中国では個人主義が主流 時には自己中と映る いいじゃないかそれで

中国・遼寧省の省都である瀋陽市に支店を出して2~3年たった頃。瀋陽支店の次期責任者と目された優秀な社員から突然、退職の申し出がありました。本人と面接し、退職理由を聞いて感動してしまいました。しかし…

家庭の計は和にあり

彼は瀋陽現地で採用した社員で流暢に日本語と韓国語を話します。つまり3か国語を操るとても優れた社員で、将来を期待していました。彼が言うには、「若いころに兄から学費などの援助を受けた。そのおかげで今の自分がある。その兄が、独立し飲食店を開業することになった。今度は、自分が兄を助けなければならない。よって退職したい」と。

家族にとって最も貴重なものは家族同士の中が良いことである」と古くからの格言にあるように、概して、中国人は親や兄弟など家族思いの人が多い。日本人以上に家族を大切にしているように思います。

彼の場合は、加えて、若いころに受けた恩をやっと返せる境遇になった今こそ、恩に報いるときであるとの強い思いが感じられました。

彼の兄を思う気持ちと、恩返しの義理堅い考えに私は思わず感動し、励ましとともに成功を願って彼を送り出すことにしました。

往者不追

そして、その約2カ月後、彼からの突然の電話。「今、○○という外資系の保険会社で仕事をしている。総経理(私)にも保険をおすすめしたい」との営業のアプローチ。

「…?」私は暫し絶句。ようやく、事の次第をおおよそ理解できました。

彼の退職理由の説明を真に受けた私は、退職は会社と社員との間の労働契約を中途解約することに他ならない、ということをすっかり忘れてしまっていたのです。

 

中国では会社と従業員が労働契約を書面で結ぶことが義務付けられていています。社員が自主退職する場合、会社が社員を解雇する場合、いずれの場合も事務的には労働契約を解約することを意味します。その場合には、もちろん労働契約を解約する相応の理由が必要です。間違っても、他社の方が給料が高いから、なんてことを退職理由にすると、場合によっては違約金を会社から取られかねません。(私は、会社側から違約金を請求したことはありませんでしたが)

辞める社員側はそこのところをよく考え、そんなことにならない退職理由を考えるわけです。彼の場合は、件のお涙頂戴の“理由”でありました。

 

個人で起業するという夢をかなえるために辞めた社員、勉強に専念するといって辞めて、2倍の給料を出す会社に行った社員など、実はその手の話はいくらも例があります。

ひどい場合は新しい会社との契約を済ませた後で退職を申し出てくるケースもありました。理由は別にして、彼らが退職を申し出た時には既に心を決めた後。“往者不追”とは往く者は追わないとのことわざのとおり、翻意するのは難しく無理な慰留などはしませんでした。

徒労無功

仕事をするときには、普通の社員であれば会社側の言うことをハイハイと聞いています。が、それは表面的に合わせているだけ。実際には、彼らは自分のことを一生懸命に考えているのです。自分が有利になるように。

 

そして、他に条件の良い働き口を見つけたら、いろんなことを言いながら退職していく。人の期待や都合などお構いなしで、さっさと辞めていきます。

それを見ると、何と個人主義で自己中なのかと呆れます。それでも個人主義はよくない、とばかり、社員に日系企業で働いているのだから、日系企業の社員らしく、個ではなくチームワークで競争に勝とう、皆で団結しよう、などと考えたくなります。

 

中には、実際に団結できる社員に変えようと説教を繰り返す日本人総経理も。しかしそれは残念ながら“徒労無功”、つまり無駄骨折りというもの。

数千年の長い歴史の中で培われてきた考え方を、突如やって来た一人の日本人が変えられるわけがないというものです。

個人主義でいいじゃないか

ではどうすればよいのか。

自己中の社員は中国人からも嫌われる。ならば、個人主義はどうか。日本人から見ると、個人主義も悪い。でも、悪い悪いといっても実は何も変わらない。であれば、持てる力を発揮するのであれば個人主義でいいじゃないか、と考えた方が現実的です。

 

大事なことは、個人主義に負けない論理と対抗施策を総経理はしっかりと考え、マネジメントする。中国ではそれをしない管理者の方が悪い。

 

日本人は例えば二人が団結して1+1=2プラスαを求める。中国では、強大な力を持つ二頭の龍をリーダーが直接管理して、相応の答えを出す。いわば、「個」を前提にして物事を考えるのが中国。中国でのマネジメントは日本国内でのそれとは明らかに違う。

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中国ビジネスの成功を勝ち取る ことわざ・格言

一家之计在于和 / 家庭の計は和にあり

◆中国語:一家之计在于和   [ yī jiā zhī jì zài yú hé ]

◆出典:增广贤文

◆原文:一年之计在于春,一日之计在于晨;一家之计在于和,一生之计在于勤。(一年の中で最も肝心な時間は春である。一日の中で最も大事な時間は明け方である。家庭で最も貴重なものは仲が良いことである。人が生涯で成功するために最も重要なものは勤勉であること。)

◆意味:肝心な時間や肝心なものをつかみ、大切にすることで、成功することができる。家庭であれば家族仲良くすることが何よりである。

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投我以桃、报之以李 / 我に投ずるに桃を以てすれば、これに報いるに李を以てす

◆中国語:投我以桃、报之以李   [ tóu wǒ yǐ táo, bào zhī yǐ lǐ ]

◆出典:詩経(大雅·抑)

◆意味:略して「投桃报李  」ともいう。人から桃を贈られたならば、李をもってお返しをする、との意。人から受けた恩は忘れずにいて、お返しができるようになったらお返しをすること。(ついでながら、中国古典には、人に与えた恩は忘れるように、との格言があります)

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往者不追 / 去る者は追わず

◆中国語:往者不追   [ wǎng zhě bù zhuī ]

◆出典:孟子(尽心下)

◆原文:往者不追,来者不拒  去る者は追わず、来るものは拒まず)[wǎng zhě bù zhuī, lái zhě bù jù ]

◆意味:去っていく者は追わずに去るに任せる。(もともとは、後段の“来るものは拒まず”に重点があるように思います。来る者はどんな人であっても受け入れる包容力が強調されています)

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徒劳无功 / 徒労にして成果無し

◆中国語:徒劳无功   [ tú láo wú gong ]

◆出典:庄子(天運)…庄子は中国・戦国中期の道家思想家

◆日本語表記:徒労無功

◆意味:無駄骨を折って効果がないこと。

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