天下の先とならず ということわざ 中国で先頭に立つのは相当やばいかも

人並み以上の実力があるのに、どう見ても力を出し切っていない。いつも、そこそこのところでお茶を濁す。目をかけてやっているのに、この卑怯者と思う、ムカつく社員がいます。

でもね、これ、中国ならではの理由が…。

能力が低くても最後は勝てる条件

私が担当していたのは、小なりとはいえ社員数300人規模の会社。日々、絶対権力の官製企業と市場で戦いながら、どうすれば新規顧客を開拓し、どうすれば業容が大きくなるか、この難題に取り組んでいました。

 

そんな中で気になることが…。

例えば、100の能力があるのにわざと60だけしか発揮しない社員。他方、60の能力しかないが目いっぱい60を発揮している社員。いわゆる「人一己百」ということわざにあるように、人は一回でできることを、自分は百回やればきっとできる。そんな強い意志と努力を続ければ必ず向上できる、と元気づけられます。そうすれば、最終的には能力の優れた強い人になれると中国古典にあります。

 

つまり、人間は持てる力を出し切ることを続けていると、だんだん能力が伸びてくる。すると、能力60の社員はいずれ能力100の社員と肩を並べ、追い越すときが来る。

よって、100の能力を持っていながら出し切らない社員よりも、持てる60の能力を出し切る社員の方が偉いですよね。そんな話を社員に語りかけ、営業パワーの拡大を目論みました。

敢えてトップに立たないことが処世術

しかし、どうにも反応が鈍いし、状況は一向に変わらない。

そこで気がついたことが一つ。中国にある”中流思想“がその根っこにあるのではないかと。

老子は「敢えて天下の先とならず」との格言を残しています。欲望や憎悪が渦巻くこの社会を無事に生き抜くのに必要なもののうちのひとつが先頭に立たないことだと言っているのです。我が我がと人よりも一歩でも前に出でるという考え方が浸透していると思いきや、古来、相反する格言があるのは不思議です。

 

政界や財界に限らず、どの世界でもトップに立つ人には憧れや羨望とは裏腹に、やっかみや妬みを持たれることも多い。そうなれば敵からも身内からも追い落とされる標的にされる可能性が常にあります。だから、そんな危ないことはしない方が得策だという古来の言い伝えです。

そういえば、中国のダントツのトップ女優が突然姿を消したという話題もテレビをにぎわせていました。似たような例はいくらもあります。

中国の長い歴史の中で、先頭に立つのは如何なものか、ということを体で理解しているのかもしれません。しかし、だからと言ってビリでは人からバカにされる。よって、中間にいるのがベストポジションだという中流思想が根付いたのでしょうか。

 

还可以(まあまあ)にも色々

だからと言って、持てる力を出し切らず、先頭に立たないことを、総経理(社長)として「是」とすることはできません。やはり、社員に対しては、自身の力を出し切ることを要求するのが当然です。

一方で、総経理の要求に応えようと努力する社員が出てきたら、彼の成果はたとえ十分ではなくても頑張ったのだから、彼を追い込んでしまってははうまくない。

総経理も、そこそこの成績、十分ではないが一応満足できるレベルということを容認すべきです。いわば60点、80点で可とし以て収めるということです。

中国語で言うところの「还可以  」。まあ、いいか、と。でも、前向き、積極的な「まあ、いいか」です。

社員の能力を向上させるのは誰

頑張るのはいいが、自分のことだけを考え、他よりも頭ひとつ、二つリードすると,周囲の反感を買ってしまい、いずれ足を引っ張られるときが来る、と人は本能的に考えます。

止まるを知れば殆うからず」との格言のとおり、周囲との見合いで「このあたりで」という勘所を心得ているのです。

 

そして、「力を出し切った」という事実を見いだすことができれば、決してヒーロー扱いせず、確かに周囲の中では一番であるというのは相対評価であって、本当の目指す絶対ラインにはまだ距離がある。更に頑張ろう、と励ます。

その繰り返しが、それぞれの社員に新たな可能性を創出してくれることになります。つまり、社員の成長に限界はないということです。

にもかかわらず、リーダーたる総経理(社長)が社員達の成長の芽を摘むようなことがあってはなりません。

 

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中国ビジネスの成功を勝ち取る ことわざ・格言

人一己百 / 人一たびして之を能くすれば、己之を百たびす

◆中国語:人一己百   [ rén yī jǐ bǎi ]

◆出典:礼记·中庸

◆原文:人一能之,己百之;人十能之,己千之。果能此道矣,虽愚必明,虽柔必强

(人一たびして之を能くすれば、己之を百たびす。果たして此の道を能くすれば、愚と雖も必ず明、柔と雖も必ず強なり)

◆意味:人が一度でできる時は、自分は100回努力する。百倍の努力をすればよい。そうすれば、どんなに愚者であっても賢人になれる。どんなに弱者であっても強者になれる。あきらめず挑戦を続けると必ずやり遂げることができるとの励ましの言葉。

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不敢为天下先 / 敢えて天下の先とならず

◆中国語:不敢为天下先   [ bù gǎn wéi tiān xià xiān ]

◆出典:老子(道德经・第六十七章)

◆原文:一曰慈,二曰俭,三曰不敢为天下先 (老子が説いた、世の中を生き抜くのに必要な三点。一つは「慈」、人をいつくしむこと。一つは「倹」、控えめであること。もう一つは「先頭に立たない」こと。)

◆意味:先頭に立てば、そこから落ちることを恐れ、むしろそれを守ろうとして無理をしがちになる。それに、先頭に立つと周囲からは妬まれたりして敵が増える。一方、下の方にいては、ダメ人間の烙印が押される。よって、中くらいの位置でいるのが、余裕があり安定して生きていくことができる。(中流が良い、との意。)

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知止不殆 / 止まるを知れば殆うからず

◆中国語:知止不殆   [ zhī zhǐ bù dài ]

◆出典:老子(第44章)

◆原文:知足不辱,知止不殆,可以长久

◆意味:足るるを知れば辱められず、止まるを知れば殆うからず、このようにすれば長く久しい平安が得られる。

他人のことを顧みず、我を通す生き方は周囲からの支持は得られない。いずれ反感を買うことになる。周囲との折り合いをつけながら進めていけば危ない目に逢うこともない。

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