中国のことわざに【順手牽羊】 ノウハウを獲得したら頃合いを見て…

有名チェーン店の加盟店として繁盛していたとあるコーヒーショップ。突然改装工事が始まったと思ったら今までの看板を下ろし、似たようなロゴを掲げて営業を再開。

そんな光景は中国ではそれほど珍しいことではありません。
その裏側には何があるのでしょうか…

得寸進尺 欲望は止まるところ知らず

最初は件の有名店の看板と店舗経営ノウハウを生かして始めたはずですが、経営が順調に進んでいくと売上高に応じて支払わなければならないロイヤリティが不条理と思えてくるようです。あるいはもったいないと。

商売が軌道に乗り儲かりだすと、そう感じるのは人間として仕方がないことだともいえるといえます。
老子は「得寸進尺」と人間にとって欲望は止まらないと言っています。つまり、それは至極当然のこととして考えねばなりません。

 

母屋を取られる

ロイヤリティを得ることを事業の柱の一つとしている企業においては、フランチャイジーが途中で離脱しノウハウが流出することは、織り込み済みであるのかもしれません。

しかしそうではない場合、例えば自社の社員、それもノウハウを体で理解しているベテラン社員が退職をするに至っては少し事情が異なります。

もちろんそういったケースでは、守秘義務を課す文書を取り交わしはしますが、実効性は疑問です。

一般的には帰属心が薄い彼らに退職後の遵法は期待できません。「上に指示あれば下に対策あり」という社会に生きてきた彼らにとって、会社を辞めてからの守秘義務への対応などは何の造作もないことだといえます。

それに、仮にも彼らとの間でもめ事が発生し、それを係争したところで日系企業対一個人という構図からは残念ながら勝ちは到底望めそうにありません。

結局、いつの間にか「母屋を取られる」ことになってしまいます。中国古典には「喧宾夺主(喧賓奪主)」と声の大きなやかましい客が主を圧倒する、と主客が転倒することを言っています。

追い求める起業の夢

我が社でも10年選手のある幹部社員が会社を辞めたことがありました。信頼をしていたベテラン社員であっただけに慰留しようと思い、直接話を聞いたときのことです。

長年の夢であった起業を目指したい、家族にももっといい暮らしをさせてやりたい、と彼は言いました。若い中国人の多くが無一文であっても「白手起家」と将来の成功を夢見ているのです。

そして、我が社とは競合しないとの彼の言葉を信じてそれ以上の慰留をしませんでした。信頼していた故に守秘義務契約もしませんでした。しかしその後、彼は我が社と競合する起業をしたのです。

結果としては、似たようなものは作れますが、「心」までは盗むことはできません。わが社を脅かすほどのことにはなりませんでした。

老獪な経営者に

中国の兵法三十六計の第十二には「顺手牵羊(手に順いて羊を牽く)」とあります。これは事のついでに人の物を黙って持って行くことを例えた言葉です。こんな卑怯とも言える兵法などあるのかと思いますが、実は正々堂々などというのは日本国内だけの話。いかにすれば勝てるかを常に考えている社会なのです、ここは。

自社の中でこのようなことがあったとしたらたまったものではありません。しかし1500年も前からずっと常用されてきた言葉なのです。

つまり、会社を経営し運営している幹部は、このようなことが自社内でも起きるであろうことを前提にして、マネジメントを行い自社の防衛を考えるべきだといえます。

 

日本の本社から派遣された場合、或は自身で一念発起、現地で起業した場合、立場は違っても持てる力を出し切って成功に向かってまっしぐら。そんな気持ちはよく理解できますが、只先頭に立って猛進するだけでは、思いもしなかったことが起きた時にたちまち頓挫してしまいかねません。一筋縄ではいかないのが中国。「老奸巨猾」という少々語感のよくない言葉が中国古典にあります。人から老獪な奴だなどといわれるくらい海戦山千の経営トップでありたいものです。それはある意味誉め言葉ではないでしょうか。

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成功のヒント 中国のことわざ・格言

喧宾夺主 / 喧しい賓客、主を奪う

◆中国語:喧宾夺主   [ xuān bīn duó zhǔ ]

◆日本語表記:喧賓奪主

◆出典:清 阮葵生(茶余客话)

◆意味:客の声が主人よりも大きく圧倒している。よそから来た事物が、元々あったものの位置を占めることの例え。主客転倒。軒を貸して母屋を取られる。

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得寸进尺 / 一寸を得、一尺を進まんとす

◆中国語:得寸进尺   [ dé cùn jìn chǐ ]

◆日本語表記:得寸進尺

◆出典:老子(道德经)

◆意味:一寸進んだら次は一尺進もうとする。欲望が止まるところを知らないことの例え。

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白手起家 / 素手で家をなす

◆中国語:白手起家   [ bái shǒu qǐ jiā ]

◆出典:谢觉哉(一支不平凡的生产队伍)

◆意味:無一文から事業を起こすこと。

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顺手牵羊 / 手に順いて羊を牽く

◆中国語:顺手牵羊   [ shùn shǒu qiān yang ]

◆出典:兵法三十六計

◆原文:微隙在所必乘;微利在所必得。少阴,少阳。

◆意味:敵の統制の隙を突き、悟られないように細かく損害を与える。小さくても隙を見つけたら必ずそれに乗じて、小さな利益をも獲得する。

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老奸巨猾 / 老奸巨猾

◆中国語:老奸巨猾   [ lǎo jiān jù huá ]

◆出典:资治通鉴唐玄宗开元二十四年

◆意味:世故にたけ老獪この上ない。海千山千であること。

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