军深入 / 孤軍にして深入す

◆中国語:孤军深入   [ gū jūn shēn rù ]

◆出典:周书(贺若敦传)

◆意味:孤立無援の軍隊が敵陣深くに入り込むこと。孤軍奮闘と同義。

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咄咄怪事 / 咄咄怪事(とつとつかいじ)

◆中国語:咄咄怪事   [ duō duō guài shì ]

◆出典:宋・杨万里(明发栖隐寺)

◆意味:咄咄とは驚きいぶかる声。おやまあ!と考えられないことを表す。けなす意味合い。奇々怪々なこと。奇怪千万なこと。

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国以任贤使能而兴 / 国は賢を任じ能を使うを以て興る

◆中国語:国以任贤使能而兴   [ guó yǐ rèn xián shǐ néng ér xìng ]

◆出典:王安石(興賢)

◆意味:国というものは賢明で能力のある人を任用すれば栄える。この後に「弃贤专己而衰」(賢明な人を棄てて自分勝手な人であれば国は衰える)という言葉が続いています。会社も同様で繁栄するか否かは、その会社の代表者である社長(総経理)にかかっているといえます。

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